9話 厄災襲来 その5 その名はカリュウーグ
「本当にずみまぜんでじたー!」
我々の前で正座しているウェルバーグが、殴られて形の変わった顔でそう謝罪した。
彼自慢の冒険者四人組を倒した我々に勝てるはずもなく、あっという間にローズリリイにボコボコにされたウェルバーグ。
ローズリリイが味方であることの、なんと頼もしいことか。
「で、ギルドマスターはどこにいるの?」
ちょっと気分がスッキリとしたのかローズリリイがそう問いかける。その表情は心なしか清々しい。
「げっ……、現在、マスターはカリュウーグ廃墳墓に行っておられます。なっ、なんでも、探していたモノが見つかったとおっしゃってました。詳細までは存じ上げません」
「……そう。で、いつ戻ってくるのかしら?」
「じ、時間までは……、その、把握しておらず……」
だんだん声が小さくなってゆくウェルバーグ。彼の精神がゴリゴリ削られていくのが分かる。
「ふーん、使えないわね。ヨハン、こいつどうするの? 他に聞きたいことがないならトドメ刺すけど?」
「ひぃぃーー!? 何卒、何卒、命まではご勘弁ください! 命まではーー!!」
こらこら、ローズリリイ? やり過ぎだって。
まるでマフィアのボスを見たかのような怯え方で命乞いされたんだけど?
しかし、まあ、同情するには値しないか。先に襲ってきたのこいつらだし。
「ウェルバーグさん、それはあなた次第です。実はつい数時間前にローガン氏とジェフレッドという冒険者の会話を耳にしましてね。何やら怪しげな作戦の決行が明後日あると話していたんですが、あなたはその作戦内容を知ってますね? 教えてはいただけませんか?」
「な、ななななんのことでしょうか?」
あからさまに動揺を見せるウェルバーグ。
なんともわかりやすい奴。
「ちなみにローガン氏はジェフレッド氏に対してギルドマスターを殺害するよう指示しており、犯罪行為を強要しております。もはや隠し立てする意味はありません」
ズイッと顔を近づけて圧を掛ける童貞。
ローズリリイからの援護もあり、見事に震え上がるウェルバーグ。小物感が半端ない。
「そ、その……、あの……」
さすがにローガンを裏切ることに躊躇しているのか、口ごもるウェルバーグ。
なので……。
「こちらはその現場を目撃しております。洗いざらいここで話しておいた方が、あなたの身のためでもあると思いますが? 仮にローガン氏が逮捕されれば、その取り巻きも芋づる式に逮捕されることになるでしょう。あなたもその一端を担っていると推測しますが、本当にこのままで良いのでしょうか? 我々に協力するのであれば、少しは情状酌量の余地も生まれるかと思いますが?」
これでもかと、ウェルバーグの心に揺さぶりを掛ける童貞。ウェルバーグも小心者が故に逮捕という言葉をかなり重く受け止めるだろう。
特に自らの地位や権力の保身に走る者であればなおさらである。
すると……。
「し、知らなかったんですぅー! ローガンの奴から、代官派閥に入れば次期ギルドマスターに推してやるって言われて……。まさか奴がそんな大それたことをしようとしてたなんて知らなかったんですぅー!!」
両手を合わせて神に祈るかのようなポーズで泣き出すウェルバーグ。
「知らない? では、なぜ我々を襲撃したんですか? あわよくば殺すつもりだったんですよね?」
「違います、本当に違うんです! あなた方を殺すつもりはありませんでした、信じてください! パッと拘束して、少し脅しを掛けるだけのつもりだったんです! ローガンからの指示で仕方なく……」
「――仕方なく殺そうとしたわけね」
「ひぃぃぃ!?」
ギロリと睨みつけるようにして語るローズリリイ。
ウェルバーグがどう言い訳しようと、俺たちを襲ったことには変わりはない。剣を抜いた時点でアウトである。
「ではどこまで知ってるんですか? これ以上、シラをきるようであれば、我々も正規の手段を以ってあなたを尋問に掛けねばなりません」
この言葉でさらに青ざめるウェルバーグ。遠回しに拷問もあるからね、と伝えてみた。
すると観念したのか。
「…………私はローガンが、この街を迷宮都市化しようとしていることくらいしか知りません。ローガンに冒険者ギルドさえ押さえれば、上手くいくって唆されだけなんです」
「迷宮都市化? それって『迷宮都市国家ジャスバール』みたいにするってこと?」
首を傾げたローズリリイがウェルバーグにそう問い返した。
ちなみに迷宮都市国家とは、街の中にダンジョンが発生し、それを管理管轄することが出来た都市のことである。
その無尽蔵に採掘される資源を目当てに、様々な国家の後ろ盾を得て独立した都市国家――それがジャスバールとなる。
「わかりません。ただ、それはもう達成間近とは聞いてます。私みたいな新参者には、ローガンも詳しくは教えてくれませんでした」
「では、本当にこの街を迷宮都市とする手段が実在するのですね?」
「はい、それは間違いありません。私はローガンに迷宮核となる『ダンジョンクリスタル』と言うものを見せてもらいました。掌サイズの濁った水晶玉のような物体です」
水晶玉? クリスタル?
あれ、……それってまさか。
「あの、もしかしてそのダンジョンクリスタルって、これに似たようなものですか?」
そう言って俺は、腰に付けていたウエストポーチから、以前、首領巨獣鬼を倒した時にドロップした、謎の水晶玉を取り出した。
実は何かご利益があるかと思って、お守り代わりに持っていたのだ。出来ればそんな物騒なものではなく、経験値アップとか幸運度アップの方が嬉しかったが。
「それです、それと同じです! でもローガンが持っていたのは、そんな綺麗なものではなく、もっと白く濁っていましたが。というか何故それを……」
「ちょっと縁がありましてね。それにしても街中にダンジョンを発生させるのは感心しませんね。下手をしたらダンジョンから魔物が溢れ出して、関係のない人たちに死傷者が出る可能性も考えられます」
「確かに。モンスターが出るのは嬉しいけど、関係のない人が死んじゃうのは後味が悪いもんね」
リリイさん? それはちょっと違うような……。
魔物とエンカウントして喜ぶのは、レベル上げ廃人プレイヤーかお前くらいのもんだって。
そんなことを考えている時だった……。
――ドォォォォォォォンン!!
けたたましい轟音と共に、いきなり地下道が縦に大きく揺れたのだ!
あまりの激しい揺れに、ウェルバーグは壁で頭を強く打って気絶し、我々もその場に座り込むほどの大きな地震。
これはまるで鉱山の時のような……。
――まずい!?
「リリイさん、外に出ましょう!」
「ええ!」
そう言って俺たちはギルドの外を目指して走り出した。
◆◇◆
外に出ると、先ほどまでとは打って変わって、街の景色が一変していた。
街の中心部から空に向かって立ち昇る、黒い瘴気の塊のような巨大な柱。
見上げると、空も同じような黒い幕で覆われてしまい、外はなんとも言えない不気味な雰囲気となってしまっていた。
街の人々も、そんな光景を目の当たりにして、そこらかしこから戸惑いの声が上がっている。
「ヨハン、あれ見て!」
ローズリリイが瘴気の柱の方向を指さす。
すると柱の中から、黒いフード付きのローブを身に纏った人物が空中へと現れたのだ。
そのローブは、まるで先ほどまで激しい戦闘が行われたかのような損傷具合。もはやボロボロ。
すると、その真下からどこかでみたような巨大な斬撃が、ローブの男に向かって放たれた。
それを赤黒い結界で弾くローブの男。
…………なるほど、なるほど。
どうやらあそこでオーキスさんが、黒幕らしき男と戦闘をしているもよう。
うん、ただならぬ嫌な予感。
出来ればあのローブ男との戦闘は避けたい。
だって強者感が半端ないんだもの。
心の底からオーキスさんを応援してしまう。
「リリイさん、まずは状況把握をしようと思います。街の中心部へと向かいましょう」
「ええ、わかったわ」
そう語るローズリリイの瞳は、少女漫画かよと思うくらいキラキラ輝いているという。
まだ見ぬ未知の敵に、彼女の闘争本能がうずいているのだろうか? その強靭なメンタルの欠片を少し童貞にもわけて欲しい、まじで。
そして我々は人混みを縫うように駆けて行く。
身体強化練度7を発動してのトップスピード。それに難なくついてくるローズリリイの身体強化の練度も相当なもの。
ぐんぐんと街の中心部へと進んで行くのだが、同時にここで武器が何一つないことに気が付く童貞。
持っているのはウエストポーチに入った小銭入れとダンジョンクリスタルのみ。今更ながら自らの無謀さに気が付くという。
それにどう考えても敵が、あのローブ男一人とは思えない。せめて愛剣は装備しておきたいところ。
「リリイさん? ここまで来てなんですが、一度支部に戻って準備を整えた方が良い気がします。オーキスさんと渡り合うような相手です。万全を期して臨みましょう」
そんな童貞の言葉にローズリリイは。
「大丈夫よ、ヨハン。ほら、あれ」
ローズリリイが指さす遥か前方には、ローズリリイ御用達のリムジン馬車がこちらに向かって走ってくるではないか。
なんという絶好のタイミング。
しばらくして、リムジン馬車と合流すると、馬車の中にはカミラさん含め、ブルークレア隊のメンバーがすでに装備を整えて待機していた。
すると童貞を見たカミラさんが――。
「ヨハンさん、無事で良かった! ルナさんからお二人がギルドに向かったって聞いたから慌てて迎えに来たんです! お二人の装備も持って来たので着替えてください!」
――と言う、ありがたいお言葉を頂戴した。
どうやら事情を察したカミラさんが厳戒態勢で、我々を迎えに来てくれたようだ。
「ありがとうございます、カミラさん! ちなみにあの黒い柱は何だかわかりますか? どうやらオーキスさんが元凶と思われる人物と交戦中のようです」
そんな童貞の言葉に。
「え、オーキスさんがですか!? そんなはずは……、だって、オーキスさんはイリアさんと一緒にカリュウーグ廃墳墓へと調査に出掛けていらっしゃいます。この街から半日ほどの場所ですよ? こんなに早く戻ってこれるはずがないんですが……」
そんな馬鹿な……。じゃあ、あのバカみたいにでかい斬撃は誰が放ったというのか? あんなことが出来る人物が他にいるとは考え難いが?
え、もしかしてホラーか何か?
「ねえ、ヨハン? こんなところで話していたってしょうがないわ。とりあえず向かいましょう? 見てみないとわからないわ」
それもまた然り。
ローズリリイにしてはまともな意見である。いや、違うか。きっと戦闘民族の血が騒いでるだけ。
「わかりました。それでは参りましょう!」
こうして我々、ブルークレア隊は黒い瘴気が立ち昇る街の中心部を目指した。
◆◇◆
中心部に到着すると、柱の周囲を囲うように白い幕のような結界が、巨大なドームのように張られてた。
リムジン馬車を下りて現場に向かうと、そこには両手で白い魔法陣を形成するイリアさんの姿が。
「イリアさん!」
思わず名前を叫ぶ童貞。
「あんたたち!? もう……、ほんっとナイスタイミングだわ! ちょっと手伝って頂戴! あたしの張った結界内でオーキスたちが戦ってるのよ! まわりの雑魚敵だけでもいいからやっつけてくんない? ボスも強いわ、雑魚も多いわで、あたしの結界も破られそうなのよ!」
やはりすでに戦闘中のもよう。というか街中で大規模戦闘かよ。誰か避難誘導しないとまずいな。
「了解しました。カミラさん、この周辺の方々の避難誘導をお願いしてもよろしいでしょうか? 万が一、結界が破られた時に被害を最小限に留めたいです」
「わかりました、外は任せてください」
「では我々もカミラ様と一緒に避難誘導をいたしましょう」
と、オリバー氏とローズリリイのメイド隊。
これは非常に助かる。
「オリバーさん、ありがとうございます。ちなみにイリアさん、敵はどれくらいの規模なのでしょうか?」
「多分、千はいるわね。しかもぜーんぶ、不死族なのよ。ほんと最悪。結界内の瘴気がとんでもないことになってるから、倒しても次から次に出てくるわよ?」
「まじですか……。なんでまたこんなことに?」
「この騒動の黒幕のせいよ。まさか廃墳墓からハーフベルまで転移させられるなんて夢にも思わなかったわ」
「転移? え、転移魔法って実際あるんですか!?」
「魔法と言うよりかは一度きりの大規模なトラップね。かなり長い年月を掛けてハーフベルと廃墳墓その両方に緻密な魔法陣を形成してたみたい。こんなバカげた魔法、二度は使えないと思うわ」
「ということは相手ってかなり凄腕の魔導士なんですか?」
「ふふっ……、凄腕どころじゃないわね。なんてったって、あたしよりもずっと有名な大魔導士なんだから」
「イリアさんより有名って、そうそう名前が思いつきませんけど? いるんですか、そんな人?」
「いるわよ? 数百年前に一人だけど」
そんな俺とイリアさんの会話に、何かを感じとったルナ氏。
「え、もしかして……。その相手って昔話とかに出てくる王国三英雄の一人、カリュウーグ様のことですか?」
「ピンポン、ピンポーン、ルナちゃん正解ー!」
イリアさんの言葉に絶句する我々一同。
次いで。
「まさか不死者になってまで、この世に復活するなんてね。ほんと未練たらしい男はやーねー」
なんて冗談めかしく言うイリアさん。
おいおい……、冗談じゃないぞ?
黒幕って、伝説の大魔導士やんけ!?
え、どういうこと? 意味がわからん。
「さあ、あんたたち! 固まってないで気合入れなさい! 中は今までの比じゃないくらい乱戦だからね? 一瞬たりとも気を抜いたら死んじゃうから!」
そんな素敵なメッセージを送ってくれるイリアさん。
はぁ……、まじかよ。よりによって相手が王国昔話になるほどの魔法使いだなんて……。
うん、我々は雑魚敵処理に専念して、カリなんとかはオーキスさんに任せよう!
人外には人外を以って処理をする。
これまた心理なり。
「皆さん、我々の殲滅目標は周囲の不死族たちです! 少しでも数を減らしていきましょう」
こうして我々、ブルークレア隊は結界内へと突入した。
【あとがき】
本日も異世界えぶりでいを読んでいただき誠にありがとうございます!
カリュウーグ戦に突入です。
徐々に相手の正体が判明していきます。
次回更新をお待ちください。
最後に、読者の皆様すみません。
更新日時間違えてました。
昨日、楽しみにお待ちされていた方、本当に申し訳ないです。
次回更新は10月8日(土)です。
お楽しみにー




