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異世界えぶりでい ―王国兵士の成り上がり―  作者: バージョンF
三章 どうも不滅王殺しのヨハンです
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8話 厄災襲来 その4 冒険者ギルド再び




 路地裏の物陰に隠れていた童貞は、代官とおっさんの驚くべき会話を耳にしてしまった。


 どうやらこの街の代官は、紛うことなき悪党のもよう。


 ギルドマスターを殺す?


 どこのマフィアだよ、まったく。


 さすがにこれは止めないとな。


 しかし、相手はこの街の権力者。


 末端兵士の俺如きが、いくら現場を押さえたとしても、代官に揉み消されて終了だろう。


 それどころか、適当な冤罪を仕立て上げられれてブタ箱行きになるのがオチ。


 一旦ここは引き上げて、オーキスさんに相談するのが無難か? 


 いや、その前にあのおっさんは止めねばなるまい。


 そうこう考えていると、代官とおっさんが別々の方向に引き上げていくのだが――。



 ――やっべ、V字カットのおっさんがこちらに向かって歩いてくる!?



 撤収しようにも路地裏は一本道。


 下手に動けばバレるかもしれない。


 なので、木箱の隣で体育座りをして息を潜める童貞。


 この気配遮断は物音さえ立てなければ、よっぽど気付かれることはない。


 オーキスさんにもお墨付きをいただいたほどだ。


 しかし、何があるかわからないのが、この世の中。おっさんが素通りしてくれるのを祈るばかり。


 そんな感じで木箱の隣で地蔵と化していると、おっさんはブツブツと小言を呟きながら俺の目の前を横切って行く。


 どうやら童貞に気付いていない様子。


 さすがは気配遮断練度マックス。


 仮にかくれんぼ世界大会が開催されたら、王国代表に選ばれるほどのポテンシャルを秘めているスキルである。


 ふと、おっさんの横顔を見上げると、背筋がゾクリとするほど目尻が鋭く吊り上がり、完全に犯罪者のそれ(・・)となっていた。


 もしかして、今日にでも()るつもりなのか?


 ローガンって奴にかなり追い込まれてたもんな、パワハラ気味に。


 そりゃ、あんな顔にも……、いや、――待て。


 あの殺気、苦悶の表情、滲む汗……、俺のウンコ三原則にぴったり当てはまる。


 あんなシリアスな状況下にいたのだ。


 おなかが痛くなるのも道理。


 肛門括約筋を締めていたおっさんの顔が鬼のようになるのも頷けるというもの。


 ……なんて馬鹿なことを考えていてもツッコミ不在のこの状況。一人で処理するにも限界がある。


 とりあえず様子を見てみるか。


 少し距離を置いておっさんの後を追うが、おっさんが大通りに合流すると、あっという間に人ごみの中に消えて行ってしまった。


 ああ、くそっ、見失った!?


 気配察知を掛けようにも、こうも人が多いとおっさんの気配を探るのも困難となる。


 うーむ……、仕方ない、一旦店に戻るか。


 こうして俺はそそくさと店へと戻り、絶賛服選び中の二人と合流することに。


 そして二人に事情を説明したのだが……。




 ◆◇◆

 



「……で、嘘ついて一人で行ったってわけね?」


 なぜかローズリリイが少しご立腹の様子。


 いつものガ◯バスターポーズを決めながら、まるで血管マークが頭上に浮かんでいるかのようにイライラしているのが見てとれる。


「ヨハンに悪気がなかったにしろ、そういうの気に入らないわ。次からはやめて頂戴」


 なるほど、どうやらローズリリイに対して嘘を吐いたのがよろしくなかったようだ。


 こいつは良くも悪くも裏表のない人間。


 俺のような姑息なやり方は癪に触るようだ。


「そうですよ、隊長! 全部一人で抱え込むのは良くないと思います。もし隊長の身に何かあったらどうするんですか? 誰も助けに行けないですよね? 前も言いましたが、もっと私たちを頼ってください!」


 さらにはルナ氏にも叱られる始末。


 やはりちゃんと事情を説明しておけば良かったな。


 ギャルゲーならバッドエンド一直線になりかねん選択肢のチョイスだった。


 なんという不器用な男、我ながら嫌になる。そろそろまじで人生のロード機能が欲しい今日この頃。


「緊急とはいえ短慮すぎました。ちゃんとお二人に話すべきでしたね。本当にすみません」


 真摯に反省する童貞。下げる頭も小慣れたもの。


 ローズリリイはやれやれと言わんばかりに。


「で、これからどうするの? 追うんでしょ、その男を?」


「はい、このまま放ってはおけません。しかし、その前にギルドマスターにこのことを伝えようと思います。襲撃される前に手を打っておいた方が確実ですからね」


「ですが隊長? 報告はどうしますか? さすがにオーキス教官とカミラさんには一報入れておいた方が良いかと?」


 ルナ氏も同じことを考えていたようだ。


「ですので、二手に分かれようかと思います。リリイさんはこのまま自分と一緒に冒険者ギルドまで同行をお願いしたいです」


「わかったわ!」


「ルナさんはこのまま支部に戻っていただき、カミラさんたちに報告をお願いしたいのですが、頼めますでしょうか?」


「はい、任せてください!」


 ありがたい。さすがに重要な報告係をローズリリイには任せられないからな。


「ではルナさん、よろしくお願いいたします。我々もギルドマスターに事情を説明したら一度支部へと戻ります。問題となる男の捜索はそれからにしましょう」


「わかりました。隊長もくれぐれも気をつけてください。何があるかわかりませんから」


 それにしても、まさか休みの日まで仕事をするハメになるとは……。


 あーあ、せっかくの休日が台無しだな。


 後で二人にも謝んないと。


 こうして俺たちは店を後にして、それぞれ行動することになった。


 目指すは冒険者ギルド!




 ◆◇◆




 ローズリリイとすたこら冒険者ギルドを目指して歩くことしばらく。


 気配察知を掛けながら進んだが、残念なことにおっさんの気配を捉えることは出来なかった。密集地帯の個別探索の難しさよ。


 そうこうしていると見えてきたのは、我々の目的地となる冒険者ギルド。


 どうか今回は変なトラブルがありませんようにと、祈るばかり。


「へえー、ハーフベルの冒険者ギルドって、王都よりも大きいのね」


「はい、カミラさんも王国最大って言ってましたよ? 冒険者の数自体も相当多いですからね」


「ふーん、でもオーキスクラスはいないんでしょ?」


「そのようですね。紅衆(ヴァーミリオン)のエラルドさんが、唯一双璧を成す方と言ってましたが、遠征で不在のようですし」


「なら、大したことない奴しか残ってなさそうね」


「ちょ、ちょっとリリイさん!? 声が大きいですって!」


 冒険者をディスるのは本当にやめていただきたい。ただでさえ、フラグが立ちやすい場所なんだ。誰がどこで聞いてるかわからないんだぞ?


 ローズリリイのはっきりものを言う性格が災いして、その災難がローズリリイではなく俺に降り掛かってきそうで、もの凄く怖い。


 あれ、フラグか?


 ギルドに入るのちょっと嫌だなんだけど?


「ほらヨハン、ぼさっとしてないで行くわよ? ギルドマスターに会うんでしょ?」


 そんなローズリリイに急かされ、我々は冒険者ギルドの正面玄関へと向かって歩いて行く。


 まったく、こいつの思い切りの良さはどこからくるのだろうか? 親の顔が見てみたい。


 そしていざギルドへ入ると、今日もまた(せわ)しなく冒険者が右往左往としていた。


 相変わらずバタバタしてんのな。

 

「じゃあ、リリイさん。まずは受付けでギルドマスターへのアポを取ってきますね」


「そう言えば相手って、私たちのこと警戒してるフリ(・・)をしてるんでしょ? すんなりアポを取れるかしら?」


 おうふ……、そうだった。


 ギルドマスターって、体面的に俺たちを避けてたんだ。


 火急の要件とはいえ、すんなり通してくれるはずがない。


 警邏隊と名乗るとまずいだろうし、かと言ってオーキスさんの名前を出すのもなぁ。


 どうしたもんか?


 ここにきて無計画ということが判明し、固まる童貞。さすがに勢いで、ギルドのトップと会えるほど世の中甘くはない。


 それを見兼ねたローズリリイが。


「あら、もしかして無計画だったの? ヨハンにしては珍しいわね」


 耳が痛い。


 意外とテンパっていたようだ。


 さもありなん。


「じゃあ私が来客としてアポを取るわ。貴族の肩書を使えば、おいそれと相手も断れないでしょ?」


 おお、まじかよローズリリイ!?


 いきなり有能じゃん、どうした?


「リリイさん? こちらとしては凄く助かりますが、ご迷惑とならないのでしょうか?」


「あら、別に問題ないわよ? 貴族の肩書なんて私にとっては足枷のようなものだもの。こういう時に使わないと意味ないじゃない」


 庶民脳のローズリリイ様、万歳!


 これはありがたい。


「ありがとうございます、リリイさん! ではお願いします!」


「任せなさい!」


 そう言ってスタスタと受付カウンターまで歩いて行く、ローズリリイ。


 童貞は三歩ほど下がって、従者のようについて行く。


 するとローズリリイを視界に捉えた受付嬢が。


「いらっしゃませ、ようこそ冒険者ギルドへ! こちらでご用件をお伺いします」


 なんてまるで何処かのNPCのような挨拶で我々を出迎えてくれた。


「アンガスター・ローズリリイよ。ここのギルドマスターに伝えたいことがあるの。至急繋いで頂戴」


 そう言ってアンガスター家の家紋の入った携帯式の金時計を、受付テーブルにポンっと置くローズリリイ。


 さすが貴族令嬢と言うべきか。


 初対面でも関係なく上から目線という。


「え、え、え、え、えぇぇぇーー!? しょっ、少々お待ちいただけますでしょうか?」


 対応した受付嬢が家紋の入った金時計を、二度見どころか五度見して、慌てて裏の事務室へと駆け込んで行ってしまった。


 まあ、いきなり何の前触れもなく、こんなところに貴族令嬢が現れたら、そんな対応にもなるわな。


 基本、この世界の大貴族は、自らの身分を証明する印として、家紋の入った小物を常備していることが多い。


 アンガスター家は金時計と、使用される小物は貴族によってまちまちだが、有名な貴族ほどその印となる小物は世間に知れ渡る。


 アンガスター家の金時計は知らぬ者がいないほどに有名なのは言うまでもない。


「さっきの受付嬢失礼ね。人の顔を見てあんなにビックリすることないじゃない」


「まあまあ、リリイさんのような有名人(・・・)がいきなりこんな場所に現れたら、彼女じゃなくても誰だってビックリしますよ?」


「ゆ、有名人って……、そ、そんなにも私って有名なのかしら? だったら仕方ないわね」


 存外、自分に知名度があって嬉しいようだ。


 注目を浴びるのは嫌いじゃないと見た。


 そんな感じでしばらく二人で談話していると、やって来たのは眼鏡を掛けた細身の男性。


「ローズリリイ様、大変お待たせいたしました。私はギルドマスターの補佐をしております、ウェルバーグと申します。お部屋までご案内させていただきますので、どうぞこちらへ」


「わかったわ」


 と、いきなりのVIP扱い。


 内容を聞かずに通されるなんてさすがは貴族令嬢。


 その肩書は伊達じゃない。


 すると、どこからかやって来た、いかつい冒険者四人組が、俺たちを囲むように護衛までする始末。


 すっげぇ要人対応。

 

 俺たちはウェルバーグさんに案内されるがまま、ギルドの奥へと向かって歩いて行った。


 そして地下へと続く階段を下りて行くと、そこは薄暗い一本道の地下通路。


 おいおい……、ギルドマスターってこんな地下深くにいんのかよ。


 どんだけ引き篭もりなの?


 性格が根暗だとしても、好んでこんな地下で過ごすなんてどうかしてる。


 そんなことを考えてるとウェルバーグさんが。


「もう間もなく到着します。それにしても驚かれたでしょ? こんな地下に部屋があるなんて」


「ええ、ギルドマスターともなると、警護も厳重になるんですね」


「ははは、うちのギルドマスターは色んな(・・・)方々を敵にまわしてますからね」


「それはまた物騒なことで」


 当たり障りのない言葉を返す童貞。どこに地雷があるかわからないからな。


「ところで聞いておりませんでしたが、本日はどのようなご用件でお越しになられたのでしょうか?」


 前を歩いていたウェルバーグさんがくるりと振り返り、突如としてそう語る。


 ちょうど通路に設置されているカンテラの光で、その顔に影が掛った。


「内密のことですので、出来れば直接ギルドマスターにお伝えさせていただきたいのですが?」


 そんな童貞の言葉に。


「そうですか……、それでは仕方ありませんね。ところでローズリリイ様は警邏隊の特務部隊に所属されたと、風の噂で聞いたのですが本当なのでしょうか?」


「ええ、そうよ。そんなに噂になってるの?」


「そりゃもう! 大貴族の令嬢が、そんな危険な部隊に入隊すれば嫌でも耳に入りますよ。えー……、本当にこちらとしてはありがたい(・・・・・)限りですよ、まったく。仮に殺してしまっても、いくらでも理由が作れるからな――おいっ!」


 ウェルバーグさんの合図で、俺たちの背後にいた護衛四人組が一斉に腰の剣を抜く。


「――なっ!?」


「ははははは、馬鹿な奴らだ。ここはギルドの地下収容所に繋がる通路。まさか我々(・・)の警戒対象が自らやって来てくれるとはな」


「どういうこと?」


 ローズリリイが静かに呟くかのようにそう語る。


「お前たちはジェフレッドとの一件以降、我々にずっと監視されていたのさ。何度も襲撃を掛けようとしたが、悉くオーキスに邪魔をされたがね。だが、まさかお前たちの方から再びギルドにやってくるとは思わなかったよ」


 ということはつまりこれはあれか?


 認めたくはないが、罠に嵌められたと?


 ウェルバーグもローガンへの内通者だったなんて。


「一つ聞きますが、これはギルドマスターの命令なんでしょうか?」


「いや、結局あいつは裏切り者だ。肝心なところで役に立たないからな。そのうちお前たちのように処分対象(・・・・)になるだろう」


 なるほど、やはりギルドマスターは味方っぽい。


 そしてV字おっさんの件は、まだこいつには伝わってないもよう。


「リリイさん!」


「わかってるわよ、ヨハン。さすがにムカついたわ。――いくわよ!」


 そう言って俺たちは無手で構えをとる。


「ははははは、彼らは次期ゴールドランクとなる四人衆! あなた方では、相手にもなら……」


 

 ――バキボキバキボキ!!



 某格闘ゲームの、暗転フルボッコの超必殺技かのようなコンボを決める童貞とローズリリイ。


 武器を持って完全に油断していた護衛四人組を瞬殺した。


 俺が縮地で一気に接近し、身体強化からのフルボッコで片側の護衛二人を倒すと、もう一方はローズリリイが以前俺に放った気〇掌からのフルボッコ。


 ギャグマンガかよと思うくらい、冒険者四人組の顔面がボコボコに腫れ上がっていた。


「え? え? え? あれ?」


 まさか自慢の護衛が瞬殺されるとは思わなかったウェルバーグ。


 どうやら現実を理解出来ていないようだ。


「さて、覚悟は良いかしら? 次はあなたの番よ? どこの骨からへし折ってほしい?」


「――え?」



 ニヤリとした冷たい笑みを浮かべ、そうウェルバーグへ問いかけるローズリリイ。


 

 かなりブチギレていらっしゃるもよう。


 

 ウェルバーグが死なないことを祈るばかり。

  


 彼からは情報を聞き出したいんだよね。



【あとがき】

本日も異世界えぶりでいを読んでいただき誠にありがとうございます!

三章も終盤となりました!

サクサクッとこの騒動の核心に迫っていきますので、お付き合いいただけたらと!


そして、なんと総合評価1万ポイントを突破しておりました。

これも読者の皆様の応援の賜物。

本当にありがとうございます。


最後にこの数日間、誤字報告、感想、いいね、ブクマ、評価をいただきました読者の皆様、本当にありがとうございます。


だらだらと更新頑張りますので、お付き合いください。


次の更新は10月1日(土)予定です。

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[良い点] いいぞ、手足をへし折って猿轡と目隠ししてやれ
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