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沼蛇の魔女と石の巨人  作者: 御度宇雲(おどぅ~ん)
最終章 聖戦

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第62話 滅亡獣(その2)

「ひゃっ」

 上階に通じる通路を、罠を警戒しながら先行していたベンが、上で小さいが頓狂な声を一つ。そして追いついた仲間たちにも、その声の理由は聞かずともすぐわかった。

 寒い。やって来たその階は、空気がキンと硬く冷えている。メネフが身震いを一つ、だがそれはただ寒いからではない。

「不死怪物は冷気に馴染む」、寒冷な場所を好み暑さを嫌う。シモーヌのような強大な魔力を持つ高位の不死怪物はともかく、下等な者は暖かい環境では勝手に体が腐って溶け崩れてしまうのだ。敵が人間界への侵略の魔の手をノーデルから伸ばしたのはおそらく、北国の涼しい気候を求めたのが一因だっただろうし、そして。

(つまりここからが怪物どもの本当の巣だってこった)

 メネフの眉間に浮かぶ険しい色をそっと伺うと、オーリィが。

「寒いのは仕方ないわね。でも、少しならましに出来るわ」

 そう言って、立てた人差し指の爪の先に炎を一つ灯すと。

「見ていて、すぐに()()()()()()()()から。まずわたしから」

 魔女はその炎を吹き消すかのように、息をふいと吹きかける。いや炎は消えず、しかし指を離れて宙を彷徨い出すと、やがてそれは魔女の体の周りをゆっくりと回り始めた。

「さ、みんなにも。決して体には当たらないから安心して」

 そして仲間の一人一人に向かって次々に炎の玉を放つ。

「わたしからあまり遠くに離れなければ、それはずっと点いたまま、自然にみんなを追っていくわ。

 ……どうかしら、こんなもので?」

 ゾルグがすかさず、自分に寄って来た炎の玉に手をかざして。

「やや、こりゃあったけぇ……それに魔女様、持たなくて済む松明とは、実に結構なもんでゲすな」

 その言葉にコクリと一つ、穏やかな微笑みを浮かべながら頷きを返した、オーリィのその顔。

 変わったな、そう思うメネフ。別れていた間、彼女に何があったのか?それは詳らかには聞いていない。ゾルグからただ、シモーヌと問答のため対峙させられていたとだけ。そしてゾルグもその議論の結末は聞いていない……

(だが読めねぇ)

 確かに変わった。しかし彼には、魔女の()()()()()()()()()までは分からない。覚悟を固めた者のそれか、あるいは全てを失った者の虚脱のようにも見えるのだ。

 すると。

 彼の肩をトンと叩くものがいる。テツジだ。大きな手の大きな指の一本で、巨人にとってはごく軽い力で。だがその一叩きはメネフの肩から腹にまでズシリと強く、しかし心地良く響く。

(そうだな、済まねぇテツ。余計な心配だったぜ。オーリィちゃんの側には今、お前がいたな。それなら何があっても……)

 恐るべきものは何も無い、この二人が、お互い側にいるならば。

 メネフはそう心で頷いて、手振りで再び皆を進ませる。

 彼らの今進んでいるその通路。まず今までと違うのは、その広さ。

 魔城は巨大な一本の塔であり、しかも下から上まで中央に吹き抜けが貫通している。従ってどの階もフロアは大雑把にはドーナツ型で、そのドーナツの上を狭い通路が複雑に曲がりくねっていたのである。ところによっては巨体のテツジが通るのに少々苦労したほど。

 だがこの階から、急にその通路が広々となった。仮に今、仲間達が全てテツジと同じ体格だとして、横並びに進んでも然程支障は無いだろう。

 幅広の道、すなわち。

()()()()ってことだ。一階一階の広さは変わらねぇんだからな)

 そう、敵は近い。メネフが心中少し身構えた、その時。

「みんな、く、来るよ!前から!」

 ベンが小声ながら、鋭くしっかりと伝える警報。その指差す先にいっせいに皆が目をやる。次いで。

「雑兵ばかりですが、かなりの数です殿下、皆さん!」

 アグネスの、突いた槍の穂先が震える。どうやらそれが不死怪物の気配を捉えているようだ。アグネスと槍の一心同体ぶりに今はしかし、非常のこととてメネフは驚きの声は飲み込んで。

「よし!テツ前をたのむ、オーリィちゃんも!ベン、アグネス、後ろはどうだ!?」

「こ、こっちからはまだ来ない!」「何も感じません!」

 そしてその間に、すでにコナマの守りについていたゾルグが。

「気に入りやせんな殿下!この辺はさっきからずっと一本道、なぜわっしらを挟み撃ちにしねぇんでゲすかねぇ?こりゃきっと、本当にヤバいのは後ろでゲすぜ」

 今彼らが「前」と呼んでいる方向から、大群で自分たちを「後ろ」に追い込む。あるいはそこに何らかの仕掛けや罠がと、ゾルグは勘繰るのである。その用心深い言葉を一度首肯しつつ、メネフはしかし。

「何か後ろにヤバいのがいるなら、つまり俺たちは()()()()()()()()()()()!そういうこったゾルグ!ならいっそ、ここは一気に前に押し通る、雑魚どもを片付けてそれからソイツを迎え撃つ!」

「……ガッテンで!」

 きっぱりと言い切ったメネフの声に、ゾルグは会心の笑み。この思い切りの良さこそが殿下の持ち味、と。メネフはさらに号令して、

「どうだテツ、オーリィちゃん!」

「おう!」「いいわ、任せて!」

「ベン!アグネス!そのまま殿についていてくれ!様子が変わったら知らせろ!」

「うん、わかった!」「お任せ下さい!」

「ゾルグ!代われ、婆さんにはオレがつく。お前にはやって貰いたいことがある!」

「へい殿下、それもガッテンで。脇道探しでゲすね?」

 どいつもコイツも、メネフは思う。

(気が利くヤツらだぜ!ああ、オレは本当についてる!ならこの博打も勝たせてもらうぜ、シモーヌ!!)

 そして魔城の薄暗がりの向こうから、彼の耳にも聞こえてきた。ガチャガチャとかしましい金属音をまとった足音の群れ。不死怪物の雑兵たち、だがここではそれらは具足をまとっているらしい。

(そうか、アグネスと戦うのにあの馬が呼び寄せた体は、ここから持ってきたんだな。装備だけは整ってるやつらか)

 だがそんなものは。

(前のあの二人にゃ関係ねぇ……!)


「ホホホ!テツジ、どうやらこの場はわたしだけでも大丈夫そうよ!」

 オーリィの次々に放つ爆裂光弾。その威力の前に、迫る怪物たちはその数も虚しくただ吹き飛ばされるばかり。まるで近寄らせず、むしろ魔女は大群を押し返している。

「迂闊ねシモーヌ、こんな広い通路でわたしを待ち受けるなんて!おかげで遠慮なく火の玉が撃てるわ!」

 そう、魔女オーリィの炎は狭い場所での接近戦には向かない。彼女自身はともかく、仲間を巻き添えにしてしまいかねないからだ。だが今この場所は、彼女がその神力を振るうのに格好だ。

(むむ)

 主のその危なげない戦いぶり。それを確認しつつ、しかしテツジは目を見開き油断なく用心を巡らせる。

(いや、あのシモーヌがこれを見越していないはずがない。ゾルグの言う通り、あるいは後ろから……)

 ふと感じた。巨人の素足の足の裏に、軽いがリズミカルな振動。それはこちらに迫ってくるような……途端に!

「来るよ!」「来ます!」

 後方を警戒していた二人が同時に叫ぶ。そして驚愕する!

「い、一匹、でも!」「こんなに……大きな?!」

 巨人の背筋にざわと走る悪寒。たちまち振り向いて、

「オーリィ様!前はお願いします!どけみんな!俺が下がる!!」

 仲間を掻き分けるように、急ぎ後ろに走り下がる。もう彼にも明瞭にわかる、接近する大きな地響き、こちらに押し込まれ吹いてくる空気、そしてうっすらと彼方に巨大な黒い影!

「行くぞ!!オオオオオオ!!」

 そしてテツジは雄叫びながらそのまま通路を突進していく。巨人の戦士の本能が知らせるのだ、間近ギリギリまで先に詰められてしまったら、この謎の敵の突進は止められない、こちらからも全力で体ごと激突するしかない!

「テーーーーーツ!」

 メネフの叫びと同時に、通路の彼方で聞こえたのは重い衝撃音、次いで。

「ヴァオオオオオーーーーン!」

 大きな喇叭をいくつも束ねて吹きまくるような、聞いたこともない獣の咆哮と、

「ムウウウウウウウウン!お、の、れぇぇぇぇぇぇ!!」

 巨人の食いしばった歯の間からあふれ出す、苦悶の叫び!

「ぬぬぬぬぬ……!!」

 テツジは確かにその怪物の突進を止めた。大きく押し返されながらも、仲間たちの目の前で、激突寸前に。だがそれが精一杯だ。今彼は額と胸をぴったりと当て、背中に引き絞るように肘を曲げた両手を突いてその肉の壁を押し返そうとしている。岸壁を蹴って穴を穿つ、巨人のあの強力な足の爪は床にガッキリと掛かり、踏ん張る両脚にもはち切れんばかりの筋力が横溢!

 ……だがびくともしない!石巨人の全身の剛力をもってしても、どうやら尚も暴れようとするこの敵を、その場に押し留めておけるだけ、もし片手片足でもその力が緩めばたちまち押し負ける。そう、彼にこの体勢から更なる攻撃など不可能だ。

 後方から現れたその巨大な怪物。通路を塞ぐほどの高さと幅の、毛むくじゃらの肉の塊。四つ足獣の不死怪物、メネフにも他の仲間たちにも、それだけはわかった。

 ……いや、前方から迫る死骸武者の群の相手にこちらも手一杯で、振り向く暇のないオーリィを除いて。だが無論、そのただならぬ脅威の気配は彼女の背にひしひしと。

(またこんな……ゾルグを攫った時と時と同じ!シモーヌ、あの卑怯者!!)

「オーリィ殿!」「魔女様ぁ!」

 その時、魔女に駆け寄ったのは。

「私が代わる、雑魚どもは私が食い止める!貴女はテツジ殿に加勢を!!」

「わっしもおりやすぜ魔女様!あの時のしくじり、ここでお返ししやしょう!」

「オーリィちゃん!!」

 そしてさらにメネフの声。

「あんたが今まで誰も助けられなかったってのは、そりゃあ!そん時あんたが独りぼっちだったからだ!オレだってそうだ、自分だけが助けるんじゃねぇ、助けてもらってその分を返す、だから出来ンだよ!今はオレたちがいるじゃねぇか!

 二人に任せろ、あんたは!テツを助けてやってくれ!!」

(殿下……!)

 オーリィは豁然と目を見開く。また一つ、迷いを払われた思い。

「アグネス、ゾルグ!今から大きいのを一つ撃つわ!それで隙を作る、そうしたらここを代わって!お願い、いいわね?!」

「承知!!」「ガッテンで!!」

(続)

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