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最強戦車 マリータンク  作者: 真壁真菜
第三章 起源
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救助

「イワン! もっと早く溶接してっ!」


 ワイヤーを繋いでいるイワンの背中から、リンジーが怒鳴った。


「へいへい」


「何よっ!」


 軽く受け流すイワンの態度に、リンジーは更に声を上げた。


「リンジー、分かるだろ。ワイヤーの接合は一番大切な部分なんだ。万が一途中で切れたら、取り返しがつかないんだ」


「分かってる……」


 優しいゲルンハルトの言葉が、リンジーの追い詰められたココロを穏やかに支える。


「なら、イワンに言わなきゃ」


「……イワン……ごめんなさい」


 小さな声で謝るリンジーに、イワンは背中越しに黙って手を振った。


「リンジー、少し休め」


 薄笑みを浮かべ、ゲルンハルトは優しく言った。


「休んでなんか……」


「嬢ちゃん、もう直ぐ一番大切な作業に入るのじゃ……一発勝負じゃ。そんな乱れてる気持ちのままじゃ、上手く行かんぞ。とにかく、一旦休憩して頭を冷やすのじゃ……よいか、それがマリーやヴィットの為なのじゃぞ」


 作業を続けながら、オットーも穏やかに言った。


「……分かった」


「リンジー……」


 一部始終を見ていたチィコが心配そうに眉を下げ、リンジーは俯いたまま呟いた。


「……頭、冷やして来る……」


「チィコ、サルテンバの操縦を頼むぞ。巻き上げは細心の注意が必要なんだ、じいさん達によく教えてもらえよ」


 トボトボと艦橋の方に歩いて行くリンジーの背中を見送ると、ゲルンハルトはチィコに微笑んだ。


「ウチ、がんばる……マリーもヴィットも助けるんや」


 大きく深呼吸して、チィコはゲルンハルトに笑顔を向けた。


____________________________



 艦橋の入り口では、壁を背にして腕組みするタチアナが待っていた。リンジーは俯いたまま黙って通り過ぎようとしたが、小さな声で呼び止められた。


「何処に行くの?」


「……頭を、冷やし、に」


 リンジーは消えそうな声で言った。


「そんな事してる場合なの?」


「今は、それしか出来ない」


 タチアナの言葉に少し腹が立ったリンジーだっが、拳を握って押さえた。


「なぁんだ……あなたにとって世界の終りは、その程度なんだ」


「私は……」


 嘲笑うかの様なタチアナの態度に、リンジーは何も言えなかった。省みても焦りや動揺、混乱そして、泣き叫びたい恐怖……何より大切な人達を、直ぐに助けられない無力な自分自身に対する怒り。


 そんな数多くの”負”の思考に支配されていたリンジーは、ただ俯くしか出来なかった。


「あなた……ヴィットとは、どう言う関係?」


「えっ?」


 予想もしてなかったタチアナの質問に、リンジーは思考が付いて行かなかった。ほんの一瞬の間を開け、リンジーは呟いた。


「……幼馴染」


「ふぅん……」


 壁にもたれたまま、タチアナは目を伏せた。


 リンジーはそのまま立ち去ろうとするが、背中にタチアナの痛い言葉を受けた。


「確かに、あなたは頭がいい……でも、それだけじゃヴィットには相応しくない」


 振り向いたリンジーはタチアナの睨むが、タチアナの表情では今のリンジーには占えなかった……その深層の考えなど。


_______________________



 ヴィットの腕は感覚が無い程に疲れていた。思考にも靄が掛かり、言葉を発する事さえ忘れていた。


 マリーもただ黙ってヴィットの作業を見守っていたが、どんな苦痛より、どんな恐怖より辛い時間を過ごしていた。掛ける言葉も、汗を拭いて上げられる手も無くて、ただ何も出来ない自分を責め続けるしか出来なかった。


「しまった!」


 何年かぶりに聞いたと錯覚するヴィットの声、その瞬間に配線が火花を散らした。


「マリー! 何とも無いか!」


「大丈夫、トラクションコントロールの配線だよ。ユニットは平気、ヒューズが飛んだだけ」


「ごめん……手元が狂った」


「大丈夫だから……」


 その後に続く”少し休もうよ”と言う言葉は、言いたくても言えなかった。そして、マリーの脳裏に最悪の事態が浮かんだ。


 それは、酸素供給装置の配線がショートする事態だった。そうなれば、車内に残る酸素だけ……時間にして15分足らず。


 既に五時間以上経過し、ヴィットの体力は相当に消耗している……マリーは気付かないうちに、車体を小刻みに震わせていた。


 だが、そんな絶望の底からマリーを救ったのはモールスの音だった。


「ヴィット! 助けが来たよ!」


「……えっ?」


 声を上げるマリーだったが、ヴィットの反応は鈍かった。


「えっと……オトヲダセ・イチヲカクニンスル」


「そうか……頼むよ」


 明らかにヴィットの声は弱っていた。マリーは急いでアームを叩いて、返信した。


_______________________



「マリーから返信です」


「直ぐに位置を確認しろ」


 腕組みしたまま、ヴォルクガングはソナー員の報告を受けた。


「確認出来ました。B海山の山頂です」


「かなり流されてるな。よし、浮上してデアクローゼに連絡しろ」


「海難救助は初めてですね……しかも要救助者は敵ですし」


 ヴォルクガングの指示を受け、副長は苦笑いした。


「敵か……」


 呟いたヴォルクガングは、自分でも分からなかった。借りがあるとは言え、何故敵を助ける?……何故デアクローゼの連中は、あんなに必死になっている?……やはり、答えは会って見ないと分からないなと、ぼんやり思った。


________________________



 格納庫の隅で膝を抱えるリンジーの思考は、悪い考えばかりに引っ張られていた。考えが像を結ぶ度に、心臓に氷の剣を突き立てられた。体の震えは滝の様な汗と同期して、リンジーの精神を崩壊寸前まで追い込んで行く。


 だが、どんなに辛くて悲しい事にも終わりはある。遠くから聞こえた自分を呼ぶ声は、リンジーを暗い闇の世界から救ってくれた。


 リンジーの名前を連呼しながら、チィコが物凄い勢いで走って来た。息を弾ませ、真っ赤な頬を更に紅潮させ、嬉しさと喜びを爆発させていた。


 聞かなくても分かる最高に嬉しい報告は、リンジーの胸を鷲掴みにする。


「マリーとヴィットが見っかったんや!」


「行こう! チィコ!」


 駆け出すリンジーの足は宙に浮くくらい軽くて、真っ白の頭の中心にはヴィットの笑顔とマリーの声しかなかった。



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