第二十三部「ウードの新しき情報源、モウセンゴケ!」
因視点。第二十一部から数日後のお話です。
高三の夏休みも終盤に差し掛かったある日。私は、一之瀬侑菜の見舞いにやってきていた。
「調子はどう?」
「……あまり、良くない」
「……そう」
エイチャーの必殺技を受けたことによる肉体的ダメージと、自分が暴走して大勢の人達を危険に晒したことによる精神的ダメージは、計り知れない。今年度中の復学は、難しいかもしれない。
「……そうだ。これ……」
そう言って彼女がベッドの横に置いてある荷物から取り出したのは、クリートシードリングだった。
「……命が言ってた、モウセンゴケの……。……これ、どこで手に入れたの?」
「……もらったの。『クロユリ』っていう女の人に」
その名前に、私は聞き覚えがあった。
斎園路佳戀の騒動の時、タッカ・シャントリエリスピリンテントが言っていた名前。
「……どうやら事の発端は、その『クロユリ』って奴にあるみたいね」
私はコトマリギを鞄から取り出し、モウセンゴケクリートシードリングを装填した。コトマリギはコトリモードに変形し、病室の机に着地した。
「……なにか知っているなら、全部話しなさい」
モウセンゴケはしばしの沈黙のあと、モウセンゴケは口を開いた。口は無いけど。
『……おいどんは、何も知らなかったんでゴワス。まさか、クロユリに授かった力が、侑菜タンを暴走させるなんて……』
「授かった力?」
『……おいどんは、前世でアイドルの追っかけをしていたんでゴワスが、ライブで興奮してくも膜下出血で死んで、モウセンゴケに転生したんでゴワス。そんなとき、クロユリに『また女の子を応援しないか』って言われて……』
「それで、侑菜の手に渡ったのね」
『そうでゴワス。おいどんは、侑菜タンと会う前、クロユリに『元気が出る』って言われて、あるエナジーザイを注入されたんでゴワス。それがまさか、こんなことになるなんて……』
「……そのエナジーザイが原因ね」
『侑菜タン、本当にすまんでゴワス!』
「……いいよ。モーさんは、私に協力してくれただけだし」
『侑菜タン……!』
「……ああ、モウセンゴケだから『モーさん』ね……」
『江津と話をさせろ!』
『娘を返して!』
「……なに?」
「今の……」
『窓の外から聞こえてきたでゴワス!』
病室のカーテンを開けて外を窺うと、病院の玄関の前で夫婦らしき男女が「愛娘を奪った手術ミス!!」「許さない」と大きく書かれたスケッチブックを持って叫んでいた。
「手術ミス……?」
「……先週、盲腸の女の子が手術中に亡くなったって、聞いたことがある。きっと、それだと思う」
「そう。……!」
「どうしたの、因。……あ」
「ちょっと行ってくるわ! モウセンゴケは、預かっていくわよ!」
「待って!」
「なに?」
「因は、どうして戦うの?」
「……………………人と、霊の自由を守るためよ」
私はモウセンゴケクリートシードリングが挿さったままコトマリギを掴み、病室を飛び出した。
「……命も、そうなのかな…………?」
侑菜の言葉に、私は返答することができなかった。
病院内を走ってはいけません。
それでは。




