6話 迷宮狂葬曲 その3 そして最悪の始まり
「諸君、この日を迎えるまで我々は多くの試練を乗り越えてきた。しかし、それも今日までだ! 我々はついに辿り着いたのだ! その試練の先へと!! 私はこのエーテル転移魔法陣をもってこの国に富と名誉をもたらすことを諸君らに誓おう!!」
ステージ中央で、ギ〇ン・ザビばりの演説をかましてくれるギリアム王子。
それを聞いていた観客もギリアム王子に応えんとばかりの歓声を上げる。
さすが王族と言うべきか。
ここがコミケ会場であればジーク・ジ〇ンと叫びたくなるほどの圧倒的カリスマ性。
まじで侮りがたし。
こういう敵キャラが出てくるとしんどいと思うのは童貞だけであろうか?
ほんと勘弁していただきたい。
ていうかさ、今更だけどいつの間にかさらっと式典始まってるし!!
パニックになってる場合じゃないぞ、俺!!
「ご覧くださいヨハン殿、いよいよ魔力注入が始まりますぞ!」
イケオジが期待に満ち溢れた目でそう語る。
中央ステージでは、これでもかとオーバーリアクションをしながらダンジョンクリスタルを取り出すギリアム王子。
演出は大事だが、なぜか脳裏に浮かぶのは大観衆の前でマジックを失敗したマジシャンの姿。
正直、見てらんない。
「それでは諸君! 刮目せよ!! ――ダンジョンクリスタル起動!!」
ギリアム王子がダンジョンクリスタルを天に掲げると、それと同時に四隅に置かれた魔石タンクも反応して輝き出す。
ただその周辺をよく見ると、魔石タンクの陰に魔導士らしきおっさんたちの姿が確認出来る。どうやらあの魔石タンクの起動は人力らしい。
つーかさ、そもそも王子が掲げてるダンジョンクリスタル全く起動してないんだけど?
全然使いこなせてないじゃん。
もしかして意外と大丈夫な感じなんだろうか?
イケオジたちには申し訳ないが、失敗してくれると大変ありがたいのだが?
いや、むしろ失敗していただきたい。
――しかし。
そんな童貞の願いとは裏腹に、突如会場全体に響き渡る謎の起動音。
和名のついたスペースシップの波動砲かと思うようなキュインキュイン音を放つ魔法陣は、童貞の心の防波堤を破壊するには十分すぎるほどの異変だった。
……ああ、あかん。
これはあかんですわ。
鳴ってはいけないような音が大音量で流れてますやん。
しかも魔法陣まで発射準備に入りましたよ、ってアピールするかの如く、謎の粒子を大量に撒き散らしながら輝いてるし。
ワンチャン想定してた最悪を超えてくる可能性も考えられそうだ。
え、どうしよう?
童貞にはあれ以上の最悪が思いつかないんだけど?
まじやばない?
「た、隊長!? どうしたんですか!? 顔が真っ青ですよ!?」
見かねたルナ氏が童貞に声を掛けるが時すでに遅し。
あのエフェクトはどう見てもアウトである。
もう何かが起きるとしか思えないもんね。
「ルナさん、最悪の事態を覚悟しておいてください。凄く悪い予感がします」
「……わかりました。すぐに動けるように準備しておきます。だから私に出来ることがあれば遠慮なく言ってください」
ああ、ルナ氏のなんて心強いことか。
まじでお婿さんにもらっていただきたい。
今なら絶賛貴族の肩書き付きでお婿さんにいけますよ?
「ありがとうございます。ルナさんのおかげで少し冷静になれました。頼りにしてるのでお願いしますね」
「はい、任せてください!」
面倒極まりないこの状況でのルナ氏の存在価値。
瀕死時のエリクサー並みにありがたいんだけど?
でも逆に希少価値が高すぎて、使うの躊躇して結局死ぬがオチですけどね!!
「ねえ、ちょっとヨハン見て? 何か魔法陣の様子が変だわ」
ローズリリイから頂戴した、今の童貞がもっとも聞きたくないセリフが見事一位にランクインされるという。
と、同時に魔法陣から巻き上がる粒子の色が青から赤へ徐々に変化していった。
ああ、これはいよいよもってやばい。
「おい、魔導班? どうなってる!? 魔法陣の魔力回路がおかしくないか? 試運転の時とまるで状況が違うぞ!?」
魔法陣の中心に立っていたギリアム王子が怒りもあらわにそう叫ぶ。
どうやらあちらさんにとっても予想外のことが起きているようだ。
ほんとそういうのやめてほしいんだけど。
フラグって知ってます?
「おい、聞いてるのか魔導班!? 魔力の注入出力を落とせ、魔力飽和が起きてるぞ!」
「はっ、はい!!」
苛立ちを隠せないギリアム王子。
リハーサルと本番とでは具合が違うらしい。
魔石タンクを操作している魔導士部隊の焦りが手に取るようにわかる。
「で、殿下! 魔力注入出力が下がりません!」
近くにいた魔導士の一人がそう叫ぶ。
「く、何をやっておるのだ貴様らは。では一度、魔力の注入を停止しろ!! 再起動して初めからやりなおす!!」
ギリアム王子がそう指示を出すが。
「殿下、今すぐステージから降りてくださいませ! 魔法陣の制御が利きませぬ!! このままですと魔法陣が暴走する可能性がございます!! そうなる前に我々が土台ごと魔法陣を破壊しますゆえ!!」
魔導士代表のようなザ・賢者のおじいちゃんがそう返答をした。
おお、即断即決のリスク回避!
童貞としては非常に好感がもてる。やるなぁ、あのおじいちゃん。
「ならぬ!! こんな大々的にやっておいて今更やめろと? 余に恥をかけと申すのか!? 何度も試運転をやったであろう? なんとかするのが貴様らの仕事ではないか!! 失敗に終わってみろ!? 貴様ら全員打首にしてやるっ!!」
Oh……、ザ・パワーハラスメントぉ……。
さすがにこれには観客もざわつくという。
余裕がないとはいえそれは悪手でしょ王子様?
つーか、核スイッチをもったチンパンジー並みに面倒くさいんだけど?
お前はチンパンか?
そんなナリしてチンパンなのか?
「殿下! 今はそんなことを言ってる場合ではありませぬ! じじいの首で良ければ喜んで差し出しますゆえ、そこから降りてくだされ!!」
おじいちゃん、まじで頑張れ!!
というかもうそのチンパン王子ごと破壊していいんじゃない?
いや、むしろ撃て。
「ならぬ!! それはならぬぞ!! くっ……こんなはずでは……、おい、ストラウス!! 魔石を……、例の魔石をもってこい!!」
チンパン王子の呼びかけに現れたのは、某妖怪アニメのね〇み男のようなおっさん。
それを見ていたイケオジが。
「……ストラウス!? あいつ何を!?」
「スコルツ卿? お知り合いですか?」
「ええ、私と同じ大臣職を拝命しているデューリー・ストラウスという者です。ギリアム殿下の側近中の側近ですね」
イケオジは? と、聞きそうになったが、空気を察して言葉を止める童貞。
大人の事情に深く首を突っ込まない方がいいのは世の常である。
ここは華麗にスルー。
「何か、見慣れない魔石を抱えてますね?」
「あれは……もしやホールキン殿が以前開発していた転移石では……」
「転移石? そんなものがあるんですか!?」
「とは言っても未完成の代物です。転移石を完成させる前にホールキン殿は亡くなられましたので」
「ですが、あの方は持ってこられましたよ?」
「ええ、ですから私も不思議と思っているのです」
おいおいおいおい。
そんな未完成品もってきて何するつもりだ?
もうあの二人が地雷を踏み抜いてイオ〇ズンをくらう未来しか見えない。
地雷を踏むなとは言わないが、他人を巻き込むのは勘弁してほしい。
「殿下、その魔石をどこで!? それは魔力が安定しないため廃棄したはずでは!?」
童貞の信頼度爆上がりのおじいちゃんですらNGの代物のようだ。
うん……いつでも逃げられる準備だけしておこう。
「転移石の魔力が安定しないのはただの魔力不足からくるもの! これだけ魔力が飽和しておれば、この魔石も安定するというものだ! 転移石ごと飽和分の魔力を飛ばしてくれよう、ストラウス!!」
「はっ、はい!」
チンパンに言われてねずみのおっさんがおそるおそる魔法陣の中心へと転移石を設置する。
そしてそれがトリガーとなった。
「お、おやめください殿下!!」
おじいちゃんが急いで止めに入るが……、瞬間。
――ズドォォォォォォーーーーーーン!!
まるで火山が爆発したかのような衝撃音。
魔法陣から発せられた爆風が、近くにいた観客を吹き飛ばし、式典会場の装飾も次々と破壊していく。
そして同時に魔法陣から立ち昇る巨大な黒い障気の柱。
一瞬で式典会場が阿鼻叫喚となったのは言うまでもない。
「ヨ、ヨハン殿!! だ、大丈夫ですか!?」
「ええ、こちらは問題ありません。スコルツ卿はお怪我などございませんか?」
「はい、爆発の衝撃で倒れただけですので問題ありません。と、とりあえずここから避難しましょう!」
「……スコルツ卿、少々お待ちを!」
あの黒い障気の柱……、嫌でもカリュウーグ戦の時のことを思い出してしまう。
となると、間違いなく現れるのは……。
次いで見計らったかのように。
「キャーーーーー!!」
悲鳴が聞こえた方を見ると、黒い瘴気の柱の中から野性味溢れる二足歩行の狼さんたちが飛び出してきた。
「コ……、狗魔狼だぁーーー!!」
観客の一人が盛大に解説をしてくれた。
すぐさま下で待機していた騎士たちが、現れたモンスターたちを食い止めてるけど、先ほどの爆発で腰が引けてる。
やられるのも時間の問題だろう。
となればやはり我々が動かねば仕方あるまい。
「指示を出します! ラウルとネイさんはスコルツ卿を護衛し、そのまま退避してください。スコルツ卿の安全が確認出来たら観客の避難誘導をお願いします。ルナさんとケイシーさんは遠距離から狗魔狼を牽制してください! リリイさんと自分で囮りになります!! カミラさんやオリバーさんたちはラウルたちと一緒に避難してください!!」
「「了解!!」」
もはや仲間への指示もこなれたものである。
この数か月間で場数をふみ過ぎた感が半端ない。
そして、いざ童貞が動き出そうとすると、一緒に指示を聞いていたイケオジからありがたいお声掛けを頂戴することになった。
「いけません、ヨハン殿!! 貴殿も退避を!!」
他国の使者ということもありイケオジが童貞を止めに入る。
そうしたいのは山々だが、モンスターに襲われてる一般ピーポーを見捨てて逃げるのは後味が悪い。
さすがにこれをスルーすることは無理だ。
「スコルツ卿、安心してください。こんなナリをしていますが、そこそこ戦えるんですよ?」
「ですが、ヨハン殿!」
イケオジの制止を振り切り、箱席から飛び出す童貞とローズリリイ。
眼下にはうじゃうじゃと蠢く数十匹もの狗魔狼たち。
「リリイさん、自分が先制を入れます!! 近い奴から処理していきましょう!!」
「わかったわ!」
と言ったものの、いかんせん数が多い。
竜刃を撃てば戦っている衛兵さんたちまで巻き込みそうだ。
であれば――。
「衛兵さんたちに被害が出ないように出力を落としてっと。リリイさん、撃ちます! ―― 爆炎千魔!!」
視界に入る敵を自動追尾する炎のマジックミサイル!
魔法障壁がなければ防ぐことすら出来ないカリュウーグ直伝の鬼畜魔法である!
ふふふ……、ふははは!!
脳筋狼がなんぼのもんじゃい!
惰強となった童貞の力を舐めるなよ!
全て駆逐してやる!!
意気揚々と即時上級魔法をブッ破した童貞だが、ジャスバールに未曾有の被害をもたらすこととなる、ダンジョンハザードが起きてしまったことを、この時の俺はまだ理解していなかった。
【あとがき】
本日も異世界えぶりでいを読んでくださりありがとうございました♪
明日も更新です。
お楽しみに。
よろしくどうぞ♪




