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異世界大家さん、のんびり開店中  作者: 匿名希望


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第五十二話 港に来訪者

1.穏やかな朝に


 嵐からしばらく経った港町は、ようやく静けさを取り戻していた。

 丘の上の旗は今日も力強く翻り、人々の目に入るたびに安心の吐息をもたらす。

 私は下宿の縁側に腰掛け、潮風に吹かれながら欠伸をした。


「平和だな……」


 リオが台所から大きな声を上げる。

「大家さん! 朝飯、焼きすぎた卵いります?」


「焼きすぎたって……おい」

 笑いながら皿を受け取ると、妙に香ばしい匂いが鼻を突いた。


 こうした些細なやり取りこそ、嵐を乗り越えた後の宝物だった。


2.異国の船影


 昼過ぎ、港に大きな影が差した。

 水平線から現れたのは、見慣れぬ帆船だった。

 真白な帆には異国の紋章が描かれている。


 港の人々がざわめき、子どもたちは走り寄って歓声をあげた。

「大きい船だ!」

「見たことない模様だ!」


 私は思わず息を呑む。

「異国の商船か……それとも……」


 リナが横に立ち、静かに剣に手をやった。

「警戒はしておいた方がいい。だが、敵意は感じない」


 やがて船が港に着き、甲板から数人の旅人が降り立った。


3.来訪者たち


 最初に降りてきたのは、長衣をまとった学者風の男だった。

 その後ろには、背の高い護衛らしき女戦士、そして荷物を抱えた商人風の若者が続く。


「ここが……噂の港町か」

 学者風の男が感慨深げに言った。


 町の長老が駆け寄り、彼らを迎える。

「遠路はるばる、よくぞ。どのようなご用向きで?」


 男は深く頭を下げた。

「我々は大陸の学術院から参りました。この町に建つ旗――その由来を調べるためです」


 その言葉に、町全体がざわめいた。

 旗はただの目印ではなく、人々の象徴となっている。

 それを調べに来たという彼らの目的に、誰もが耳を傾けた。


4.下宿での接待


 長老の計らいで、彼ら三人は私の下宿に泊まることになった。

 夕暮れ、食堂にはいつもの仲間たちと来訪者たちが顔を合わせる。


 リオは商人風の若者に興味津々で話しかける。

「へえ、あんた異国から? どんな飯食ってるんだ?」


「えっと……干した魚と、硬いパンとか……」

「おー! 意外と俺たちと似てんじゃねえか!」


 一方でリナは女戦士と目を合わせ、無言のまま互いの剣を見比べていた。

 やがて女戦士が静かに口を開いた。

「良い剣だ。使い込まれている」

「あなたの剣も……無駄がない」

 二人は短く頷き合い、それで十分に通じ合ったようだった。


 学者風の男はマリエと縫い子たちに質問を浴びせていた。

「その布はどのような織り方か? 旗の縫い目は……」

 マリエは少し困惑しながらも丁寧に答え、縫い子たちが誇らしげに笑っている。


5.旗の秘密


 食後、男は真剣な表情で私に問いかけた。

「大家殿。あの旗は、誰が最初に掲げたものなのですか?」


 私は少し考えて答える。

「正直、詳しいことは知らない。俺が来たときには、すでに町の象徴だった」


 男は頷き、懐から古い書物を取り出した。

「この記録によれば、大陸の昔、同じ意匠の旗が嵐を退けたとされているのです。伝承では“裂けぬ旗”と呼ばれ……」


 その瞬間、食堂にいた皆の表情が引き締まった。

 嵐を裂いた旗がただの偶然ではないことを、誰もが悟ったのだ。


6.影の視線


 その夜、港に不穏な影が現れた。

 異国の船をじっと窺う黒い影が、路地裏をすり抜けていく。

 私は窓から気配を感じ取り、リナと目を合わせた。


「……来訪者だけじゃないな」

「ああ。旗を狙う者が他にもいる」


 静かな町に、新たな緊張が忍び寄っていた。

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