奮戦
「今は、少年独りで戦っておるんか?」
髭を触りながらベルガーが聞く。グルグル眼鏡を掛けなおし、オットーは腕組みしながら答えた。
「そうじゃ。マリーちゃんは目をつぶっておる」
「なんじゃそれは?」
驚いた顔はしないが、一応キュルシーナーは葉巻を咥えながら聞いた。
「火は点けるなよ……つまり、マリーちゃんは弱点を突かれ戦闘不能と言う事じゃ」
一応、キュルシナーの癖? を制した後、オットーは答えた。
「そりゃあいかん。直ぐに援護に行かんと」
起き上がったポールマンは、顔を紅潮させた。
「いいから、寝ておれ。それに、今は行けん……なんせ、トレーラーを足止めする為に斜面を砲撃して、マチルダごとバリケードを作ったんじゃからな」
「それ、普通は生き埋めって言わんか?」
胸を張るオットーに、冷や汗を流したポールマンが唖然と言った。
「そう言う言い方もある……カッカ、ハヴっ!」
オットーは何時もの様に笑おうとしたが……お約束が。
______________________
「変だな……」
ヴィットは敵戦車の動きに、違和感を感じた。一機は左右両方に主砲弾を避けるが、もう一機の方は左にしか避けない。何度か故意にやや左を狙ってみたが、避けるのは左側だった。
暫くは黙ったまま、攻撃と回避を繰り返すだけだったヴィットが、ふいに口を開いた。
「マリー、今度合図した後、主砲弾発射と同時に左サイドキック。いい?」
「分かった」
「それと、次の攻撃は電磁装甲を最初から展開してね」
「うん、そうする……何か閃いたの?」
ヴィットの声には自信が溢れていた。マリーは心配してたが、視覚をカットした状態では状況は把握出来ない。だが、こう着状態にも係らず落ち着いた状態のヴィットに頼もしささえ感じていた。
怖くて、見る事が出来ない……そんな、初めての体験さえヴィットがいるだけでマリーは落ち着いていられた。そして、久々にヴィットの声を聞いた気がしたマリーは、少し安堵しながら聞いたのだった。
「ずっと、相手の動きを観察してて気付いたんだ。どうやら、一機はスラスターに故障か不具合があるみたい。同じ方向にしか跳ばないんだ」
少し照れた様に、ヴィットは頭を掻いた。
「凄いヴィット、よく気付いたね」
本心で凄いと思った。マリーは自分の事の様に嬉しくて、声を弾ませた。だが、その瞬間、レーダーが複数の機影を捉えた。しかも、空だけじゃなく陸上にも複数を感知していた。
「ヴィット! レーダーに敵影補足! 空と陸、両方だよ!」
「う~ん。多分、お迎えだね」
他人事みたいに落ち着いているヴィットに、思わずマリーが慌てた声を上げた。
「何で落ち着いてるの! 凄い数なんだよ!」
久々に聞いたマリーの慌てた声が、ヴィットには嬉しかった。
「やっと、何時ものマリーに戻ったね。さてと、マリーを困らせる原因を退治するか」
嬉しそうに笑ったヴィットは、アクセルを踏み締めた。
___________________
ヴィットは攻撃と回避を繰り返しながら、タイミングを図る。そして、また敵戦車の不審な点に気付いた。
「マリー、対空レーザー、トリガーを引きっ放しで、どの位持つ?」
「それって、ずーっと撃ちっ放しってこと?」
「うん」
「そうね、精々三秒かな。それ以上は砲身が溶けるかも」
もう少しは持つかもしれないが、一応マリーは安全マージンを考えて答えた。
「その状態って、長ーいビームソードを振り回すって感じ?」
嬉しそうなヴィットは、頭の中で想像しながら言った。
「まぁ、そんな感じかな」
笑顔のヴィットが何だか可愛くて、マリーも自然と笑い声になった。
「そんじゃ、行くよ!」
二機の位置を確認したヴィットは、アクセル全開で目標の一機に向かって突進した。直ぐに敵は回避運動に移るが、ヴィットは御構い無しに突っ込む。
「電磁装甲!」
ヴィットの指示に合わせマリーは電磁装甲を展開、回避運動せずに突っ込むマリーの全面で敵弾が破裂する。ヴィットは敢えて敵弾を受ける事で急接近を可能にし、主砲を近距離で発射した。
「今っ!!」
ヴィットが叫ぶと同時にマリーがサイドキック! ほぼ同時に敵も左に跳ぶが、その直前にマリーが立ちはだかる格好になった。
「行っけっ!!」
渾身の一撃が敵戦車に吸い込まれる! ヴィットは敵戦車の撃破を確認する事無く次の目標に向けアクセルを蹴飛ばす。一機を失った敵戦車は距離を取ろうとスラスターを噴射して逃げるが、機動性ではマリーに分があった。
ヴィットは敵戦車のやや上方を、対空レーザーで横方向に薙ぎ払った。途端に敵戦車の動きが鈍り、ヴィットは主砲で簡単に撃破した。
「マリー、もういいよ目を開けて」
スピードを落としたヴィットは、笑顔でマリーに言った。恐る恐る目を開けるとマリーの視界には撃破され、黒煙を上げる敵戦車が映った。
「どうやって、やっつけたの? もう一機は、完全体だったでしょ?」
「じぃちゃんの情報がヒントになったんだ。無人の遠隔操なら二本の長いアンアテナは通信用じゃなくて、操縦用だってね。対空レーザーなら装甲貫通は無理でも、アンテナを切断するくらいは出来ると思ったんだ」
「それで、ビームソードね」
納得したマリーは微笑んだ。そして、ヴィットの発想や落ち着いた的確な行動がとても頼もしく思った。
「じいちゃん達に連絡しなきゃ、きっと心配してる……あれっ?」
呼び出しても、オットーはコールに出ない。そして、何度目かでやっと出たオットーの声は弱って掠れていた。
「……ヴィット、よ……無事じゃったか……」
「じいちゃん!!」
ヴィットの叫びと同時にマリーは底面ロケットを全力噴射! 大空に急速発進した。




