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最強戦車 マリータンク  作者: 真壁真菜
第二章 進化
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「前方十一時! マリーが上昇!」


 双眼鏡で見ていたイワンが叫んだ。


「襲撃機に向かうつもりだ……」


 ゲルンハルトの声は大空に沈み、ハンスはハンドルを叩きながら呟く。


「また、マリーとヴィットだけに頼るのかよ……」


「対空戦闘、塹壕を利用するか? 仰角が取れれば、何とかなる」


 ヨハンが進言するが、ゲルンハルトは首を縦には振らなかった。


「相手が襲撃機だけならな……車体を固定すれば、可変戦車の的になるだけだ」


「私はそれでもいい! 少しでもマリーとヴィットの援護をしたい!」


「そうや! 出来る事があるのに、見てるだけなんて嫌や!」


 リンジーは決意の表情でゲルンハルトを見詰め、チィコも大声を出す。


「マリーとヴィットは、何の為に二人だけで行ったと思う?」


 声を震わせるゲルンハルトの言葉の意味を、リンジーもチィコも分かり切ってはいるが、納得なんて到底出来なかった。


「ゲルンハルトの言う通りじゃ。例え一機や二機落としても、援護にはならん……機会を待つのじゃ、必ずその時が来る」


 戻ったオットーもゲルンハルトに同意し、リンジーとチィコを宥めた。


「でも……」


 それでもリンジーは拳を握り締める。悔しさで身体が震え、我慢出来ずに涙を零した。


「リンジー、可変戦車の装甲は俺達の火力じゃ抜けないが、腕の関節部分なら破壊出来る。それは、マリーとヴィットに大きな援護になるよ」


 TDの分析は涙に濡れるリンジーを救った。援護が出来る……それだけでも、リンジーにとっては、とてつもなく大きな前進だった。


「だが、どうやって近付く? こっちは奴の主砲を一発でも喰らえば終わりなんだぜ」


 イワンは悲壮な顔を、TDに向けた。


「そうだよな、そこが問題だ」


「戦車を、使い捨ての対戦車榴弾発射機にするしかないな」


 TDの言葉は小さく沈み、溜息交じりにコンラートが続ける。誰も気にはしなかったがコンラートの言葉を噛み締めたリンジーだけは、生唾を飲んで運転席にチィコの背中を見た。


_________________________



「相手はイール・ドヴァー襲撃機。コンクリート・トーチカと呼ばれる化物。装備重量6トンの装甲は、20ミリ機関砲でも跳ね返すの。装備機関砲は37ミリ、戦車の上面装甲なんて、簡単に貫通よ」


 上空に静止したマリーは、遠くに迫る襲撃機を望んで言った。


「そんじゃ、主砲弾じゃないと効果ないね。でもさ、こっちは空飛ぶ戦車、トーチカなんて目じゃないよ」


 ヴィットはまだ回転が始まってないので、少し余裕があった。


「勿体ないけど、それしかないみたい。狙いは垂直尾翼、主翼内には燃料タンクがあるから、爆発の危険もあるし……」


「……優しいね、マリーは」


 済まなそうに話すマリーの言葉は、ヴィットに笑顔をもたらせる。


「……バカ。そんじゃ、行くよ! ゲロゲーロ袋の用意はいいっ?!」


「シートベルトの間違いだろっ!」


 ヴィットの返事と同時に、マリーは回転を始める。お約束通り、ヴィットの悲鳴とヨダレが車内を舞った。


____________________



『隊長! 火の玉が接近して来ます!』


 イール・ドヴァーの隊長機に、二番機機からの通信が炸裂した。


「落ち着け! 奴の機動は前後左右だけじゃない! 上下にも警戒しろ!」


 出撃前のブリーピングで理解していたはずだが、実物を間に当たりにすると歴戦の襲撃機乗りでも目を疑った。その機動はまるで昆虫、人が乗ってる事など信じられない動きだった。


『隊長! 三番機と五番機が撃墜! どうすればいいんですか!』


 二番機からの通信は悲鳴の様だった。航続時間は30分以下とは聞いていたが、そんなに時間を稼ぐのは不可能だと実感した。


「全機! ブレイク! とにかく逃げろ!」


 通信機に叫ぶ自分の言葉が信じられなかった。何しに来た? ただ、撃墜される為に来たのか? 自問しても運命からは逃れる事は出来ない。


『あれが戦車だと言うのか!』


 その叫びが、二番機の最後の通信だった。残存は五機、隊長は操縦桿をマリーに向けると、スロットルを全開にした。


『背後に回らせるな! 正対すれば37ミリを、お見舞い出来る!』


 正面から突っ込んで来る機体に対し、マリーは横方向に車体を滑らせる。正面からでは垂直尾翼を狙えない、速度を落として回り込もうとした瞬間! マリーの車体に37ミリ機関砲弾が命中した。


 咄嗟に電磁装甲を展開させるが、側面で炸裂する徹甲榴弾はセラミック装甲の二層までを破壊する。なんとか第三層のチタン骨格で受け止めるが、マリーはヴィット叫んだ。


「ヴィット!! 被弾した!! 大丈夫!!」


「……車内には入ってない! 心配するな!」


 苦しそうなヴィットの声だったが、一応安心したマリーは直ぐに発射元を特定した。


「あいつ!!」


 それは、地上のケルベロスだった。襲撃機を囮にして、速度を落としたマリーを狙撃したのだ。片腕四門、両腕で八門の集中砲火は高速移動する空中目標さえ、確実に捉える。


 味方を囮にした事がマリーに火を点けた。何より油断してヴィットを危険に晒した自分に、怒りが更に燃え上がった。


「このおっ!」


 素早く反転すると、マリーはケルベロスに向かって急降下した。


『マリー!! ダメっ!!!』


 リンジーの声が通信機で炸裂するが、ヴィットが危険に晒された事でマリーの判断力が鈍る結果となった。



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