16-2 七日目の休み
「私たちのこと知ってんの?」
「なんで?」
「あなた誰?」
「あ、ああ、俺から紹介するよ。こいつは俺たちの同級生で桧山悟。
北条高校、男子剣道部の主将なんだよ。
先日、スマホ見ながら自転車に乗ってた奴に後ろからぶつかられて、背中を打撲した上に、運悪く左腕が折れちゃったんだ。
来月の都大会に出る予定だったのに出られなくなっちゃって。
こいつ、華河さんたちのファンだから、元気づけてもらいたくて来てもらったんだ」
ベッドに横になっている桧山は、頭と左腕に包帯を巻いている。
「ちょっと、ぶつかってきた奴、捕まえたんだよね?」
「ああ、一緒に帰ってた部活仲間が捕まえてくれたよ」
「ちゃんとここに、謝罪しにきただろうな?」
「向こうが通ってた学校の担任と親と一緒に、きたよ」
「都大会に出られないことは言ったんでしょう?」
「ああ。泣きながら土下座したから……まあ、な」
「切れ!」小柄が吐き捨てるので「江戸時代じゃないよ」注意するあやね。
「いくらなんでも、切るのは無理だよ」ハハハッと苦笑いする桧山。
「許せないじゃないか! 都大会のために日々練習してきたんだよ!」
「努力が報われないじゃないか!」
「私たちが仕返ししてやる!」
「だから、謝りに来たってさっき言ってたじゃん」あやねが抑えると「ハハハハハハッ! みんな楽しいな!」大笑いの桧山。
「笑い事じゃないよ!」
「早く治して、都大会に出られなかった分を、来年にぶつけなきゃいけないだろう!」
「落ち込んでる場合じゃないからね!」
「ありがとう。元気が出てきたよ」
「じゃあ、元気が出てきたところで、たこ焼き食べる?」あやねが持ってきたビニール袋からパックを出すと「アアッ、ここのたこ焼き好きなんだ!」
「そうなんだ。よかった」
「やっと食べられるよ!」
「もう、お腹ペコペコ」
「冷めてないかな?」
「きっと食べやすくなってるよ」
ベッドを囲んで、みんなでたこ焼きを食べはじめる。
「桧山君、片手じゃ食べづらいでしょう?」あやねがベッド脇のサイドテーブルに置いてあるトレーを持ってくると、たこ焼きのパックを置く。
「ありがとう。華河さん、優しいんだね」
「あやねに手を出すな」
「手を出すなら、私たちを倒してからだぞ」
「切られたくないだろう?」
「どういう脅し方をするの」
その後、北条高校のグループ五人も熱いタコ焼きをおいしそうに頬張り、お互いの剣道の稽古話で盛り上がった。
午後八時十分前に面会時間が終わるアナウンスが流れるので、また時間ができたらみんなでお見舞いに来ると約束し、ゴミを持って病院から出ると「今日は遅くまで付き合ってくれてありがとう」先崎が声を掛けてくる。「アイツのあんな嬉しそうな顔、見られてよかった」
「友達想いなんだね」感心する長身の「友達その一」
「元気が出てよかったよ。同じ剣道をやる者として、力になれて私たちも嬉しい」見方が変わる小柄の「友達その二」
「早く退院できるといいね」笑顔のアイドル好きの「友達その三」
「でも、たこ焼きが好きだったなんて、買ってってよかったね」と言うあやねに「本当。華河さんの提案がドンピシャでよかった」
(本当は、ミシュウさんに、またたこ焼きを買えと言われたのを思い出したんだよね)
「なんか、桧山君の入院は長引きそうだね」心配になる長身に「頭打ったから、しばらく検査が続くらしいんだ」答える先崎。
「そういえば、頭に包帯捲いてたな」と小柄が言うと「早く退院できるように、お見舞いに行けなくても、メール出せばいいよ」アイドル好きが返す。
「えっと、先崎君だっけ。よかったらLINE交換してくれる?」あやねが携帯を出すと「いいの?」ビックルする先崎。
「桧山君のケガの具合が心配だから」
「ありがとう!」
「あやね、私がLINE交換する」長身の「友人その一」があやねの携帯を抑えて、自分の携帯を出す。
その後、座山駅までバスで戻ると、駅前で解散した。