プロローグ
とりあえずプロローグ置いておきます。
ジャスバールでの騒動も一段落。
向こうしばらくはアウストラでゆっくり過ごそうとしたのも束の間。帰国して早々、童貞は腹黒イケメンより呼び出しをくらっていた。
そんな国王ユリウスの執務室での出来事。
………………
…………
……
「ヨハン男爵! ジャスバールでの活躍見事なものだったな! あの狸親父のライオネス王より感謝の書状が何通も届いたぞ! あっはっはっは!」
終始ご機嫌な腹黒イケメン。
六四に分けたサラサラな金髪をふわぁさと、かき上げて高笑いしていた。
きっとライオネス王にしてやったり的なところだろうか。しかし童貞からしてみれば、あちらが狸なら腹黒イケメンは狐のような気がしないこともない。
これからも狸と狐の化かしあいが続きそうな予感。誠にもってそれに巻き込まれたくない所存。
「有り難きお言葉。ジャスバールとの関係が良好のようで何よりです」
「ああ、これでしばらくの間はこちら側の意見がすんなり通りそうだ。それに男爵のおかげで交渉もしやすい。国の財政が潤いそうだよ」
意見とはなんだろうか……。
この人きっと相手の足元を見るどころか、相手がノーと言えないことをいいことに、ゴッリゴリの外交政策を考えてるんだろうなぁ……。
そのしわ寄せが童貞にこないことを祈るばかり。
「そういえば男爵に手配した住居の住み心地はどうだ? 気に入ってもらえたかな?」
そう語るとニッコリと笑う腹黒イケメン。
そう、そうなのだ……。
童貞がジャスバールに出張している間に、貴族街に用意されていた新住居。
かつてハーフベルに用意された特務隊支部にも引けを取らない豪邸だった。
実はこの豪邸、先のカリュウーグ事件で爵位剥奪、お家取りつぶしとなった伯爵家のものらしい。
非常に豪華な邸宅だが、前の持ち主に呪われていないかが心配なところ。
しかし、忠実なる国家の犬である童貞は、口が裂けてもそんなことは言えやしない。
常に選択肢は"はい"か"イエス"のみ。雇用主のためなら喜んで尻尾を振らねばならないのだ。
「はい、それはもう! 家族も非常に喜んでおり、ご配慮いただいた陛下にはなんとお礼を申し上げれば良いのかわかりません」
童貞が帰国時、出迎えてくれた家族の中で、唯一シェリーだけが謎のザ・お嬢様をしていた。よくわからないうふふ言葉を使っていたのは記憶に新しい。
今更ながらシェリーのイカれ具合がちょっと心配なお兄ちゃんです。
「ふっ、礼などよい。私と男爵の仲ではないか。また困ったことがあれば何でも言ってくれ。優先的に男爵に回そう」
「ありがとうございます」
暗に特別視してあげるから結果出せよと感じるのはなぜだろう? もうほんと怖いこの人。
「さて、そろそろ本題を話そうか」
「……と申しますと?」
ですよねー、わざわざ世間話するために呼ばれてませんよねー。
「男爵に下賜したドラクロア領についてだ」
「え、何か問題があったのでしょうか?」
「何か問題って……。あははは、そんなあっけらかんと言われてしまうと逆に頼もしいな!」
え、今どこで笑う要素があった? 何か思いっきり地雷を踏んだ感じがするんだけど?
「現在、男爵のドラクロア領は魔物支配地域の中にある。それは周知しているな?」
「はい、もちろんです」
「かつてバルバネス魔瘴国の支配地域だったドラクロア領は、名目上は我が国の領土となっているが三百年も手付かずのままだ。男爵にはこれが何を意味しているかわかるか?」
「……周囲の魔物が強い、ということでしょうか?」
「その通りだ。しかも魔物だけではなく、かつて魔王軍を率いた亜人たちの生き残りが、蛮族として我々の前に立ち塞がるのだ」
なるほど……、どうやら先住民の皆さんとの関係性は完全なアウェーのもよう。
近隣住民の皆さんへ引っ越しの挨拶に手土産持って行ったら、問答無用で顔面にグーパンをぶち込まれそうだ。さらに両手両足を繋がれてウッホウッホされた後に火炙りテンプレまで垣間見える。
「きっとその蛮族らは今も魔王パドスの復活を待ち望んでいるのだろう。だからこそ男爵には、ドラクロア城に乗り込んでもらい、未だ行方がわからぬ魔王パドスのダンジョンコアを探して出してもらいたい」
え、ドラクロア城にダンジョンコアってあんの? てっきり一から用意するものだと思ってた。
「男爵がドラクロア城を押さえて迷宮都市を建設してくれるのならば、蛮族たちも魔王復活の諦めが付くというもの。仮にそうならなければ、ドラクロア城を橋頭堡として蛮族たちを一掃することも出来る」
なるほど、これは童貞が先住民の皆さんたちのヘイトを鬼のように頂戴することになりそうですなぁ。
「既にハーフベル領主のチャベコフにも動いてもらっているが、ハーフベルからドラクロアまでの街道を早急に完成させる予定だ。月内にはアウストラからも数千人規模で人を出す」
童貞の想像以上に税金と大人たちが投入されるようだ。これは失敗出来んな……今更ながら胃がキューって痛くなってきた。
「そういうわけで、男爵には帰国して早々で申し訳ないが、まずは一度ドラクロア領まで視察に行ってもらえないだろうか? 本当に魔王パドスのダンジョンコアが残っているかどうかの真偽だけは確かめておきたい。それにダンジョンクリスタルの覚醒者が現地まで赴けば、今まで見つからなかったダンジョンコアにも何かしらのアクションが起きるんじゃないと思ってね」
まじか、帰国してすぐに国王クエストかよ。
帰国してからも家の手続きやなんやかんやあり、キャバクラ行けてないんだか?
しかしこれも致し方なし。
「承知しました! すぐに出発の準備を致します」
「おお、男爵ならそう言ってくれると信じていたよ! それであれば男爵の護衛に騎士団からも兵を出そう」
騎士団か……、そんな大所帯で動くとかえって時間ばかり掛かってしょうがない。
ここはお断りせねば。それに童貞には距離を端折る秘策もあるし。
「陛下、それには及びません。ただ行って調べて帰ってくるだけですので、少数で動いた方が今回は早いかと。全てこちらにお任せください」
「あっはっはっ! ほんとこういうところは豪胆だな! さすがライオネスよりロードヴァンガードの称号を授かるだけはある! 我が国も男爵になにかしらの称号を用意した方が良さそうだな」
「ご冗談を……恐れ多いです」
勘弁してくれ。ただでさえあんたに首輪嵌められてんのに、誰が好き好んでその首輪を太くしたいかっつーの。
「そう謙遜するな。きっと男爵はまた武功を立てるよ。まあ、それはさておき、もし必要な物や経費があればこちらで用意しよう。随時教えてくれ」
「承知しました」
こうして童貞はめでたく国王クエストを授かり、自領であるドラクロアまで行くことになった。
まだ見ぬ我が領地。
吉と出るか凶と出るか。
とりあえずまずは家に帰ってみんなに相談しよう。
◆◇◆
王宮から馬車を出してもらい帰宅する童貞。
扱いが数か月前とは雲泥の差。
社長に気にられた平社員が、タクシー券を貰って帰宅する様子が何故か脳裏に浮かぶ。
そして乗りつけた先は、【凹】の形をした大豪邸。
三階建ての庭付き、使用人付きという新米男爵に似つかわしくない立派な屋敷だった。
「おかえりなさいませ、旦那様」
馬車の扉を開けられると、童貞を出迎えたくれた執事のゴードンさん。
こちらに挨拶をすると恭しくペコリと頭を下げた。
四十代後半のナイスミドルな執事さんだ。
「ゴードンさん、出迎えありがとうございます」
そしてそのまま玄関に案内されると、どこからともなく童貞専用メイド部隊が現れて、着ていた上着を自然に脱がしてくれるという。
なんという気遣い、なんという所作、なんという癒し、なんという満足感!!
夢にまで見た童貞専属のメイド部隊を、まさかこのタイミングで手に入れることが出来ようとは、……感無量過ぎる。
「ありがとうございます」
あまりの感動に自然とお礼も出てしまう。
実はこの使用人たちも、前伯爵家からそのままスライドされた方々。
新しい雇い主が童貞のような冴えない男で逆に申し訳ない。
使用人たちに下剋上されないよう、童貞は彼らをリスペクトしていく所存。
特に彼らの給料。
童貞に毎月支給されるお給料の金貨二十枚に使用人たちの給料も混ざっていたりする。
金の切れ目が縁の切れ目とも言うし、支払い忘れがないようにしないとな。
それからしばらく、ゴードンさんに案内されて長い廊下をとぼとぼ歩く童貞。
そして辿り着いたのは。
「ただいまー」
「あ、おかえりなさい、隊長!」
「あら、意外と早かったのね?」
「師匠、おかえりなさい!」
「お兄様、おかえりなさいあそばせ」
邸宅の一階に設けられた、だだっ広いリビング。
そこにルナ氏、ツンデレお嬢様にリアム君、そしてちょっと頭のイカれたシェリーがソファーで寛いでいた。
「あれ、他のみんなは?」
「ラウルさんとネイは道場で、ケイシーは図書館、カミラさんは役所で、フィリスとルフレノは冒険者ギルドに行ってます」
一息にルナ氏が教えてくれた。
そう……、そうなのだ。
童貞の家があまりに広く寂しいもんだから、みんなに”仮だけど特務隊支部として使う?”って聞いたところ、満場一致で賛成された。
なので童貞が事務所の用品を集めないとなぁ、と考えていたところ予想外のことが起こる。
面々が実家より大きな荷物を持って、童貞の家へとやってくるではないか。
どうやら童貞と特務隊メンバーとの認識に取違いがあったもよう。
童貞は事務所機能だけを考えていたのだが、面々はハーフベルのように住み込みが出来ると思ったらしい。
まあ、言ってしまった手前、面々が良いなら特に断る理由もない。むしろ女子たちと再び一つ屋根の下なので、心の中の”ハイ、ヨロコンデー”が止まらない。
ちなみにフィリスとルフレノ氏はどさくさ紛れに住み着いたわけだが。なんでなん?
ただ、一番予想外なのはローズリリイだ。
大人しく実家に帰ると思いきや、童貞宅にアンガスター家から運ばれてくる高級そうな家具の数々。
一番広い部屋に陣取られ、しかもお嬢様専用メイド隊の区画まで決められてしまい、あっという間に大所帯と化してしまった我が家。
というか、お嬢様に一言だけ言いたい。
――お前は帰れよ、まじで。
むしろ童貞宅に住む理由がわからない。
確実に向こうの実家の方が住みやすいよね?
なぜ、童貞宅に住むのか……、わからん、まじでわからん!!
「それでヨハン? 陛下はなんて言ってたの?」
まるで”住んで当たり前じゃないの”と言うかのように、ツンデレお嬢様からお声掛けを頂戴する。
「ジャスバールでのことを褒めていただいたのと、一度自分の領地を見てこいと言われました」
「へぇー、良かったじゃないの。陛下にお褒めの言葉をいただけるなんて中々ないことなのよ? 光栄に思いなさい。それで、ヨハンの領地はいつ行くの?」
ぐぬぬぬ……お嬢様着いてくる気満々だな。
「まだ詳しく決めてませんが、近日中と言ったところでしょうか」
「そう、じゃあまた予定決まったら馬車を用意するから教えて頂戴」
やはりか。
しかし、今回は馬車旅をするつもりはない。
あれはあれで楽しいが、正直なところ時間がもったいない。
なので。
「わかりました。また予定が決まり次第リリイさんにも相談しますね。……あ、そうそうリアム君? ちょっと話があるから一緒に部屋まで来てほしいな?」
「はい、師匠! すぐに行きます!」
そうしてそそくさとリアム君を連れてリビングを後にする童貞。
今回は時間の節約といこうじゃないか。
【あとがき】
本日も異世界えぶりでいを読んでくださりありがとうございます!
というわけで、七章のプロローグでした。
七章のスタートは4/6を予定してます!
またダラダラと書いてまいりますので、読者の皆々様お付き合いくださいますよう、よろしくお願い致します。




