三 どのキャラクターがどこまで知っていて何をしゃべったのかなんておう管理しないと決めた
「魔法の基本は、意思の力よ!」
ピクシィの声が、白亜の街を見下ろす練習場に響く。広場の中央に立つ僕は、初歩的な火球の詠唱に苦戦していた。
「意思を集中して、MPを変換するのよ!もう、こんなの基本中の基本じゃない!」
苛立たしげに腕を組むピクシィに、僕は思わずため息をつく。確かに、この世界での戦闘能力は必須だ。でも、どうにも腑に落ちないことがある。
「なあ、ピクシィ。この詠唱、なんかシンタックスがおかしくないか?」
「シン...タックス?」
首を傾げる妖精に、僕は目の前の練習用ターゲットに向かって詠唱を始める。
「fire_ball.cast(target = "practice_dummy", power = 1.0);」
詠唱と共に、小さな火球が形成される。プログラムのメソッド呼び出しのような詠唱で、魔法が発動するのだ。
Warning: Deprecated casting method detected
Recommended: Use new Magic API format
Example: cast("fire_ball", {target: "practice_dummy", power: 1.0})
「あれ?」
突如として視界に浮かび上がった警告に、僕は思わず足を止める。この警告文...まるでプログラムのデバッグメッセージだ。
「どうしたの?また変なメッセージでも見えた?」
ピクシィの問いかけに、僕は新しい書式で詠唱を試みる。
「cast("fire_ball", {target: "practice_dummy", power: 1.0});」
より洗練された火球が、スムーズに形成される。
Success: Magic cast completed
Performance: +15% efficiency
Note: Modern API format accepted
「お、うまくいったわね!やっとまともな火球が出せるようになったじゃない」
ピクシィは満足げに頷くが、僕の頭の中は別のことでいっぱいになっていた。APIフォーマット?デプリケーション警告?これって...。
「ちょっと、試してみよう...」
「help("magic_system");」
思わず呟いた言葉に、空中に青い光が広がる。
Magic System Documentation
Version: 3.14.15
Base Classes:
- ElementalMagic
- SystemMagic
- StatusMagic
...
「うわっ!な、何これ!?」
驚くピクシィをよそに、僕はさらに詳しいコマンドを試す。
「info("magic_system.ElementalMagic");」
Class: ElementalMagic
Extends: BaseMagic
Methods:
cast(spell_name: string, params: object)
modify(element: string, properties: object)
...
「これは...まさか」
プログラマーとしての直感が、この状況の本質を告げている。これは単なるゲームのようなシステムじゃない。これは...。
「version();」
World System Core
Version: 2.0.3-alpha
Build: 20240430
Status: UNSTABLE
Repository: world://main.git
「やっぱり」
僕の呟きに、ピクシィが不安げな表情で近づいてくる。
「ね、ねぇ...今のって、どういう意味なの?」
「この世界はサーバーなんだ。しかも、Gitで管理されている」
「さ、サーバー?Git?」
困惑するピクシィに、僕は説明を続ける。
「プログラムを管理するシステムがあるんだ。Gitっていうんだけど...要するに、この世界の法則はすべてコードとして管理されている。そして今、そのシステムに重大なエラーが発生している」
その言葉に、ピクシィの表情が変わる。
「ちょ、ちょっと待って!そんな深いところまで見えるなんて...通常の権限じゃ...」
彼女の言葉が途切れた瞬間、新たな通知が浮かび上がる。
Unauthorized access detected
Current access level: READ
Required level: CONTRIBUTOR
Note: Higher access rights required for system operation
「権限か...」
思わず顎に手をやる。この世界のシステムを修正するには、より高い権限が必要になるということか。
「あの...」
ピクシィが、珍しく遠慮がちな声で話しかけてくる。
「その、あなたが言ってることが本当だとして...その権限ってどうやって...」
彼女の言葉を遮るように、新たな通知が表示される。
New Quest Available:
[Repository Access Rights]
- Seek audience with Regional Repository Maintainer
- Prove your worth as a potential Contributor
- Obtain basic access rights
Difficulty: High
Reward: CONTRIBUTOR access level
「なるほど」
僕は空を見上げる。白亜の街の向こうには、巨大な魔導図書館が聳えている。その最上階に、この地域のRepository Maintainerが居を構えているという。
「よし、決まりだな」
「え?何が?」
「図書館に行こう。まずは、この世界のシステムについてもっと調べる必要がある」
ピクシィは複雑な表情を浮かべながら、小さく頷く。
「...まったく。べ、別にあなたの言ってること、全部信じてるわけじゃないんだからね!でも...その、サポートするのは私の仕事だから...」
彼女の言葉に、僕は思わず笑みをこぼす。
「ありがとう、パートナー」
そうして僕たちは、白亜の図書館へと歩き始めた。この世界の真実を探る、最初の一歩として。
Command History Updated:
> help("magic_system")
> info("magic_system.ElementalMagic")
> version()
> git status
fatal: Not a git repository
Permission denied: Requires CONTRIBUTOR access




