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最強戦車 マリータンク  作者: 真壁真菜
第三章 起源
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サルベージ

 リンジーが目を覚ますと、チィコが抱き付いて来た。


「よかった! リンジー、心配したんやで」


「お目覚めか?」


「私……どれ位意識を?……」


「心配ない、ほんの数分だ。今、マリーとヴィットの元に向かってる」


 笑みを浮かべたゲルンハルトの顔がアップになると、リンジーは目を輝かせた。


「本当!」


「でもな、お爺ちゃん達がな、サルテンバをな……」


 飛び起きたリンジーに向い、チィコが眉を下げた。慌てて艦橋の窓から見たリンジーは、ふっと笑みを漏らした。その光景は左右の履帯が外され、駆動輪に大きなドラムを溶接している最中だった。


「いいのか?」


「勿論よ。多分あのドラムは巻き上げ機の代わり……この辺りは千メートルを超える深い海だもん、クレーンのワイヤーなんて到底届かないよ」


「そうだな」


 一目で意図を見抜くリンジーの賢さに、ゲルンハルトは嬉しそうに頷いた。


「ゲルンハルト、俺達はクレーンの改造に向かうぞ。沈没、いや、遭難地点の特定を急いでくれ!」


 気を取り戻したリンジーを見届け、イワン達は甲板に向かって走り出した。


_________________________



「じいさん、本当にいいのかよ? 元に戻すの大変だぞ」


「仕方あるまい。この辺りは深いからのぅ」


 作業をしながら涙目のTDは思わず叫ぶが、オットーは平然と言った。当然グリグリ眼鏡を光らせながら。


「ほれ、コンラート。ワイヤーは見つかったかの?」


「早うせんと、現場に付くぞ」


 溶接の火花を散らしながら、ポールマンとベルガーが平然と言った。


「もう無いよ、艦の隅々まで探したんだぜ」


 多くのワイヤーに絡んだまま、コンラートは大きな溜息を付いた。


「これじゃ、半分じゃのぅ」


 葉巻を燻らせるキュルシュナーも、平然と言う。


「だがら、もう無いんだって! 殆どはマリーが持ってたんだよ」


「まだあるぞい」


 オットーは眼鏡を光らせた。


「どこに?」


「あそこじゃ」


 呆れ顔のコンラートを余所に、オットーは眼鏡を光らせ指差す。


「まさか、あれ?」


「そうじゃ」


 オットーが指差したのは、艦載機用のエレベーターだった。当然、ワイヤーを取ると艦載機の出し入れは出来なくなる……それは艦が丸腰になるのと同義だった。


「使え。攻撃機は四機を露天繋止している」


 腕組みしたリーデルも平然と言った。


「四機だけ?」


「それだけあれば、十分だ」


 訝しげに見るコンラートに対し、リーデルは不敵に笑った。


「でも、大変な作業だぞ、私一人じゃ……」


「甲板員を使え、皆手伝うはずだ」


「それに、リンジーも見直すと思うぞ」


 それでも渋るコンラートに、オットーが奥の手を出した。


「任せろ!!」


 勇気百倍! 元気千倍! コンラートは脱兎の如くエレベーターに走って行った。


「単純な奴は使い易いのぅ、カッカッカ」


 高笑いするオットーに、真剣な顔になったリーデルが聞いた。


「水深千メートル……信じてるのか?」


「当然ぢゃ」


 即答するオットーに、手を止めたポールマン達も笑顔を向けた。


「そうか……」


 リーデルも本心は、同じだった。


_________________________



「海底図を出して」


 航路台に広げられた海底図には、所々に海山や海丘が点在していた。潜水艦が沈没地点上に留まっていたので、直ぐに場所の特定に入れた。


「この辺りなら、数か所あるな」


「マリーの限界深度は千メートル。それを考慮すれば、着底地点は更に増えるわね」


「千メートルだって?」


 真剣に意見を交わすゲルンハルトとリンジーの会話に、驚きの声を上げるハイデマンだったが、リンジーは真剣な眼差しを向けた。


「メインブロウタンクの故障でも、ウォータージェットが生きていれば浮かび上がってこれます。それも故障となると、限界深度を越えない様に海山などに着底して救助を待つはずです」


「魚雷は直撃しなくても、水中爆圧で深刻なダメージを与える……」


 ハイデマンは、どうしてもネガティブな思考になった。


「マリーのセラミック装甲は戦艦以上ですから」


 しかし、リンジーは笑顔を向けた……見えない様に手を握り締めながら。


「時間がない、クレーンを降ろして虱潰しに探すのはリスクを伴うな……なんとか、連絡が取れれば位置の特定が出来るんだが……」


「艦のソナーなんて知れてる……深海の物体を捜索するには……」


ゲルンハルトも眉に皺を寄せ、考えを巡らせる。リンジーは頭をフル回転させ、連絡方法を模索していた。


「クレーンって、どうやって引っ掛けるんだ?」


「あなた、見てなかったの? マリーが”手”で掴むわよ」


 腰に手を当てたタチアナが、それでも質問するハイデマンに溜息を投げつけた。


「”手”……そうだ!」


 リンジーの脳裏に、アームで”音波魚雷”を掴んで海に飛び込むマリーの姿が鮮明に蘇った。


_________________________



 リンジーはマイクを引っ掴むと、潜水艦に通信した。


「ヴォルクガング艦長! お願いがあります」


『何ですか?』


「貴艦はまだ潜れますか?」


『現在海上で充電中です。後少し、お時間を頂ければ』


「限界深度は?」


『二百五十メートルです』


「その深度で、モールスを打って頂けませんか?」


『潜水艇、いえ、マリーの位置の特定ですね』


「お願いします」


『分かりました。ですが、サルベージとなると……』


「心配はいりません。マリーは自分でワイヤーを掴みますから」


『自分で……』


 その言葉の意味はヴォルクガングには想像出来なかったが、リンジーの力強い言葉を信じる気になった。そして、何よりマリーとヴィットに会ってみたくなった。


『分かりました。充電が完了次第、潜航して位置を特定します』


「お願いします」


 リンジーは震える手で、マイクを握り締めた。



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