18-2 九日目の久し振り
「あやねちゃん、紅茶、ここに置くからね」
「……エッ? ……千奈津さん、なんでいるんですか?」
「それはね、ここがネイルサロンだからだよ」
「エエッ! どうして!」
「それはね、また意識を無くしてここまで来たからだよ」
「……また?」
「あやね。なにしに駅まで行ったんだ?」ミシュエルが、いつもの一人掛け用のソファに座って頭を抱えている。
「なにしにって、彼に会いに……会いに……あれ? 会った記憶が……」
「なにしに行ったかわかってるのか!」
「ミシュウ、あやねちゃんに怒るのは筋違いでしょう。ミシュウの計画がダメなんじゃん」
「私が立てた計画がいけないというのか?」声を荒げると「今回はチィちゃんが正しいですよ。先輩の計画は彼女に合わなかった、ということですね」
「リエルは黙ってろ」
「黙ってませんよ。今回は僕が付いていかなかったら、彼女の剣道仲間が、現場に踏み込むかもしれなかったんですから」
「いいんだよ。それは想定内なんだから」
「恐ろしい想定内ですよ、先輩」リエルはため息を吐くと「監督者が付いてる状態だっていうのに、まったく手を抜かない計画を立てるところは、まあ、先輩らしいと思いますけどね」
「だろう?」
「褒めてませんよ」
「リッ君、紅茶入れたから飲んで」ネイル用のテーブルにカップを置くと「ああ、ありがとう」
「クッキー食べる? お客さんにもらったものがあるんだけど」
「いいの? もちろん」
(千奈津さんのしゃべり方がいつもと違う。というより、リエルさんて誰? 王子様みたいなんだけど。マジで! ミシュウさんの知り合いみたいだけど、先輩ってなんの先輩なんだろう?)
あやねが座っている横長のソファの横に置いてある、ネイル用のテーブルの椅子に座っているリエルを見る。
(どこかの御曹司なのかな? サラサラの茶髪に笑うときれいな歯が見えて、テノールボイスに良い匂い。ハーフなのかな? ちょっと日本人離れしてる顔。それがまたかっこよすぎる~~~)
「あ、あの千奈津さん。こちらの人は誰ですか?」
「エッ? あ、ああ、彼はリエル君。ミシュウの一応後輩」
「チィ! 一応とはなんだ。れっきとした後輩だぞ!」
「でも、チームの中では、トップを争うライバルですよ」
「チーム?」
「ああ、君は気にしなくていいんだよ」
「は、はぁ」
「あやねちゃんには例の彼がいるでしょう?」千奈津がけん制するので「千奈津さんの彼氏さんなんですか?」
「エッ? あ、ヤダ、まだそういう……」
「違う!」すかさず否定するミシュエル。
「彼氏さんじゃないんですね?」
「嬉しそうな顔するな。セイジツは捨てるのか?」
「そんな事はしません! でも……」おいしそうに紅茶を飲むリエルを見る。
「リエル、帰れ!」
「ミシュウ! なんてこと言うの!」
「ミシュウさん! どうしてですか!」
「……そこだけ息を合わせたようにダブルで言うな」