5話 迷宮狂葬曲 その2 最悪の予想
お久しぶりです。
更新してまいります。
イケオジとの話を終えて自室に戻った童貞。
あまり知りたくはなかったが、色々と衝撃の事実が判明してしまった。
内容は以下の通りである。
まず確定情報なのは、この国の迷宮創造者は既にお亡くなりになっているということ。
ただ、五年前まではまだご存命だったということ。
そして何故かこの国の第二王子が所有者死亡のダンジョンクリスタルを持っているということ。
以上、三点である。
もうね、誰かが何かをしたとしか思えないこの状況……。
誰とは言わないが、名探偵ばりに犯人当てちゃったら、逆にこちらの首がちょんぱされるという極めて異例な事態。
なお、相手はこちらの口封じなど造作もなく出来るほどの財力と国家権力をお持ちだ。
生きてジャスバールから離脱するには、如何に童貞が知らんぷりが出来るかに掛かっている。
というか、これはもう即刻アウストラに帰った方が良い案件なのではないだろうか?
特に三日後に行われる式典の内容が本気でやばい。
目的はギリアム殿下の持つダンジョンクリスタルと魔力注入用の魔法陣をリンクさせて、ダンジョンに直接魔力をぶち込むというもの。
イケオジの話だと、ジャスバールで一番デカい闘技場を閉鎖して、そこに大規模な魔法陣と観客席を用意したらしい。
しかもその魔法陣にぶち込むのは、魔石に貯められた魔法使い一万人分の魔力となる。
これがどういう結果に繋がるのかイメージして欲しい。
石油ファンヒーターに燃料となる灯油ではなく、揮発性の高いガソリンをぶち込むという暴挙を。
結果、気化して漏れ出したガソリンは熱源から引火して爆発を起こすだろう? 今回やろうとしていることは規模や内容は違えど同じこと。
そう、使用する燃料が違うのだ。
彼らは本来ダンジョンコアに必要な星体エネルギーではなく、我々が魔法を行使する際に使用する魔力という名の燃料を注入する。
そんなものを無理やりぶち込んだらどうなるのか?
ダンジョンコアが暴走するという、最悪な未来くらい容易に想像が付いてしまう。
ああ、このままこの国に居続けても、間違いなく面倒くさいことに巻き込まれるだろうなぁ……。
うん……、めっちゃおうちに帰りたい。
しかも誰にもバレないように。
むしろこのまま誰か童貞を究極のステルス性能のあるダンボールに梱包して自宅まで運んでくんないっすかね?
なぜ異世界宅配便なるものがないのか。
非常に悔やまれる。
ああ……、しかし、帰りたいと思えば思うほど、この帰れない現状に絶望してしまう。
悲しいかな、公務員。
この国でも権力トップ10の座にランクインされるイケオジからのお誘いを誰が断れると言うのか。
童貞に残された選択肢は満面の笑みでイエスのみ。なんならサムズアップしながら応えなければなるまい。
こうなれば如何にこちらの被害を最小限に留めれるかを考えた方が得策と見える。
まずはチームの面々に相談して意見を聞きましょうかね。
◆◇◆
――そして夜。
独り悶々とした時間を過ごした童貞は、休みをエンジョイしてきた面々を自室に集めて、今日の経緯を丁寧に説明をしていった。
突如として童貞から聞かされる重い話。
昼間エンジョイしてきた面々もことの重大さを理解し、自然とその表情も険しくなっていった。
「で、ヨハンは間違いなくダンジョンクリスタルが暴走するって踏んでるわけね?」
そんな逆風が吹き荒れる中、なぜか一人俄然やる気を見せるローズリリイ。
ほんとこのお嬢様逞しいわ。
「ええ、その通りです。正直どのような被害が出るのか全く見当がつきません」
「ちなみにヨハンの力でジャスバールのダンジョンを操作して暴走を止めることは出来ないの?」
「残念ながら無理です。ダンジョンを操作するには直接ダンジョンコアに触れて支配下登録するか、登録済み……ダンジョン所有者が死亡しているダンジョンクリスタルを吸収しなければなりません」
「あらそうなの? 意外と使えないのね? さすがにギリアム殿下の持つダンジョンクリスタルを奪うことなんて出来ないし、今からダンジョン最下層に向かうのも現実的じゃないわね」
使えなくて悪かったな、と嫌味の一つでも言いたいところだが、ローズリリイの言う通り打つ手がないのが現状だ。
毎度毎度この360度塞がりに直面するのやめてほしいんだけど、ねえ?
「スコルツ卿にも相談しようかと考えましたが、余計な混乱を招くだけだと思い自重しました。現状、我々に出来ることはトラブルに備えることくらいでしょうか。ですので明日から皆さんに備品の調達をお願い出来ればと」
「備品の調達? 何がいるの? なんならオリバーの伝手で商会を呼ぶことも出来るけど?」
ローズリリイの言葉に傍に立っていたオリバー氏が童貞に向かってペコリとお辞儀をする。
こんな離れた土地にも伝手があるとはさすが敏腕執事。その繋がりまでもが優秀すぎる。
「そうですね、ではお言葉に甘えさせていただければと」
「ヨハン様、承知しました。明日には手配致しますが、どのような物をお求めでしょうか?」
「では各種ポーション類に水、食料。そしてテントなどの寝具やランタンなどの照明魔具。もしかしたら避難民も集まる可能性があるので、なるべくたくさん用意していただけると……」
童貞が言葉を続けようとしたところ、なぜか慌ててルナ氏から言葉を被せられる。
「あ、あの! 隊長? もしかして隊長が想定してる被害って都市全体に及ぶものなんですか!?」
驚いた顔ですらべっぴんさん。ルナ氏の顔面クオリティが高すぎる。
「そうですね、最悪を予想するとすれば都市全体を巻き込んだ魔物の暴走となります。大量の瘴気がダンジョンから溢れだし、街中の至るところに魔瘴石が出現……なんてことになる可能性も考えられますので」
「……そんな」
一言そうつぶやき俯くルナ氏。
どうやら慈愛の女神ルナ氏にはショッキングな内容だったようだ。これは童貞がフォローせねばなるまい。
「ルナさん? これはあくまでも可能性です。確実にそうなるわけではありませんが、準備しておくに越したことはないかと。もしそうなったとしても我々はいち早く動けますので、住民の皆さんの避難誘導や出現したモンスターの討伐が出来ます。万が一の時の被害を最小限に留められるようルナさんの力を貸してくださいね?」
そんな童貞の言葉に。
「もちろんです! 一人でも多くの人を救えるように万全の準備をしときます!」
ふんすと、小さな手で握り拳を作るルナ氏。
くそ、ルナ氏の所作がイチイチ可愛い。どんだけ童貞の心をときめかせれば気が済むのか。
するとルナ氏の隣りにいたローズリリイも。
「ヨハン、大丈夫よ。モンスターなら私が全部ぶった斬ってあげるから安心しなさい!」
なんだろう、このツンデレお嬢様とルナ氏の格差は。
同じ美少女でもなぜこうも違うの?
ローズリリイには可憐という言葉を一度辞書で調べていただきたい。
ま、でも頼もしいので許す。
「リリイさん、頼りにしてますね。万が一の時はよろしくお願いします」
「し、仕方ないわね! 力になってあげるから感謝しなさいよ!」
Oh……ツンデレぇ。
やはりこいつはこうでなければ。
で、あるならばツンデレ愛好家の童貞としても、ここはヨイショの見せどころ。
「ありがとうございます、リリイさん。毎度のことながらリリイさんには感謝してもしきれません」
言わずもがな。
ローズリリイが赤面したのは言うまでもない。
――くくく、予定通り(ニヤリ)
こうして来たる三日後の式典に向けて我々の準備は始まった。
願わくば何事もないことを祈りたいが望みは薄いだろう。
ならばせめて五体満足で生きて国に帰りたい。
少々の怪我くらいならもうへっちゃらなんで。
頼むぞ神様。
フラグにならないことを祈る。
◆◇◆
――というわけで三日後の当日。
空は快晴。
絶好の式典日和。
我々は既にイケオジの案内で会場へと来ており、何故かイケオジと一緒の箱席へと着席を促されていた。
円形の闘技場の上階に設けられた箱席。
周りを見渡せばジャスバールの王族や、大貴族であろうザ・権力者の連中ばかり。
いくら他国の使者とはいえイケオジとの同伴は勘弁してほしかった。
ザ・権力の圧で息が詰まる、窒息しそうだ。
「ヨハン殿、あの中央ステージに描かれている魔法陣をご覧ください! あれが我が国が開発したエーテル転移魔法陣です!」
イケオジブリスタンが興奮気味にそう語る。
中年おっさんが鼻息荒くするとか。
字面だけ見れば通報レベル、やめていただきたい。
しかし、ザ・権力者であるイケオジをガン無視するわけにもいかないので、童貞は言われた通りに中央ステージへと目を向ける。
「おお、これは凄いですね!」
闘技場中央に描かれた巨大な魔法陣。
その四隅には魔力タンクである大きな魔石がそれぞれ設置されていた。
複雑な古代文字が幾重にも重ねられ、見る者を引き付けるような幻想的な美しさを醸し出している巨大な魔法陣。
これには芸術センスゼロな童貞ですら感動させられた。
「我が国の優秀な魔導士たちが完成させた一品です! 式典後は後世にもこの偉業を残すため、魔法陣は現品保存する予定となっています」
おお、国家プロジェクトともなると、やることも規格外。管理維持に恐ろしく税金がぶっ飛んでいきそうだ。
「しかしスコルツ卿? エーテル転移魔法陣ということでしたが、注入する魔力を転移魔法陣でダンジョン内部へと飛ばすせるんですか?」
正直、ダンジョンクリスタルの操作方法を理解してる側からしたら、この方法は不可解極まりない。
本来であれば異議の一つでも唱えたいところだが、他国の底辺貴族である童貞がいくら異議を提唱してもアタオカ認定されて終わりだろう。
「ええ、ヨハン殿にはお話ししますが、実は魔法陣は二つ存在します。注入用と排出用です。ギリアム殿下のダンジョンクリスタルの力でダンジョン内部に作られた魔法陣も同時起動させて転移魔法陣をリンクさせます」
なるほどね。
ダンジョン内部に魔力排出用の魔法陣を作ったわけか。
うーむ……、ダンジョンクリスタルに直接魔力を叩き込むわけではないのなら、懸念していた最悪の事故にならなくて済む気はするが……。
「極秘情報を教えていただきありがとうございます。ついでと言ってはなんですが、排出用の魔法陣はどちらの階層に作られたのでしょうか?」
この一週間、視察した限りでは上層にはそれらしきものはなかった気がする。
しかし魔物が出現する下層に魔法陣など作れるものだろうか? 管理維持どうしてんの? ずっと見張りの兵士がついているとでもいうのだろうか? だとしたらその兵士さん可哀想すぎひん?
「ヨハン殿? 魔力排出用魔法陣はギリアム殿下のお力でダンジョンコアに直接描かれております。階層というのであれば最下層となりますね! 誰もそこまで降りたことはありませんが。(笑)それに注入用と比べて排出用魔法陣は非常に簡略化されております。ごく一般的な魔法陣となりますので、術式としては非常に簡単な部類に入りますね」
え、どういうこと?
イケオジの言葉通りならギリアム殿下がダンジョンクリスタルを操作してダンジョンコアに排出用魔法陣を作ったってことなんだけど……。
つーか、そもそもダンジョンクリスタルにそんな機能ないんですけどぉー!?
なんか童貞の理解の範疇を超えたことが起きてる気がする!!
え、まじでちょっと待って、童貞パニックなんですけどーー!!
「ほら、ヨハン殿? そろそろ式典が始まりますよ?」
童貞がパニックを起こしてる中、式典開催の合図を告げる盛大なファンファーレが鳴り響いた。
【あとがき】
本日も異世界えぶりでいを読んでくださりありがとうございました♪
明日も更新してまいります。
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