八
「承認されない...か」
謎のハッカー"Aria"からの返信を待ちながら、僕は不正アクセスの防止を試みていた。しかし、うまくいかない。
ACCESS DENIED
Error: Insufficient privileges
Required: MAINTAINER level access
Current: DEVELOPER level access
「もう!なんで承認されないのよ!」
ピクシィが苛立たしげに叫ぶ。その横で、図書館員が静かに口を開く。
「MAINTAINER権限...それは、各地域の管理者にしか与えられていない特別な権限です」
「なるほど。要するに、システム管理者権限ってことですね」
話している最中も、不正アクセスは続いている。火の魔法のシステムは、徐々に書き換えられようとしていた。
「みんな!窓の外!」
ピクシィの声に振り返ると、街の向こうで巨大な火柱が立ち上っていた。
「始まってしまったか...」
図書館員の表情が険しい。
「実験段階の変更が、すでに実世界に影響を及ぼし始めています」
その時、待っていた返信が届く。
Aria > Sorry for the wait!
Aria > Just stopped another hacking attempt at ./world/physics/
Aria > And yes, I'm on your side. Former security engineer here.
Aria > BTW, you might want to check this out:
Aria > cat ./world/magic/elemental/fire.git/access_log
言われた通りログを確認すると、興味深い情報が見つかった。
Recent Access History:
user: dark_compiler (suspicious)
location: Northern Magic Tower
timestamp: 2 minutes ago
action: force push to master
「北の魔法塔...そうか!」
僕は地図を開く。この街から北に50キロほどの場所に、古代の魔法塔があるはずだ。
「図書館員さん。北の魔法塔には、MAINTAINERがいますか?」
「はい。北方領域のシステム管理者が常駐しています。ただ...」
彼は言葉を濁す。
「ただ?」
「一ヶ月ほど前から、姿を見ていないと聞きます」
その情報に、全ての繋がりが見えた気がした。
「乗っ取られているんですね。MAINTAINERの権限ごと」
新たな火柱が立ち上がる。街のあちこちで悲鳴が聞こえ始めた。
Aria > Hey, got a plan?
Aria > I can help with distractions
Aria > My magic macros are pretty effective ;)
マクロ...そうか、定型魔法を高速詠唱する人物がいるという噂は、彼女のことだったのか。
「決めました」
僕は図書館員とピクシィに向き直る。
「北の魔法塔に行く必要がある。MAINTAINERの権限を取り戻さないと、このシステム破壊は止められない」
「でも、どうやって...」
ピクシィの言葉が途切れる前に、新しいメッセージが届いた。
Aria > Need a ride?
Aria > I "borrowed" a flying mount
Aria > Already headed your way
Aria > ETA 5 min
それと同時に、新しいクエスト通知が表示される。
New Quest: [Restore the Authority]
- Travel to Northern Magic Tower
- Confront the dark_compiler
- Restore MAINTAINER access rights
Difficulty: EXTREME
Reward: ???
Warning: This quest involves system-level risk
「行きましょう」
図書館員が断固とした声で言う。
「私も同行させていただきます。Library Administratorとしての知識が、お役に立つかもしれません」
外では、次々と火柱が立ち上がっている。改竄された魔法システムが、制御を失い始めているのだ。
「了解です。じゃあ、準備を...」
言葉の途中で、新たな警告が表示された。
CRITICAL WARNING:
System corruption accelerating
Estimated time until critical failure: 3 hours
Multiple system areas affected
時間との戦いになりそうだ。




