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停止中  作者: 赤田ケイジ
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第三話「お前に覚悟を見せてやる」

 放課後、体育館裏。体育館の裏から数メートル先には雑木林が広がっており、進入を予防するためのフェンスが伸びている。校舎の前に校庭が広がり、体育館は校庭側から見て右端に位置する。そして体育館裏への入り口は体育館と校舎の細い間のみで、他はフェンスを越えない限り抜け出すことはできない。

 体育館裏は廃材置き場になっており、その廃材に蔭川はその取り巻きと座っていた。

「ちゃんと来たな、嵐山。それで後ろの二人は?」

「勝手についてきただけだ」

 嵐山を盾にするように、俺と伊禮はその場所にいた。俺は帰ろうと思ったのだが、伊禮に「それでも男の子?」と強引に連れてこられた。俺は痛い事が嫌いだし、元来子供の喧嘩を見ただけで血の気が引く位の小心者だ。

「そっちが三人なら私達も三人よ、文句ある?」

 伊禮は俺も一応戦力に数えているらしいが、不甲斐ない未来しか見えない。

「……まあいいや。大迫、比嘉」

「う〜い」

「はいはい」

 取り巻きは怠そうな声で返事をすると、俺と伊禮の後ろに回った。

「ここに来たってことは、それなりの覚悟があんだろ? 何されたって文句言うなよ、伊禮ィ、クソザコッ!」

 伊禮は少々気圧されたのか、嵐山の後ろに隠れ「あ、当たり前よ!!」と凄んだ。俺はと言うと、体育館裏に来てから今まで嵐山の大きい背中から顔すら出していない。

 その様子を見ていた嵐山は、小さくため息をついた。

「で、何がしたいんだお前は?」

「話し合いだよ。話し合い。平和的な、な」

 彼らに囲まれた時点で会話の優位性は相手にある。この状態で話し合いとは笑わせる。しかしこの様な状況でも嵐山は眉すら動かさない。根性の据わった男とは彼の事を言うのだろう。

「さっさと要件を言ってくれ。俺も暇じゃねーんだ」

「何、簡単な話だ。嵐山、俺達のチームに入らねえか?」

「チーム?」

「そうだ。俺らが組めばこの学校のテッペン取れるぜ。俺達の時代を作ってやるのさ」

「ふん……。下らねーな」

 嵐山は蔭川に背を向けると俺と伊禮の間をすり抜け路地から出ようとした。

「大迫、比嘉!」

 その進路を取り巻きの二人が妨害する。

「何の真似だ?」

「いつの時代でも交渉事ってのは、最後は力づくってのになるんだよな。世界史で習わなかったか? 戦争と一緒だ」

 嵐山は軽く頭を掻くと、気怠そうに蔭川の方へ振り返る。

「大方俺に伸されてから肩身が狭いから、俺を取り込んでまた幅を利かせようと思ったんだろうが。当てが外れたから俺をボコそうと思ったんだろ? 俺を八つ当たりに相手にするんじゃ――」

「だまれボケが! おい、こいつを取り押さえろ」

 比嘉と大迫が嵐山の両腕をがっちりとホールドする。彼らは蔭川までとは言わないでも、一応野球部の補欠メンバーに選ばれる程。いくら屈強な嵐山でも二人の力には敵わないようだ。

「嵐山君!」

「動くんじゃねえぞ伊禮ィ!」

 咄嗟に飛び出そうとした伊禮だが、その圧のある声にすぐに動作を止めた。今の蔭川は何をしでかすかわかない、そんな雰囲気を俺も伊禮も感じ取った。

「あ、嵐山君……」

「座古、とか言ったな」

 初めて名前を呼ばれた。こんな状況でなかったならば、素直に喜べただろうに。

「お前に見せてやるよ。覚悟ってやつを」

「は?」

 その言葉の直後だった。野球のバット程ある廃材を両手で振り上げた蔭川は唸り声を上げながら押さえつけられている嵐山の頭上めがけて豪快に振り下ろした。

 鈍い音と、廃材の破片が体育館裏にばら撒かれる。すぐ後に伊禮が金切声をあげ、嵐山はその衝撃で膝をついた。俺は体の末端がスッと冷えていく感覚を覚えた。意識と体が徐々にずれいていく。そこに直立しているのに、体感では体が振り子のようにふれている。

「チッ、この棒腐ってやがったな」

 手に残った廃材を後ろに放り投げると膝立ち状態の嵐山へ近づき、間髪入れずに右拳で強烈なボディーブローを喰らわせる。悶絶し体をくの字に折る嵐山の頭部を両手で持つと、更に右ひざを顔面に叩き込む。「ブッ」という空気が漏れる様な音がし、嵐山は脱力し頭を垂れた。取り巻き二人の支えが無ければきっと地面に伏している。意識ももう無いかもしれない。

「座古君、助けに入って! 座古君!」

 伊禮が俺の左腕を強く握った。残念ながらそれは無理だ。完全に体が委縮している。足を動かそうとすると、体が前に倒れそうになるのだ。助けを呼びに行きたくても、声が出せないのだ。情けない。恥ずかしい。不甲斐ない。俺は、本当に弱い。

「もう私が――」

「手ぇ、出すな……」

 今にも飛び出しそうな伊禮を制止する、か細く弱弱しい、しかし心を鷲掴みするような力のある声。

「おい、腕離せ」

 蔭川の掛け声で取り巻きは掴んでいた手を離した。重力に押され地面に両手をつき四つ這いのような状態になった嵐山を見て、蔭川は勝ち誇ったように笑みを浮かべた。

「口ん中、切れてら」

 少し顔を上げ、血の混じった唾を蔭川の足元に吐き、両腕を痛々しく震わせながら踏ん張り、嵐山は上体を起こした蔭川の顔からは笑みが消え、眉間にしわが寄り始める。

 嵐山は鼻から血を滴らせ、右目を腫らし、今にも倒れそうな状態で膝立ちしている。しかし、なおもその鋭い眼光は敵を倒そうとする意志を感じさせる。

「もういいよ! もう謝って終わりにしようよ!」

 正直に言えば嵐山が声を発した時、俺は安堵した。それは情けない安堵。このまま彼が倒れていたら、今度は俺の番であったはず。伊禮にも情けない姿を見せ、更に軽蔑されていはず。今終われば全てが穏便に解決する。嵐山は可愛そうだが、致し方のないこだろう。

 しかし俺のその声を聞いた嵐山は、意に反する様によろよろと老人の様な足つきで立ち上がる。

「言っただろ。お前に覚悟を見せてやると」

 息も絶え絶えに嵐山は擦れた声でそう言うと、握った右手を天に突き出した。

「なんだなんだ中二病か? そうやれば強く何のかよ? じゃあ俺!」

「蔭川君つえー!」

 もうすでに勝ち誇ったようにふざけ出す三人を尻目に、なおも嵐山は腕を突き上げ続ける。

 しかし俺は見ていた。彼の右手に細かな光の粒子が集まっていくのを。

「何だか、暖かい」

 同じ光を見ていた伊禮は、小さく呟いた。

「おい、何やってんだそれ……!」

 右手が完全に光に包まれた時、やっと蔭川は事態の異常性に気づいた。殴打のダメージがまだあるのか足を震わせながらも、嵐山は左足をを前にだし右足に体重を乗せ半身を作り、左腕で顔面をガードしつつ、右拳を腰の位置まで引く。そして「覚悟」とだけ呟いた

「覚悟が光るわけねえだろ! 大迫、比嘉、やっちまえ!!」

 戸惑いながらも今にも飛びかかろうとする二人。嵐山は小さく長めに息を吐く。そして吐ききったと同時に、右腕を振り抜いた。

 光は勢いよく右拳から離れ、光弾となり、取り巻き二人を掠め、蔭川の顔の横を通り過ぎる。そして光弾は蔭川の背後にある廃材の山に吸い込まれる。それと同時に廃材は爆発四散し欠片は全て砂の様に粉砕され風にのり跡形も無く消え去った。

「は、は、ばけもん……うわあああああああああああああああああ!?」

「やってらんねえよ糞!!!!」

「おいまて比嘉、大迫! チッ!!!」

 目の前で起こった異常事態に逃げ出す取り巻き達。それを追いばつが悪そうに蔭川も体育館裏から走り去った。

 事態が収束した後少し呆けていた俺だが、先ほどの超常現象が気になり嵐山の右拳を覗き込んだ。彼の手は赤黒いグローブの様なものに包まれていた。しかし湯気のような白い気体がグローブ全体から噴出し、まるでアイスクリームの様に溶けて消えた。

「嵐山君、それって……何?」

 恐る恐る尋ねる。

「言っただろ。これが覚悟だ」

 まだ若干白い気体が出ている右手を振りながらぶっきら棒に嵐山は答えた。

「おかしい、変だよそんなの! わ、わ、わけわかんないいい!!」

 珍しく取り乱した伊禮は踵を返し駆け出した。

「追いかけてやれ」

 慈悲とも取れる様なその言葉に、これ幸いにと俺は何の反論も頷きもせずに全速力で走り出した。俺を助けてくれた、俺が友達になろうと思った、嵐山から。

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