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二 ここから紆余曲折/右往左往がはじまる。

「まずはシステムの基本構造から説明するわ」


 ピクシィの声が、白亜の病室に響く。魔導石で編まれた壁面に浮かぶ魔法陣が、かすかな輝きを放っている。その青い光は、前世でデバッグ用のトレースログを見ていた時の色とよく似ていた。


「はいはい、わかったから早く説明して」


 ツンとした様子でピクシィが腕を組む。その背後に広がる半透明のインターフェースウィンドウには、チュートリアルの進捗状況が表示されている。


Tutorial Progress: 0/10

Current Task: Basic System Understanding


「もう!ちゃんと真面目に聞きなさいよ!」


 ピクシィが怒ったように頬を膨らませる。その仕草は計算されたように可愛らしいが、目の奥には本気の心配が覗いていた。


「このエラー状態を放置すれば、あなたが作ったVRシステムと現実世界の境界が完全に崩壊するかもしれないのよ?」


 彼女の言葉に、僕は真剣な表情を浮かべる。確かにその通りだ。画面右上に表示された赤いエラーコードが、その深刻さを物語っている。


System Status: WARNING

Boundary Layer Integrity: 47.3%

Error Propagation Rate: 0.02%/h


「現状を整理しましょう」


 僕は思考を整理するように、空中にシステムウィンドウを展開する。前世での習慣が、この世界でも通用するらしい。


「私の開発していたVRシステムがエラーを起こし、それが現実世界との境界を揺るがせた。その状態で事故に遭い、システムごと異世界に転移。しかもエラー状態は継続している...という理解で正しい?」


「う、うん...そうよ」


 ピクシィは少し驚いたような表情を見せる。その様子に、思わず口元が緩んだ。


「ふーん。意外とできるじゃない...」


 彼女は慌てて視線を逸らす。ツンデレという設定なのか、それとも本来の性格なのか。まあ、今はそれを考える時ではない。


「で、このエラー状態。具体的にはどんな影響が出ているの?」


 質問に答えるように、ピクシィは空中に新たなウィンドウを展開した。そこには、この世界の「システム」についての詳細な情報が表示されている。


World System Architecture:

- Magic System (Stability: 82%)

- Status System (Stability: 91%)

- Quest System (Stability: 88%)

- Skill System (Stability: 75%)

...


「ふむ。スキルシステムの安定性が特に低いか...」


 データを見ながら呟く。プログラマーとしての経験が、自然と分析を始めていた。


「ちょっと!どうしてそんなに詳しく読めるのよ!」


 ピクシィが驚いた声を上げる。その反応に、現状がより鮮明に見えてきた。


「なるほど。通常、この世界の住人には、こういった詳細なシステム情報は見えないんだね?」


「も、もちろんよ!普通は基本的なステータスと、一部のスキル情報しか見えないわ。こんな...システムの根幹に関わる情報なんて...」


 言葉の途中で、突然新しい通知が画面に浮かび上がる。


New Skill Acquired!

[System Analysis] Lv.1

- Ability to analyze and understand system structures

- Current error detection rate: 5%

- System information visibility increased


「やっぱり」


 僕は口元に薄い笑みを浮かべる。予想は的中した。前世でのプログラミングの知識や経験が、この世界では「スキル」として具現化されるというわけだ。


「ちょっと、その余裕そうな顔は何よ!」


「いや、この状況が少し見えてきたんだ」


 画面に表示された情報を指でスクロールしながら、僕は説明を続ける。


「このエラーは、おそらく私が開発していた時から抱えていた根本的な問題ね。VRとリアルの境界があまりにも曖昧になりすぎて...」


 説明の途中、新たな警告が表示される。


Warning: Anomaly Detected!

Location: Current Room

Type: Reality Distortion

Severity: Low


 部屋の一角が、まるでデジタルノイズのように歪み始めた。


「危ないわ!」


 ピクシィが慌てた様子で僕の前に飛び出す。その小さな体から放たれた青い光が、歪んだ空間を包み込んだ。


System Protection Field Activated

Distortion Contained: 98%

Field Stability: 100%


「はぁ...なんとか抑え込んだわ」


 安堵のため息をつくピクシィ。その仕草には、さっきまでのツンツンした様子は微塵もない。


「ありがとう。助かったよ」


「べ、別にあなたを守ろうとしたわけじゃないわよ!システムの安定性を保つのは、私の仕事だから...ってだけよ!」


 慌てて取り繕う彼女の姿に、思わず笑みがこぼれる。と、同時に新たな通知。


Quest Updated:

[Welcome to Another World]

- Basic system understanding: Completed

- Witness reality distortion: Completed

- Learn about system errors: In Progress

Progress: 3/10


Reward Obtained:

- EXP: 50

- Title: [System Researcher] unlocked

- New Skill Tree Branch: [Reality Manipulation] available


「さて」


 僕は、ベッドから完全に身を起こした。窓の外には、幻想的な白亜の都市が広がっている。その風景は、まるで自分が作っていたゲームのように美しい。


「具体的なアクションを考える時間だね」


「え?」


「プログラマーとしての経験則からすると、こういったシステムエラーは放置すれば悪化の一途を辿る。エラーの原因を特定し、修正するまでの間に、最低限の安定化処理は必要ってこと」


 その言葉に、ピクシィの目が輝きを増す。


「じゃあ、あなた...」


「うん。まずはこの世界のシステムについて、できる限り情報を集めないと。それと...」


 僕は自分のステータスウィンドウを開く。レベル1の初期状態。これでは、システムに干渉するどころか、身の安全も怪しい。


「基本的な戦闘能力も必要になるだろうね。この世界での生存技術として」


「もちろん、それは私が教えてあげる...って、べ、別にあなたのことが心配だからじゃないわよ!」


 慌てて付け加えるピクシィに、僕は頷きを返す。


「よろしく頼むよ、パートナー」


「えっ!?」


 赤面するピクシィをよそに、僕は新たなウィンドウを開いた。やるべきことを整理するためのタスクリストだ。このあたりの操作感は、前世のプログラミング時と変わらない。


Task List:

1. Basic combat training

2. System information gathering

3. Error cause analysis

4. Temporary stability measures

Priority: High

Status: Ready to start


 画面の向こうに映る白亜の都市が、夕陽に照らされて輝きを増していく。その光景は美しいが、どこか不安定さを感じさせる。まるで、バグを抱えたプログラムのように。


「よし、始めようか」


 その言葉と共に、僕の異世界での本格的な生活が動き出す。エラー修正という明確な目的。プログラマーとしての知識。そして、ツンデレな妖精のサポート。


 これが、僕に与えられた新たな「デバッグ」の始まりだった。


New Quest Started:

[Debug the World]

Difficulty: ???

Reward: ???

Description: Fix the system errors affecting this world.

Warning: This quest cannot be abandoned.

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