第五話「覚悟は中身が無ければ簡単に潰れる」
俺と嵐山はクラスで孤立を極めた。蔭川一派の力は未だに大きく、彼らと確執のある嵐山と元々空気の俺がセットで厄介者として弾き出された構図だが、もう一つの要因として伊禮とのすれ違いにある。
元々学内カースト最下位である俺にさえ明るく接する彼女の存在は、唯一の学校社会に対する繋がりであり、また精神的支えでもあった。
だが数日前、帰りのホームルーム前に起こした俺の嵐山に対する大胆な行動が起因となったのか、嵐山に対し引け目のある伊禮は俺とも距離を取るようになった。
伊禮の心中を察することは難しい。そして彼女がカースト上位の男子生徒と談笑する姿を見ると俺は複雑な気持ちになる。嵐山に声をかけたのは、理性を欠いた行動であったが後悔はない。しかしながら彼女との溝を埋める術を俺は考え付けなかった。
ともいえ、嵐山との関係はあの日以降劇的に変わったというわけでなく。しかしながら気兼ねなく(多少気を使うが)彼の側に居れるのは、高校生活の新しい支えとなったのは言うまでもない。
一方、蔭川一派は学校を休みがちになっていた。噂によると平日昼間から大衆娯楽場へ出入りする彼らの姿があったらしい。未だ影響力があると言ったが、その元凶が学校へ姿を現さない分平和なものだ。
だが彼らがこのままでは無いはず。きっと学校での地位を取り戻すために何か手を尽くしてくるに違いない。それが今日であるか明日であるかはわからないが。
ところで嵐山は意外な趣味を持っていた。それはアーケード格闘ゲームであり、またその知識や腕も中々のものであること。俺はそこまで詳しくないものの、中学生の頃はそれなりにやったつもりだ。
「ああーっ!? ちょっとそれはちょっ、まって!」
「これで俺の三勝一敗だな。飲み物はコーラで頼むぞ」
「く、くそおおお。これだけは嵐山君に勝ってると思ったのに……」
初めて手合せした頃、といっても二日前だが、まだ俺が勝ち越せる程の関係だったのに、今日の時点でこの有様。だが上達スピードが速すぎる。まるでかなりやり込んだ様な。
「ねえ、もしかしてこっそり練習とかしてたりした?」
「……早くコーラ買って来いよ」
図星。ゲームをするという事もそうだが、彼も年頃の青年と変わらない特徴を持ち合わせていることに微笑ましさを感じた。
俺達の訪れたゲームセンターは大きく三区画分かれており、出入り口側の第一区画に格闘ゲームやクイズゲームなど幅広い年齢層が利用するゲーム、続いて第二区画にユーフォ―キャッチャー等の商品のあるゲームが設置され、一番奥の第三区画にコイン系のゲームや麻雀ゲームが設置されている。そして自販機コーナーは第二区画と第三区画の境目にある。
自販機の前へたどり着くと百二十円を投入しコーラを購入した。右手で缶の上部を掴むと顔の前まで持っていく。数回振って持っていこうかと思ったが、そこまで砕けた関係でもないかと左手中指で缶を軽くはじいた。
「マジっすか、本当にそんなんでいいすか!?」
行動に出たのは彼らを視認できた直後。咄嗟に姿の見えない位置に身を隠した。男にしては甲高い比嘉の声を聞いた。
「おう。俺はペプシよりサイダー派だかんな」
そして彼らの中に一人、見た事の無い男が混じっていた。まるで女性の様に長い髪を背中で束ね、顎にある濃い髭が男の気合の入った顔に拍車をかけている。一目見て暴力の世界の住人であると理解できた。
「おい、お前本当に嵐山のこと知ってんだろうな?」
「もちろん。忘れたくてもって感じだわな」
男と蔭川らの会話を見るに先程初めて会ったという印象を受ける。そして男は嵐山とは面識があるようだ。確かに蔭川を退ける程喧嘩の強い嵐山なら男の様な人種と顔見知りでも不思議はない。
「あの変なビームもどうにかできるんだよな?」
「そんな心配すんなよ」
そう吐き捨てると、男は蔭川に目も合わせず買ったサイダーを一気飲みし、缶をいとも簡単に握りつぶして見せた。
「俺はあいつを一度ぶちのめしてるし」
握りつぶした缶を覗き込み、中身が落ちてこないのを確認すると、それを蔭川へ差し出す。困惑する蔭川の顔を見ると男は「それに『覚悟』は、中身が無くなればクシャって潰れんだぜ?」と不敵に笑った。




