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最強戦車 マリータンク  作者: 真壁真菜
第二章 進化
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誰かの為に

 地面にオデコを擦り付け懇願するチィコを、ミネルバは不思議な思いで見ていた。父親が落盤に巻き込まれ、助けを乞う自分の幼い姿とダブって見えた。


 チィコは嗚咽しながら、何度も何度もお願いする。見かねた手下の一人が、手を差し伸べるが、その手を振り払いチィコは頭を下げ続けた。


「そんなに、あの娘が大事?」


「大事や! たった一人の妹なんや!!」


 低い声で問うミネルバを、涙を滝の様に流したチィコが見上げる。


「すまんな、ここは姉さんの父上の墓なんだ。守らなきゃ、いけないんだ」


 さっき、手を差し伸べた手下が、その厳つい顔と正反対の優しい声でチィコを慰め様とするが、チィコは決して引き下がらない。


「お願いします! 何でもあげます! ウチの命でも構わへんから!」


「アタシの部下になるかい?」


 溜息交じりのミネルバがそう言うと、チィコは即答した。


「なるっ!!」


「アタシは盗賊だよ」


「なるっ!! リンジーが助かるなら、何でもする!」


 チィコの大きな瞳が眩しくてミエルバは目を逸らすと、大声で号令を出した。


「お前達は留守番だ! アリスⅡは出るよ!」


「ホンマ……」


 涙を拭おうともしないチィコに、ミネルバはボソッと言う。


「気が変わらないういちに、早く乗れ」


「おおきに!!」


 チィコが飛び乗ると、アリスⅡは砂煙を上げて全開で発進した。


「心配するな、お前の妹は必ず助かる」


 さっき手を差し伸べた男は、アリスⅡの砲手だった。砲手席の横にチィコを座らせると優しく頭を撫ぜ、チィコは小さく頷いた。


「弾種、徹甲榴弾! 狙いは車輪だ! 躍進射撃用意! 直ぐに打てる準備しろっ!」


 ミネルバの号令に、クルーは大声で返事した。


______________________



 マリーはケルベロスの主砲がサルテンバに向くのを確認すると、全身の回路がショートする感覚に陥る。


「マリー行けっ! 俺に構うなっ!」


 ヴィットの声が炸裂し、マリーはロケットブースターを全開にする。焼けようが焦げようが御構い無しの全開は、マリーの車体強度を超える加速を見せるが、空中分解など微塵も恐れる事は無かった。


 そして、容量を超えたエネルギーを対空レーザーに叩き込み、超加速状態で飛んでいるのでさえ遅さを呪う。同時に照準計算を全システムを動員し、一撃必殺を狙う。今のマリーには、自分の全てを犠牲にしてもリンジーを救いたいと願った……考えるの事は、それしかなかった。


_______________________



「マリーがサルテンバに向けて急降下!!」


 ゲルンハルトの叫びに、ハンスは更に一速落としてシュワルツティーガーを加速させる。エンジンのレッドゾーンなど御構い無し、床が抜ける程にアクセルを踏む。


「諸元の修正は無しだ! 撃ちまくれ!」


 有り得ない速度で装填するヨハンはイワンに怒鳴り、イワンも怒鳴り返す。


「サルテンバの前に弾着させて、カーテンで隠す!」


 完全な射程外だが、砲身の仰角を最大にしてサルテンバとケルベロスの間に、爆煙のカーテンを作る。無論、光学照準ではない事も予想されるが、そんな事は知ったこっちゃなかった。


________________________



「当たれっ!!」


 マリー渾身の一撃は、ケルベロスが発射した主砲弾を破壊した。だが、新型120ミリ砲弾の威力は凄まじく、至近の爆風はサルテンバさえ横転させる程の威力だった。


 しかし、次弾を装填したケルベロスにマリーの次は無かった。過電流を遥かに超えたレーザーの一撃は、レーザー砲自体と共に配線さえも焼き尽くしていた。


 残るのは砲撃の軸線に割り込み、砲弾を車体で防ぐ道しかない。だが、ヴィットをペイルアウトさせる為、回転を落としている余裕も無かった。


「軸線に割り込む! 電磁装甲でも防げないかも!」


「上等だっ!! 行くぞっマリーっ!」


 マリーが聞かなくてもヴィットのココロは決まっていた。それはマリーと同じ、どんな自己犠牲を払ってもリンジーを助ける事だった。


 超高速で軸線に向かうマリーだったが、行き過ぎは許されない。飛行以外の全ての能力を演算に回すが、それには最大のリスクが伴った。電磁装甲展開のタイミングにまで、処理能力が追い付かないのだ。


 それでも今のマリーには行くしかない。そして、直ぐに決断の瞬間が訪れる。まさにドンピシャのタイミングでマリーが軸線に飛び込むが、肝心のケルベロスからの発砲がない。


 軸線は、あっと言う間に通り過ぎターンしてる暇など無い。マリーのココロが凍り付き、最悪のシナリオが一瞬思考を横切るが、その恐怖を明るい声が救った。


『まさか、本気で120ミリ砲弾の盾になる気だったの?』


「ミリー!!」


 高速回転中でヴィットの視界には映らないが、大声で叫ぶ。ミリーの声はヴィットとマリーを救った。爆装したミリーは急降下でケルベロスの主砲に直撃を加え、次弾の発射を阻止したのだった。


『マリー! おみやげがあるから一度、高度を取って回転を緩めて!』


「でも、リンジーが!」


『大丈夫、主砲に直撃させた。砲は発射出来ても照準は狂ってるから。それに腕の37ミリはまだ、射程外よ』


 ミリーの自信溢れる言葉を聞いて、マリーは直ぐに高度を取った。



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