独りの実戦
「さてと、二機の動きに連携があるな……」
ペリスコープから状況を見たヴィットは、独り言みたいに呟いた。
「ヴィット……ごめんね」
消えそうな声で、マリーは言った。
「誰だって苦手はあるよ、気にしないで……俺なんか、注射とオバケが苦手なんだ」
優しいヴィットの言葉が余計にマリーを落ち込ませ、言葉が出なかった。ヴィットはそんなマリーに何も言わない、ただ普通に戦車戦の基本に従って操縦に集中した。
ハンドルの右側、オートマチック変速機レバーの直ぐ後ろに銃火器の操作グリップが付いている。丁度ミリーの操縦桿の様な形で主砲と同軸機銃、対空の機銃とレーザーが手動で操作出来た。
ペリスコープは視界は狭いが電影クロスゲージとなっており、中央付近にはレティクルが投影されていた。しかも普通のペリスコープとは違い、上下左右もある程度は指向出来た。
確かに普段のモニターと比べれば視野は狭いのは当然だが、普通の戦車と比較すれば格段に見通しは良かった。一瞬、モニターの横に掛かるヘッドギアを見るがヴィットは敢えて触れなかった。
相手戦車の動きはそんなに速そうには見えないが、試しにと中距離から修正無しでロケット榴弾の発射を考えたヴィットだった。当然狙いは弱点の脚、レティクルが緑色から赤色に点灯してロックオン同時にトリガーを引いた。
「何だ?」
発射と同時に敵戦車は横方向に跳んだ。それはまるで、マリーのサイドキックシステムを見てるようだった。後方での爆発を確認するまでもなく、発射と同時にヴィットは場所を移動する。
コンマ数秒後には、マリーが元いた位置に敵弾が弾着する。ヴィットは高速で移動しながら、敵戦車のサイドキックの不審な点を考えていた。マリーはロケット噴射で瞬時に横に跳ぶが、敵戦車の側面からは噴射の閃光は見えなかった。
「マリー、サイドキックはロケット噴射だよね? それ以外で出来る?」
「空気中なら、ロケットがジェットしかないと思うけど……」
疑問を投げるヴィットに、マリーも不思議そうな声で答えた。
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「確かに動きは速いが、想定した程ではないな」
一号機のオペレーターは、マリーの回避運動を見て言った。
「六輪同時に切れる操舵システムには限界がありますが、姿勢を安定させるスタビライザーの性能が特出しています。射撃管制にも連動している様ですね」
二号機のオペレーターは嬉しそうな顔で言った。
「飛ばれると厄介だが、今の所はその兆候は無しか……舐められたもんだ」
腕組みした士官は、不敵な笑みを浮かべた。
「修理だけではなく、何かしらの改良及びパワーアップしているのは予測出来ますが、元々が驚異的性能ですからね……しかし、このデータは興味深い」
研究員は眼鏡を触りながら、手にしたデータを見た。
「一番の性能向上は?」
「やはり加速ですかね。奪取したエンジンの事も考えますと、換装したエンジンの出力の恩恵により総合性能は三割増しかと」
士官の問いに、研究員はデータの紙を捲った。
「たった、三割か?」
「実質のエンジン出力は、推定で三倍。ですが、全体として見たパワーアップが三割増しと言う事です。飛行性能はまだ確認が出来ていませんが、全ての性能が三割アップとなると脅威ですね……まさに、生まれ変わったと言っても過言ではありません」
士官の質問に、研究員は眼鏡を光らせた。
「一号機、先行して脚の速さと攻撃力を確認する。二号機は側面から攻撃、デフェンス能力を試す」
士官は研究員から渡された指令書に基づき、命令を出した。
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「敵戦車の位置を確認、と」
ヴィットは素早く二機の位置取りを確認すると、アクセルを踏み込んだ。カタパルトから発艦する戦闘機並の加速は、敵戦車に照準をする隙を与えない。節足戦車は不整地には優位だが、如何せん動きが緩慢だった。
「もう一回試すか」
行進間射撃はマリーの得意技、超精密FCFはどんな状況下でも確実な命中精度を最大限に発揮する。だが、敵戦車は再び回避した。
「エアか……」
瞬間に、敵戦車の側面から”バシュ”と大きな音がした。ヴィットはそれなら説明が付くとは思ったが、空気と言う壁の中であれだけ素早く移動するには物凄い空気の噴射が必要になるはず。そこにまた、オットーの通信が入った。
『奴の瞬間移動の秘密は圧搾空気じゃ。車内は圧力ボンベと超高圧コンプレッサーで満載じゃから多分、遠隔無線操作じゃな。なにしろ、爆薬と同等に危険な超高圧エアを積んどるからのう』
「それなら、手加減はいらないな」
『油断するでないぞ。マリーちゃんの噴射剤は無限じゃないが、奴らの場合は多少充填に時間は掛かったとしても、ある意味無限じゃからな』
「了解!」
ヴィットは勢いよく返事すると、アクセルを蹴飛ばした。
「どれだけエアーを使わせるかが勝負ね」
マリー見解にヴィットは激しく同意だった。動きさえ封じれば、装甲が脆弱な戦車など敵ではない。だが、ヴィットは忘れていた……敵が二機いて、連携している事を。
主砲の連続射撃で敵戦車のエアーを使わせても、回り込んだもう一機の敵が死角から攻撃して来る。ロックオンされた事を示す警告音と同時に、ヴィットは超速で回避運動をするが、その隙に敵の攻守が入れ替わりエアー充填の隙を作った。
「これじゃ、いたちごっこだ。先にこっちの主砲弾が切れる」
ハンドルを持つ手が汗で滑る、ヴィットは歯を食いしばってアクセルを踏み込んだ。方法が無い訳では無い、飛んで攻撃すればいいのだ。どんなに機動性が高くても所詮戦車、空からの攻撃には成す術は無い。
しかし、マリーの回転しながらの飛行は人の操縦を前提とはしていない。ヴィットはまた一瞬ヘッドギアに目を向けるが、直ぐに前方のペリスコープを強く覗き込んだ。
多分マリーなら、とっくに敵戦車をやっつけているだろうと思った。当たり前だが、自分が乗らなくてもマリーは最強戦車なんだろうと、思った。
だからこそ、ヴィットは強くハンドルを握る。マリーの為に、そして何より自分の存在意義を示す為に。




