エピローグ
三章ラスト投稿です。
パチリと目を覚ますと、どこか見慣れた天井が。
見慣れた家具に見慣れた小物、そして見慣れたベッド。
うん、間違いない。
俺の部屋だ。
どうやら魔力切れでぶっ倒れた後、手当てをされて部屋に運ばれたらしい。
果たして今回は何日寝ていたことやら。さすがに一週間ってことはないと思うけど……。
にしても、あれから事後処理とかはどうなったんだろう? カリュウーグを倒してからの動向が非常に気になるところ。
とりあえず準備をしてリビングに降りてみるか。
ベッドから起き上がり、いそいそと身支度を整えていると、まるでそれを見計らったかのように廊下を慌ただしく走る音が。
この足音、まさか……。
そして勢いよく開かれる自室のドア。
入って来たのはもちろん――。
「あら、ヨハン! やっと目が覚めたのね!」
――最早定番と化したローズリリイだった。
お湯の入った桶片手にナチュラルに入室してくるという。何回も言うがノックをしろ、ノックを! そして俺の返事を待ってから入室するんだよ!
「あのー……、リリイさん? ここ俺の部屋なんですけど……?」
「そうね、ここはヨハンの部屋で間違いないわよ?」
いや、そんなことを確認したいわけじゃないんですけど? というか何キョトンとした顔をしてんだよ? まるで俺が今の現状を理解していない奴みたいじゃないか!
しかし、そんなことこいつに語ったところで、この状況は解決しないので。
「ではリリイさんは何をしにここへ?」
「何をしにって……、ヨハンが中々目を覚まさないから、あなたの身体を拭きにきたんじゃない! もう丸三日も寝てたのよ? 三日も! 泥だらけのヨハンを綺麗にしてあげた私とルナに感謝してほしいくらいだわ」
うわぁ、やっぱり日程スキップしちゃってるよ。でも今回は三日で済んで良か……って、良くねぇーー!!
「ちょ、ちょちょっ……、ちょっと待ってくださいリリイさん!? え、俺の身体を拭いたってどういうことですか?」
「だって汚れてたんだから仕方がないじゃないの! 泥だらけで放置されるよりマシでしょ?」
「ええ、それはまあ……」
「言っておくけど最初にやり始めたのはルナだからね? あの子本当にヨハンのこと心配してたんだから! ちゃんと後でお礼を言いなさいよ!」
いや、もちろんお礼は言いますけれども。ええ、それはもう心の底から!
ただ一つ、言いたいことがあるとするならば、なぜ意識がなかったのか!! 悔やんでも悔やみきれぬよ、俺よ!!
お金払ってもいいんで、もう一度起きてる状態でお願いできないですかね?
なんてことを言えるはずもなく。
「リリイさん、介抱してくださって本当にありがとうございます。さぞ大変だったことでしょう。また改めてお礼をさせていただきますね」
そう言って頭を下げる童貞。
意識はなくても結果、彼女たちが俺の身体を拭いてくれた事実に変わりはなく、それを想像するだけで滾るというもの。心の底から感謝の言葉も出るのも至極当然。
そんな童貞の気持ちを知ってか知らずか。
「ふ、ふん! 別に気持ちだけでいいわ! それに前に髪飾りもらったお返しと思ってくれれば結構よ。意外と気に入ってんだからね、これ」
そう語ると、以前渡した髪飾りをおもむろに触るローズリリイ。そういえばいつも着けてんのな、それ。
ルナ氏のご機嫌取りのついでで買ったアクセサリーが、まさかこんなところで功を成すとは。世の中何が起こるかわからんもんだねぇ。
そんなことを考えていると、ローズリリイの背後からひょっこりとルナ氏も現れる。
「あれ、隊長!? もう起きたんですか!? 身体は大丈夫なんですか!?」
なんて具合に驚かれる始末。
どうやら今回は童貞の回復力がルナ氏の想定を大きく上回った様子。
「ええ、今回は魔法の使い過ぎで倒れただけなんで、比較的軽めですんだようです。そういえばリリイさんから聞いたんですが、ルナさんも介抱してくださったみたいで? 本当にありがとうございました。また後日改めてお礼を……」
ローズリリイの時と同様に頭を下げる童貞。
介抱してくれたルナ氏が三割増しで可愛く見えるのはなぜだろう? 一線を越えたからか? と言っても超えたのは相手だけですけれども。
「い、いいい、いえ! き、気にしないでください! 好きでやったことなんで……、じゃなくて、ああああ、あの、その!」
なんかポロっと本音がこぼれた気がしたが、紳士な童貞は聞かなかったことにしてあげよう。
人には色んな性嗜好があるのだよ、諸君。さらっと話題を変えてあげるのが本物の紳士と言えるだろう。
「ルナさん、良かったらあの後の事後処理がどうなったか教えていただけませんか?」
「あ、はい! 隊長が倒れてからなんですが……」
ルナ氏から語られるその後の動向。
軒並み大変なことが多かったようだ。
まずカリュウーグと繋がっていた主犯であるハーフベル代官兼、ハーフベル警邏隊の総司令であるローガン。
調べていく内に奴が国家転覆を目論んでいたことが発覚し、その取り巻き一同が全員逮捕された。ちなみに逮捕人数は軽く三十名を超える。
つーか、国家転覆て……。
なんか後付けされた罪状に聞こえなくはないが、ローガンの取り巻きを一掃する大義名分とするなら、これくらい大きな理由じゃないとスムーズにことが進まなかったのだろう。
ローガンに乗っかった人たちご愁傷様。恐らく誰一人こんなことになろうとは思わなかっただろうな。
次に冒険者ギルドの方だが、ウェルバーグを筆頭にこちらも逮捕者が続出した。
特にエレーナさんと対立していた反対勢力が、今回の事件でほぼ逮捕されたようだ。むこう数年はエレーナさんのギルドマスターの座は安泰らしい。ヨカッタネ。
やはり組織が大きくなると色んな確執があるようだ。権力争いってほんと怖い。
そして一番驚いたことが、今回の件をもってオーキスさんが正式に冒険者を引退したことだ。
「え、なんでオーキスさん辞めちゃったんですか!? 今回の件が片付けば冒険者に戻れるとばかり……、もしかして他のメンバーの方も?」
「いえ、引退したのはオーキスさんとイリアさんだけですよ。残りのメンバーの方はギルドに戻られました」
「二人だけ? どういうことですか?」
「実はオーキスさんの怪我が想像以上に酷くて……。先の戦いで左腕が炭化して使い物にならなくなってしまったそうです。イリアさんはそんなオーキスさんの面倒をみる形で引退を決められました」
「でも、次の職もなくていきなり引退だと二人も大変じゃないですか?」
「何を言ってるんですか、隊長? 職ならあるじゃないですか! 特務隊指導教官っていう安定の職が」
ああ、そっか! 形式上は正式に雇っていることになってるのか。それなら安心……、ではないな。
正式に教官になるってことは、またあの地獄のデスマーチをやるかもしれないってことじゃん!
うわぁー、出来ることなら他所の部署に異動してくんないかな? 元プラチナの指導教官なら引き手数多でしょ? 嘆願書でも書いてやろうかな?
そんなことを思いつつも。
「まあ、なんにしろオーキスさんたちも無事で良かった。とりあえずこれで万事解決! しばらくはゆっくり出来そうだな」
そんな童貞の言葉にローズリリイが。
「何言ってんのよ、ヨハン? 全然ゆっくりなんかしてられないから。あんた王宮から呼び出しくらってんだからね?」
ん、呼び出し? え、呼び出し?
王宮から?
なんで俺が?
え、王宮から呼び出しですとぉー!?
「な、ななななんで王宮から呼び出し!? 意味わかんないんですけどぉ!?」
もしかしてカリュウーグって倒したらまずかったのだろうか? よく考えたら意外とあいつって文化財的価値ありそうじゃんね? エジプトのミイラみたいに。
あー、どうしようどうしよう? 盛大に吸い込んじゃったよ、クリスタルに。取り出さないとダメだろうか? 排水溝に溜まった髪の毛並みに嫌なんだけど?
そんな感じでテンパっていると、ローズリリイから意外なことが語られた。
「何言ってんのよ。だって、ヨハンは国が総出で探していたカリュウーグを倒したのよ? そりゃあ、勲章ものの案件じゃないの」
は? 俺が勲章を授与?
いやでもあれはほぼ棚ぼたと言うか、良いとこ取りと言いますか、断じて俺の手柄ではないと思うんだけど?
「でもカリュウーグを倒したの俺じゃないですし……って、トドメを刺したの俺じゃん!? いや、でもあれは七割以上はオーキスさんの手柄だと思うんですけど!?」
「はぁ……、ヨハンって実はバカなの? あの状況で私たちはカリュウーグを倒す決め手に欠けていたのよ? ヨハンがカリュウーグの力を封じ込めてくれていなかったら、正直どうなっていたかわからないわ。それに言っておくけど呼び出されてるのは特務隊支部全員だからそんなに心配しなくていいわよ?」
それを早く言わんかぁー!!
焦った、まじ焦った。何も悪いことしてないのに、なんか人生詰んだ気がした!!
「そうですか、それで王宮にはいつ行くんです?」
「予定だと一週間後です。隊長が目覚めなかったら、予定も変更になっていたのでほんと良かったです」
おうふ、三日で目覚めた自分を褒めてやりたい。
仮に俺のせいでスケジュール変更となっていたら、お偉いさんから何を言われることになっていたことやら。
「と言っても前入りしないとダメだからね? 準備期間は後三日よ。その間に陛下との謁見用の服とか色んな物を用意しないといけないからゆっくりしてる暇はないわよ?」
謁見……、陛下と会う?
「陛下と会うんですかぁー!?」
「当たり前じゃない! 何をしに王宮に行くと思ってんのよ? ちなみにカリュウーグのことはオフレコよ? 名目はローガンの国家転覆を阻止したっていうことになってるみたいだから」
ああ、そう……。別に名目なんてどうでもいいんっすよ? 陛下と会うってことがゲロ吐きそうなほど緊張するんですよ。
はあ……、とてつもなく嫌だけどさすがに断れないしなぁ。まあ、断った時点で俺の首がリアルに飛ぶんですけどね。
「……仕方ありませんね。わかりました。じゃあ早速準備を……」
とは言いかけたものの、何をどう準備していいのかすらわからない。
以前、トゥインクルした時もオリバーさんあってのトゥインクル。自分一人ではまず無理だ。
「あのー、こんなこと頼むの心苦しいんですけど、自分絶望的にセンスないんで、お二人に準備を手伝っていただきたいんですけど無理でしょうか?」
そんな童貞の言葉に二人は。
「もちろんです、隊長! 任せてください!」
「もう、ほんと仕方ないわね! 付き合ってあげるからさっさと着替えなさい」
快く(?)承諾してくれるという。
それにしても陛下に会うのかぁ……、何事もなく終わるといいんだけど。
こうして俺たち特務隊を巻き込んだハーフベルの事件は無事解決した。
ただこの時の俺はまだちゃんと理解出来ていなかった。
この騒動を解決した主役が自分だということを。
【あとがき】
本日も異世界えぶりでいを読んでいただき誠にありがとうございます!
おかげさまで無事に三章も完結しました。
色々至らない部分がたくさんあったとは思いますが、また時期をみて加筆したりしていきます。
その時はまたお知らせさせていただきますので、お付き合いくださいませ。
というわけで以上の展開で四章に突入していきます。
さてどうなることやら。
最後に、昨日大量の誤字報告をご指摘くださった紳士、淑女の皆様、本当にありがとうございます!未熟者の作者ゆえ大変助かりました!
いいねや、ブクマ、評価も増えてびっくりです!
本当にありがとうございます。
また四章からもお付き合いください!
次回更新は11月5日(日)となります。
お楽しみに―!




