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異世界大家さん、のんびり開店中  作者: 匿名希望


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第八十三話 王都の影

1.王都の門


 高くそびえる城壁の向こうに、王都の尖塔が連なっていた。

 遠くから眺めれば壮麗で威厳に満ちた姿だったが、近づけば近づくほど、どこか歪んだ空気が漂っているのを感じた。


 城門前には長蛇の列ができていた。旅人や商人が検問を受けており、誰もが俯き加減で声を潜めている。

 兵士たちは無愛想で、影を恐れているというより、苛立ちと疲弊を隠せない様子だった。


 リナが小声で言った。

 「警備が厳しいな。王都も相当に不安定だ」


 私は仲間たちを見回し、小さく頷いた。

 「気をつけよう。ここからが本番だ」


2.影に怯える人々


 城門をくぐった瞬間、胸の奥がざらりとした。

 王都の大通りは確かに賑やかで、行き交う人の数も町とは比べものにならなかった。だが、その足取りにはどこか焦りと不安が漂っていた。


 「裂けるぞ」「心を裂かれる」――そんな囁きがあちこちから聞こえる。

 露店の商人たちは声を張り上げているが、買い物客は少なく、笑顔もほとんど見られなかった。


 リオが眉をひそめた。

 「なんだよ、まるでお通夜みたいじゃねぇか」


 マリエは布を胸に抱え、震える声で言った。

 「ここでも……影が人々の心を覆っているのね」


3.王宮の使者との再会


 大通りを進んでいると、以前港に来た王都の使者が出迎えてくれた。

 「大家殿、よくぞ来てくださった」


 だが、その顔色は青ざめ、目の下には深い隈があった。

 「都は……影に侵されつつあります。人々の心に不信と疑念が広がり、隣人同士が争うほどに」


 私たちは互いに視線を交わし、言葉を失った。

 祭りで灯した笑顔が、この都にはほとんどない。


4.市場の惨状


 案内されて訪れた市場では、さらに衝撃的な光景が広がっていた。

 布商人たちが客と口論し、僅かな裂け目の入った商品を「呪われている」と突き返される。

 食料品の棚も半分以上が空で、人々は押し合いへし合いして取り合っている。


 リナが険しい目で呟いた。

 「裂け谷の影……いや、それ以上の何かが、この都に巣食っている」


 幽霊少女は人混みを漂いながら、不思議そうに言った。

 「ねえ大家さん。ここって、みんな歌を忘れてるみたい」


5.試みる布と歌


 私は仲間と相談し、市場の一角でマリエの布を広げることにした。

 リオが声を張り上げて歌を始め、幽霊少女が風に舞うように踊る。

 やがて布が光を帯び、通りすがりの人々が足を止めた。


 「裂けても、繕える……?」

 「こんな歌、久しく聞いていない」


 わずかに人々の顔が和らぎ、布に触れた者の表情には涙が浮かんだ。


 だが、そのとき。


6.黒衣の影


 人混みの中から、黒い外套をまとった男が現れた。

 「歌など無意味だ」低い声が響く。

 「繕ってもまた裂ける。絶望こそが真実だ」


 周囲の人々がざわめき、怯えて後ずさる。

 リナが即座に剣を抜き、リオが前に出た。

 だが、男の姿は靄のように揺らぎ、影と同化して消えた。


 残されたのは、再び深い恐怖に包まれた人々のざわめきだった。


7.王宮からの召喚


 その夜、私たちは王宮へ呼び出された。

 玉座の間で王の代理人が告げる。

 「裂け谷の影の首領が、都を狙っている。歌と布の力を借りたい」


 代理人の声は必死だった。

 「どうか、都を救ってほしい」


 私は唇を噛み、仲間を見回した。

 マリエの目は怯えていたが、しっかりと布を抱きしめている。

 リナは剣を強く握り、リオは拳を震わせていた。幽霊少女は真剣な瞳で私を見つめている。


 ――ここが正念場だ。


8.大家の決意


 私は深呼吸し、はっきりと告げた。

 「裂けても、繕える。その思いを、この都にも広げてみせます」


 その瞬間、仲間たちの顔が輝いた。


 影が覆う王都に、私たちは立ち向かう。

 大家として、仲間を守り、町を繋ぐように。

 この都もまた、人々の心を繕うことができるはずだ。

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