選択
「一番艦、及び敵潜水艇、健在……真下にいます」
「信管を通常に戻せ。三番、四番発射……」
ソナー員の報告を聞いた二番艦の艦長は、鋭い視線のまま言った。
「操舵不能です、この距離では本艦にも影響が出ます!」
「影響だと?……奴を沈められるんだ、そんなものどうでもいい」
叫ぶ副官を見た艦長の顔は、怪しく笑っていた。
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「二番艦より魚雷! 雷数、二! 本艦に向かってます!」
「メインタンクブロー。急速浮上」
ソナー員が叫び艦長が指示を出すが、直ぐに副長が状況を報告した。
「今のポンプ出力では排水不能です。圧搾空気も大半は漏れました。電力も低下、モーター微速しか出ません」
「そうか……この音は?」
異音は艦底からしていた。艦長は不思議な感覚に包まれていた……何故、逃げないのか? と。
「金属の擦れる音です」
「潜水艇はまだ、下にいるのか?」
「真下です」
「何をする気だ?……」
意図が分からなかった。逃げなければ爆発に巻き込まれるのは必至……そして、艦長の脳裏に赤い戦車が像を結んだ。
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「マリー! 魚雷接近だっ!!」
「……」
ヴィットの声が車内に反響する。刹那の瞬間! マリーは選択の決断を迫られる。ソナーには潜水艦の乗員数十名の鼓動と、ヴィットの小さな鼓動がはっきりと感じられる。
決断なんて出来ない、選ぶなんて出来ない。マリーは潜水艦を車体で支えながら、叫びたいくらいの葛藤と戦っていた。
だが、ヴィットの顔はとても穏やかで優しかった。
「いいよ、マリー。やろう」
「ヴィット……」
「マリー! ロケット全力噴射だっ!!」
「分かった!!」
マリーは底面ロケットを最初から全力噴射した! しかし、水中とは言え全長百メートル、二千トン近い巨体は浮力を考慮しても簡単には持ち上がらないし、船体が大きい分だけ抵抗も増す。それでもマリー全力噴射を続ける! 既に噴射炎は青白さをを通り過ぎて青が深みを増した。
噴射音や振動も壮烈さを壮烈さを増し、ヴィットにはマリーの苦しみと痛みが雪崩の様に全身に感じられた。
「頑張れ!マリー!!」
ヴィットには叫ぶ事しか出来なかった。
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「浮いてます……艦が浮上してます」
水深計を見た副長は茫然と呟いた。
「持ち上げるつもりか……」
「ロケット噴射音です! 明らかに持ち上げようとしてます!」
呟く艦長に、驚くソナー員が言葉を被せた。
「命中まで五秒!」
副長の叫びが艦内に木霊した。
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「こんちきしょう!!」
マリーは最後の力を振り絞った。船体は浮き、魚雷は下方を通過した。同時にマリーは一番艦のワイヤーを切った。切断されたワイヤーは、吸い込まれる様に二番艦の方に消えて行った。
「やったのか?……」
「……なんとか」
明らかにマリーの声は憔悴していた。
「大丈夫か?」
「……うん」
心配するヴィットの声がマリーを困惑させ、返事は消えそうだった。そして、マリーはゆっくりと沈下を始めた。
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「魚雷、一番艦下方を通過」
「まだ、浮上する力があったとはな……次で止めだ。五番、六番発射用意……」
ソナー員の報告を受け、更に怪しい笑みを浮かべる二番艦の艦長だったが、異様な振動が艦全体を揺らし、身体を潜望鏡にブツけた。
「何があった? 攻撃か?」
「違います! 推進器停止! 機関室に出火!」
マリーが切り離したワイヤーは、吸い込まれる様に二番艦のスクリューに巻き込まれた。きつくスクリューに絡んだワイヤーは、モーターを過熱させ機関室に火の手が上がった。
「消火を急げ、浮上だ……決着は海上でつける」
拳を握り締めた艦長は、声を絞り出した。
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「魚雷、本艦の真下を通過」
「潜水艇は?」
「沈んで行きます」
驚いた顔のソナー員が報告すると、艦長はマリーの様子を聞いた。
「何故、我々を助けたのでしょうか?」
「……」
副長の問いに、艦長は口を真一文字に結んで答えなかった。
「浮上は可能です。ですが、二番艦の動きも気になります」
「二番艦、機関停止。浮上して行きます」
副長とソナー員から相次いで報告が入るが、艦長はまだ口を開かない。そして、暫くの後に重い口を開いた。
「浮上、真上だ……魚雷全門装填、発射管は開いておけ……ソナー、随時二番の位置を入れろ」




