34-1 十四日目の問題解決済
「あやねちゃん、紅茶飲むでしょう?」
「……エッ?」我に返ると、ネイルサロンのいつもの横長のソファに座っていた。「また私、意識を失ったんですか?」
「そうらしいよ。今日は早くからどこに行ってたの?」
「早くから?」
「だって、今、午前九時だよ」
「……エッ?」壁に掛かっている時計を見ると「千奈津さん、今日は何曜日ですか?」
「日曜日」
「……どうしよう。家に帰ってない」
「帰ってないって、昨日、どこに行ってたの?」
「どこ? どこ……どこだろう……」考え込むので「一応、紅茶ここに置いとくからね」千奈津が前のガラス張りのテーブルにカップを置く。
「あっ、ありがとうございます」カップを取って一口飲むと「アチッ!」
「まったく、大丈夫?」タオルを持ってきて渡すと「熱かった……」
「考えごとしながら入れたばかりの紅茶を飲んだら、舌を火傷するよ」
「……はい」
そこへミシュエルが帰ってきて「あやね、起きたか」
「ミシュウさん。どこ行ってたんですか?」
「私たちの前であやねを拉致ったアホを、然るべきところへぶち込んできたんだ」
「……さらにパワーアップしてるみたいですけど」
「リエルだけで対応できなかったから、余計な体力を使って疲れただけだ」
「リエルさん!」あやねが嬉しそうな顔をするので「なにを嬉しそうにしてるんだ。セイジツがどうなったか、覚えてないのか?」
「何があったんですか? そうだ、どうして次の日になってるんですか? 私、家に帰ってない。あれからどうなったんですか?」
「覚えてないって便利だな」
「どういう意味ですか?」
「まず、あやねを取り戻すまで時間が掛かったので、お前の友達を含め、全員の家にダミーを送って家に帰ったことにしてある。あやね以外は今、家に送ってきた」
「ダミー、ですか?」
「そして、セイジツは、あやねに憑りつていた厄病虫があやねの内面を食べていたのを、自分を犠牲にして助けたんだ」
「エッ? なんですか? それ」
「話したとおりだ。あやねの代わりにセイジツが厄病虫に食われた」
「エエエエエエエエエエエエエエエエエッ!」
「あやねちゃん、気持ちはわかるけど、ここ、集合住宅だからね」念のために注意する千奈津が「ミシュウ! あやねちゃんとの契約はどうするの!」
「だから、まだ話は終わってない」
「じゃあ、続きがあるんだ」
「当たり前だろう。いくら私でも、契約者の契約相手を食わせたままにはしない」
「なんか、言い方が変だけど、セイジツ君は無事なんでしょう?」
「今の説明を聞いてたか?」
「念のため、ちゃんと確認しないと、あやねちゃんが仮死状態になってるから」
ソファに座ったまま、硬直した蝋人形のように固まっている。
「さっきまでリエルの尻を追い駆けてたのに。セイジツに戻ったか?」
「ミシュウ、言い方が下品」
「私の計画を邪魔したんだ。そのくらい言われても仕方ないだろう」
「……不可抗力でしょう? ミシュウの邪魔をしなくても、リッ君はちゃんと業績を上げられるから」
「無意識に邪魔してるんだよ」
「それは……気のせいだって」
「自分でも自覚してたぞ」
ミシュエルがいつもの一人掛け用のソファに座ると、人型のアモニスがリエルと一緒に帰ってきた。