譲れない思い
急降下するマリーに、ケルベロスの37ミリ機関砲弾が雨の様に降り注いだ。電磁装甲を展開させ避ける事無く砲弾を弾き返すが、加速は増して車体の自由が利かなくなる。
主砲に狙われ無い様に直上から急降下するマリーだったが、その狙いはケルベロスに読まれていた。激しい金属音と共に、ケルベロスの主砲が直上を指向する!。
「マリー……ダメだ……逃げろ」
ヴィットの絞り出す声に、我に返ったマリーが咄嗟に方向を変える。その瞬間! ケルベロスの主砲が火を噴いた! 間一髪! 主砲弾は電磁装甲を霞め、火花と電気放電現象が起こる。
マリーの計器は火花を散らしショートに襲われるが、コンラートが新規に設置したブレーカーでシステムの損害は免れた。だが、超速で次弾を装填したケルベロスは、第二射の発射態勢に入る。
初弾はなんとか避けたが、加速状態での急な方向転換はヴィットの身体に著しい負担を掛ける。一瞬の躊躇い、マリーが考えた瞬間! 至近距離をケルベロスの主砲弾が通過した。
「何っ!」
思わず声に出る! マリーが状況を確認するとケルベロスに攻撃を仕掛けるサルテンバの姿が、モニターに大写しになった。
「やめてっ!!」
叫んだマリーの声が、ヴィットの脳裏で炸裂した。
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「チィコ、徹甲弾が足りないの。取りに行こう」
「なんや、榴弾はダメなんか?」
急にリンジーが補給に行こうと言い出し、困惑するチィコが困った顔で運転席から見上げた。
「可変戦車の足回りも、榴弾だと効果が無いのよ」
「そうか……しゃあないな。でも、そんなん何処にあるん?」
「ハンバーガー屋の隣に雑貨屋があったでしょ……あそこで手に入るみたい」
確かに町での補給は出来そうにないが、リンジーの言葉にチィコは納得した。
「はな、早よいこ!」
雑貨屋へ向かう為にアクセルを踏み込むチィコを、見下ろしたリンジーはココロの中で謝った……”ごめん”と。それは、初めてチィコに付いたリンジーの嘘だった。
「チィコ、裏の方へ回って台車を取って来て」
雑貨屋に着くとリンジーが直ぐに声を掛け、チィコはスッ飛んで取りに行く。ゆっくりと運転席に戻ったリンジーは、静かにサルテンバを発車させた。
勘の良いリンジーは気付いていた。襲撃機が来た時点で、ケルベロスの行動を予測は出来る。マリーが相手では襲撃機では歯が立たないし、ケルベロスに援護には到底役に立たない。
ならば、何故出すのか? それはケルベロスの援護ではなく、別の意味があるのではないか? 戦車を援護に出すのではなく、敢えて襲撃機を出す意味……。
マリーは味方戦車を守る為、必ず襲撃機から先に戦闘を挑む。嫌な予感は確信に変わり、リンジーはサルテンバのアクセルを踏み込んだ。
台車を押して戻って来たチィコは、愕然とした。そこにいるはずのサルテンバがいないのだ……直ぐに全身に悪寒が走る。チィコの大きな瞳からは、大粒の涙が溢れた。
「嫌やっ! リンジーっ!!」
泣き叫んだチィコは、鉱山に向けて走り出した。
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「止まれ!!」
ゲルンハルト達の静止を振り切り、リンジーはサルテンバを突進させる。目標は唯一つ……ケルベロスだった。
「くっそう! 追うぞっ!」
「無理だ! サルテンバとは速度が違い過ぎる!」
シュワルツティーガーに飛び乗ったゲルンハルトが叫ぶが、ハンスが直ぐに否定した。
「それでも行くんだ!」
ハンスの背中を蹴飛ばしたゲルンハルトの叫びに、イワンも大声を上げる。
「早くしろ! 今追わないでどうするんだ!!」
「徹甲榴弾装填! イワン! どこでもいい! 奴に当てろ!」
「どうなっても知らねぇぞ!」
ヨハンも叫び、少し笑ったハンスは思い切りアクセルを踏み込んだ。ゲルンハルト網膜には、遠ざかるサルテンバの車体がスローモーションで焼き付いた。
狭いペリスコープの視界にケルベロスが映る、その両腕は空に向かい機関砲を乱射していた。
「やっぱり!」
更にアクセルを踏むリンジーだったが、その目に信じられない光景が映った。ケルベロスが主砲を真上に指向したのだ。慌ててペリスコープの角度を変えると、上空から急降下する赤い車体が目に飛び込む。
「マリー!! ダメっ!」
思い切り通信機に叫ぶと、急停車! 躍進射撃でケルベロスを狙う。照準眼鏡のある砲手席に跳び移った瞬間! ケルベロスが轟音と共に主砲を発射! その轟音はリンジーの胸に直撃するが、次弾装填の様子を窺わせると、リンジーは必殺の主砲を発射した。
どこでもいい、車体の一部に当てて、照準を狂わせる! 咄嗟に考えるのはそれだけだった。発射された主砲の榴弾は、見事にケルベロスの肩付近に命中! それは微妙な照準を狂わせ、マリーを直撃から救った。
直ぐに逃げたくても、運転席に移る時間も余裕もない。照準器越しにケルベロスの主砲が自分の方に指向されるのを、リンジーは大きな溜息を付きながらボンやりと見ていた。




