第63話、色々と告白
◆
弓の製作が終了したため、もうアトゥリの街に滞在する必要はなくなったな。と言う事で、私達は宿屋の一室に集まり談笑をしながら次の街へ旅立つ準備をしていた。
「そう言えばレイ、私達と旅する事を家族に説明しなくて良いのか? 」
「はい、もう一年近く旅をしていますが、家族からは孫が出来るまで帰ってくるなと言われていますので、大丈夫かと」
「そうか」
そしてレイゼルの子供は、暗殺の特別教育を受けるわけか。
前世の暗殺勇者は社会から裁かれない悪人を切除するため、暗殺は必要な仕事だと言っていたが——
仮に私との間に子供が出来たならば、聖職者の子供が暗殺者になるわけであって——
「アルド様? 」
レイゼルが小首を傾げる。
「いや、レイゼルの子供は暗殺者になるのかなと思ってだな」
「……アルド様が暗殺者にしたくないのでしたら、私達の子供は普通の子として育てます」
「それでは家族は黙っていないのではないのか? 」
「はい、ただし刺客は全て返り討ちにしてみせます。私、これでも一応、一族で最強の座を手にしていましたので」
……ん?
一族で最強の暗殺者が、孫を作るまで帰って来るなと言うのはおかしくないか?
そう、最高の仕事をする手練れを孫が欲しいからと言ってそう簡単に長期間、下手をしたら一生かかってもレイゼルより強い男が見つからないかもしれないのに、手放すだろうか?
……これはもしかして、レイゼルの侵食があまりにも危険すぎて、厄介払いされたのではないのだろうか?
「レイ、もしかして、侵食を家族に使ってしまった事があったりするのか? 」
「はい、訓練の最中、つい本気を出してしまって何度か殺しかけていますが? そうそう、それでお抱えの治癒術師を雇う事になりました」
つまり、そう言う事か。
……この考えを知ったらレイゼルが悲しむかもしれないから、この事は話さないようにしようと思う。
「そうか。……レイ、なんとなくだが子供が暗殺者を嫌がっても、大丈夫な気がしてきたよ」
「……なるほど、物心つくまでは帰るか帰らないのかは決めないと言うのも良いですね」
そこでリーヴェが口をあわあわさせている事に気がつく。
「リーヴェ、どうした? 」
よく見ればエルとイリスも目を白黒させている。
「あっ、アルドくん、レイゼルさんと子供を作るのですか? 」
「えっ、いや、言葉の綾であって、ただ私も今世は子供を作らないといけないかなと思ってきているわけだし——」
そこでエルからの鋭い突っ込み。
「えっ、今世、ですか? 」
しまった、またやってしまった。
しかしどうしよう? どう言い逃れよう?
……ん、待てよ。私はこの話題について嘘偽りを言ってきたが、それは果たして正しい選択なのだろうか?
……仮に本当の事を言って気持ち悪いと思われ私のパーティーから脱退されても、それは仕方がない事なのではないのか? そう、聖職者が偽りを述べ続ける事のほうが大問題であるのでは?
……話してみるか。
そうして私は、リーヴェに出会ってから前世が蘇った話をした。するとエルが気持ち悪がるどころか私の前世に興味を持ったらしく質問をしてきたため、私が知っている魔なる者を討伐するため旅をしていた勇者パーティーにいた頃の話をしてみせた。すると今度はレイゼルが暗殺勇者についての質問をしてきたため、暗殺勇者とのエピソードもいくつか話してみせた。
「なるほどなるほど、それでアルルはそれだけの魂レベルを手に入れているのですね」
一人納得顔のイリスに、今度は私が質問をぶつける。
「その魂レベルって言うのは、なんの事なのですか? 」
するとイリスが編み出した魔法、前世の記憶名簿について説明をしてくれた。そして私の直近の前世が、イリスと旅をしていた精霊魔法を自在に操る事が出来る存在と同じ名前であったという事も。
正直驚きである。前世でイリスと出会っていた事、そして精霊魔法を自在に操れていた事が。それは私は直近の前世が、勇者パーティーにいた頃と思い込んでいたから。
……しかし考えれば前世があると言う普通ではない事とまた記憶がある前世が勇者パーティーの頃と言う事実に、これは神様の何かしらの意図があるのではないかと思わずにいられなくなる。そう、今は分からなくても、いつかきっと、前世を覚えている意味が分かる日がくるような気がする。
つまり今世の私には、役目がある。
……しかし私は決めた、決めていた。今世は自由に生きると。だから私の役目が分かる日までは、仲間達と共に自由に生きる。
とそこで、一人リーヴェが目を見開き口を固く閉ざしている事に気付く。これは何か発言したい時の顔である。そこでリーヴェに顔ごと視線を向ける。すると——
「アルドくん! 」
「はい」
「リーヴェはアルドくんが男の人が好きなのかと思っていました」
「そうか」
「でもそれはアルドくんの前世が聖職者なだけであって、そして今世のアルドくんは家庭を築こうかと思っていて」
「そうだな」
「そしてリーヴェも家庭が築きたいです! 」
「そうか」
「リーヴェも、アルドくんと家庭が築きたいです! 」
「そう——えっ」
リーヴェは涙目になっているが、私から目を離そうとしない。これはただただ、私の返事を待っているのだ。
しかし困ったな。なんと答えようか? 私はリーヴェの事を女性としてみないように努力してきた。それは逆に言うならリーヴェが魅力的であって——
「リーヴェ、私は冒険者だから一緒にいるとこれからも危険な事が沢山あるかもしれないが、大丈夫か? 」
「大丈夫です! 」
「……あと家庭を築く事はだいぶ先になると思うが、それでも待っていてくれるというのか? 」
「はい、待ちます! 」
そこで手を握られる、レイゼルだ。そして彼女は、珍しく整った顔を崩して焦った表情をしている。
「アルド様、私も待ちます。だから見捨てないで下さい」
「えっ、いや——」
私がしどろもどろになっていると、エルがニヤニヤしながら口を開く。
「アルドさん、両手に花ですね」
それにイリスも続く。
「アルル、二人を泣かせたら駄目ですよ」
二人を泣かせない。つまり私が二人を幸せにする?
たしかに私の人生の中で二人と出会ったのは、縁ではあるが——
「……二人とも、それで良いのか? 」
「「はい」」
そうして聖職者な私に、婚約者が一気に二人も出来るのであった。




