6話 厄災襲来 その2 あれから一週間
休日更新にしたいので、かなりフライングしての更新です。
ハーフベルのギルドマスターであるエレーナさんより、衝撃的な伝言を頂戴した翌日。
問題の代官については、下手に藪をつついて蛇が出ても困ると思い、現状は様子見とした。
オーキスさんたちも何やら裏で動いてるようなので、我々はその邪魔をしないようにただ見守るのみ。
代官の情報収集も必要だが、それよりも早急に乱立する魔物の巣をどうにかしなければならない。
というわけで、誠に遺憾ながら童貞たちは本格的に魔物の討伐に臨むことになった。
ここからの流れはダイジェストにてお伝えさせていただく。語るに長し。
まず、初日の豚頭鬼を皮切りに、二日目、三日目とファンタジーの定番である妖粘魔や狗頭獣の巣を次々に駆逐していく、我らブルークレア隊。
これらも調子良く撃破出来たためか、翌日からはもっと強い魔物と相対することに。
なので三日目、四日目は洞窟探索へと乗り出し、影蝙蝠に夜邪蛇などと言った、自らの気配を消す中級冒険者泣かせの厄介な魔物を撃破。
さらに迎える五日目、六日目と森の奥地に生息する狂牙狼や怒灰熊などの魔獣系と呼ばれる凶悪なモンスターの巣の駆逐まで成功するという、中々にハードな日々を送っていた。
ちなみにこれら全て魔瘴石から生まれたスポーンモンスター。ここまで一切、野生のモンスターとのエンカウントがないという。
恐らくだが、スポーンモンスターに住処を追いやられた説が濃厚である。故に魔物素材を集めるために冒険者が、遠征する事例が増えているのかと一人納得した。
やはり誰かが意図して魔障石を配置しているように思えてならない。現に回収した魔障石は、最近出来たものではなく、数百年も前の物だということが鑑定局にて判明した。
もうね、ほんと嫌な予感しかしないのよ。
どこの誰がそんな百年物のビンテージ魔障石を持っているというのか。
ほんとただの魔障石収集ヲタクであってほしい。
夜な夜な魔障石を眺めてワインでも嗜む、どこか頭のネジが数本抜け落ちた、ただの陰キャなヲタク。
お願いだから背景に魔王とか、邪神とかそういうコードレッドな単語は出てこないでほしいと祈るばかり。
童貞の不安は募る一方だ。
ちなみにボスとなるユニークモンスターは、ガルムオークを最後に出現していない。
なぜならば出現する前に、魔瘴石を破壊するというリスク回避を徹底していたからだ。というか何が悲しくてあんな強敵と戦わねばならんのだ。
童貞は激戦を乗り越える度に学んだのだよ。
出る前に壊せと。
相手の出現を待つなと。
そこに情けはいらんのですよ。
今なら変身中のヒーローにすら攻撃出来ちゃう。
童貞はこの討伐に限り、テンプレバスターと化したのです。だってバスターしないと間違いなく生命の危機に直面していたからね。
まぁ、これもそれも全て鬼教官である人外クソ野郎のせいだけれども。
実戦を通して的確に俺たちを指導してくれるのはありがたいが、そのやり方が異常極まる。
人外クソ野郎が、魔物の巣の中で強烈な殺気を放ち、逃げ出した魔物を出口に待機させた我々ブルークレア隊に処理をさせるという、作戦もヘッタクレもない原始的なやり方。
――名付けて『ザ・脳筋デスマーチ』。
きっと彼の脳みそには多勢に無勢というワードはないんだと思う。むしろない方がいいんだと思う。強くなるためには。
でもね。
あえて俺一人、敵地のど真ん中に放り込まれた時は、ほんと殺意の波動に目覚めかけたよ。
なんとか切り抜けられたから良かったものの、死んでたらどうするつもりだったんだろう。
童貞が闇落ちして誰が得をするというのか。
それでも戦闘を重ねる度に、強くなっていく我らブルークレア隊。
おかげで成長速度は超特急。
終わりの見えないスモール〇ール地獄を、毎日こなしていれば嫌でもレベルアップしてしまう。
しかし、そんな急激なレベルアップに身体が悲鳴を上げたのか、六日目を終えて前衛二人がダウンするという事態に……。
さすがに人外クソ野郎も、そろそろ休みを入れないとまずいと思ったようで、七日目の本日は念願の休養日となった。
そう、お休み。
休日と書いてパラダイスと読む。
人外クソ野郎とは違って、我々の体力は有限なんですよ。
そろそろ彼の脳みそに刻みたい。
普通の人間とは何か、を。
間違っても一人でオーク三百匹を討ち果たせる者のことを普通とは呼ばないだろう。
そんな地獄のような日々をベッドに大の字に転がって振り返る童貞。
ふと、ステータスを開けばレベルが23まで上がっていた。ボスも倒してもいないのにこの上がりよう。
正直、頑張りすぎた感が否めない。
「あー……、働き過ぎた。ラウルとネイ氏はダウンしちゃうし、さすがにこのデスマーチはキツかった」
しかし、数百、数千と魔物を倒していく内に、メンバーそれぞれが新たなスキルを開眼していったのは僥倖だった。
ラウルが輝くような青白い闘気を練り出したのを見た時は、さすがに吹き出しそうになったが……。
お前、勇者かよと。
しかもチートもないくせに、もう気刃まで使える様子。これだから天才は。
きぃー、もって生まれた才能が羨ましい!
などと僻んでいても仕方ないので。
「さーて、今日はせっかくの休みだし何をしようかな?」
とは言ってみたものの、やることは決まっている。
夢の世界へと旅立つだけだ。
女っ気のない童貞の休日なんてこんなもんさ。
というわけで二度寝慣行!
バサッと顔まで布団を掛けて、ベストな体勢ををキープして再び眠りに入る童貞。
さあ、夢の世界にいざ参らんっと思った矢先、コンコンコンっと小気味良くドアをノックする音が。
同時に閉じた瞼をパチリっと開ける。
くぅー……、タイミング悪い。
まったく朝から誰だよ。
俺が「はーい」っと返事をしようとした瞬間。
バタンっと勢いよく開かれる自室のドア。
「――ヨハン! 朝よ!!」
入ってきたのは言わずもがな、ローズリリイ。
朝から良からぬ薬でもキメているのだろうか、と心配になるくらいのハイテンション。
童貞との温度差よ。
というかさ、せめて返事を待ってから入室してくんない? 仮にアレでもしていたら大事故に繋がるよ、ほんとに? 男という生物の本能を舐めないでいただきたい。隙あらばするものだからな。
そんなグダグダのテンションの中、ベッドからむくりと起き上がり、何から話そうかと頭の中を瞬時に整理。
「おはようございます、リリイさん。今回はちゃんとノックしていただきありがとうございます。ですが、部屋に入るときは相手の返事を待ってからにしてください。こちらとしても出迎える準備が必要ですので。次からは絶対に、必ず、確実に、そして相違なくお願いしますね」
これだけ言っておけばいいだろう。
万が一、事故に繋がっても過失は相手にある。
発射時に遭遇してどこかの同人誌パターンになっても知らないからな?
警告はしたぞ?
「わかったわ! それよりもヨハン、出掛けるわよ!」
うわぁー、出たよ。
相手のことを何も考えない、ツンデレ特有の唯我独尊精神。ほんとブレずに我が道を行きますな。
しかし、どうやって断ろう?
童貞には二十四時間耐久睡眠をおこなうという特大ミッションがあるのだ。
こいつの暇つぶしに付き合う義理はない。
ただ、このまま断っても角が立つので、何をするかくらい聞いてやろう。
童貞とは気遣いの生き物なのです。
「ちなみにリリイさん、どこに行かれるんですか?」
「ルナと一緒にハーフベルの商店街を見にこうかと思って。この街って色んな商品が集まる交易都市でしょ? せっかくの休みだし出掛けないとね! それで準備してたら、ルナがヨハンも誘いたいみたいなことを言ったから、代わりに私が誘いに来たのよ」
なるほど、ルナ氏がねぇ……。
ふと扉の外から視線を感じたので見てみると、なんとそこにはあわあわと慌てふためいたルナ氏の姿が。
「ちょ、ちょっとリリイ!? なんでそう言うことをストレートに言うの!?」
ごもっともな指摘。
でもね、彼女は素直でど直球が売りなんです。
オブラートに包むなんて高難度対人スキルを持ち合わせているはずがない。
これは頼んだルナ氏が悪かったな。
「ほら、ヨハン早く準備しなさい? 私たちはリビングで待っててあげるから。じゃ、また後でね」
あー、なるほどねー。
どうやら童貞に選択肢はないらしい。
もうローズリリイが来た時点で、強制イベントの類いと思った方が良さそうだ。
でもせめて行く、行かないかの選択肢は選ばせてくれよ。そうなった場合、行かない一択となるが。
そう考えると、ローズリリイの童貞に対しての誘い方は、最適解なのかもしれなんなぁ。
そんなことを思いつつも素直な童貞は、粛々と準備を整えるのだった。
さらば、俺の二十四時間耐久睡眠。
◆◇◆
ローズリリイに部屋へと凸されてからしばらく。
身支度を整えた童貞は、足早にリビングへと向かうと、なぜか待ち構えていたルナ氏に――。
「おっ、おは、おはようございます、隊長! いきなり朝早くから誘ってしまいごめんなさい! リリイと話していたら、こんな流れになってしまい、あの、その……」
――開口一番、謝罪されるという。
まぁ、きっとルナ氏も冗談で話していた手前、リリイが本気にして俺の部屋に凸してきたのだろう。
ある意味ルナ氏も巻き込まれたな。
「ルナさん、大丈夫ですよ。特に今日はやることもなかったですし。俺でよければお二人の荷物運びくらいはしますから」
「え、そんな……、それは申し訳ないですよ!」
ブンブンと両手を振り遠慮するルナ氏だが……。
「あら、良い心掛けじゃない! ねぇ、オリバー? ヨハンもこう言っているわけだし付き添いは不要よ」
「て、ですがお嬢様!」
ローズリリイのまさかの発言に、リビングで待機していたオリバーさんが焦り始めるという。
おっとぉ、もしやこれは地雷を踏んだか!?
余計なことを言ってしまった感が半端ない。
ほんと申し訳ないと、アイコンタクトをオリバー氏に飛ばす童貞。
届いてほしい、この想い。
しかし、当のローズリリイは。
「不要よ。それとも何? ヨハンじゃ、荷物持ちも、私の護衛も力不足と言うのかしら?」
えぇ、そりゃあもうオリバーさんに比べたら、童貞なんぞまったくもって力不足でしょ。
だが紳士なオリバー氏はそんなことは口が裂けても言わない。なぜなら紳士だから。
「そんなことはございませんが、ヨハン様も荷物持ちではなく、お嬢様とご一緒に散策やショッピングを楽しみたいと思われているかと思います。ですので、荷物持ちは私めにお任せください」
おお、さすがオリバー氏! 誰も傷つけることなく、さらっと同行しようとしている。
するとオリバー氏から、童貞に向けてフォローを求めるようなアイコンタクトが飛んできたので……。
「確かにオリバーさんがいらっしゃると心強いですね。馬車の御者もお願い出来ますし、ご一緒いただけると助かるのですが?」
すかさずフォローを入れると、アイコンタクトでオリバー氏からお礼を言われたような気がした。
やはりオリバー氏とは通ずるものがある。
この連携の良さよ。
しかし――。
「ダメよ、ヨハン。今日は三人で行動するって決めたんだから。オリバーがついてきたら面白くないじゃない。それに今日は馬車は使わないから。徒歩よ、とーほ! 歩いて商店街まで行くわよ! ということだからオリバーはここに残ってなさい」
いくら童貞とオリバー氏が連携しようとも、お嬢様がイエスと言わない限り、それは報われることはなく。
まるで愛娘が親離れしたかなようなショックで固まるオリバー氏。
ガーンという効果音まで聞こえてきそうだ。
「ほら、ヨハン! 何しているの? さっさと行くわよ?」
出掛ける気満々のローズリリイが、玄関先でそう叫ぶ。
オリバー氏、力になれなくてすまん。
出来ることなら代わってあげたかった、無念。
こうして童貞+美少女二人という、なんともデコボコしたトリオで、ハーフベル商店街へと出掛けることになった。
そこで例の人物と出くわすとも知らずに。
【あとがき】
本日も異世界えぶりでいを読んでいただき誠にありがとうございます!
今回は終盤への繋ぎの回となりました。サクサクッと終わらせたいところ。
ダイジェストで終わらせてしまったモンスターたちとの戦闘シーンも書きたいなと思いつつ、物語を進めねばいけないという思いの板挟みにあい、こんな感じでまとめてみました。
次回はまさかのデート編です。どうなることやら。
最後にこの数日間、誤字報告、感想、いいね、ブクマ、評価をいただきました読者の皆様、本当にありがとうございます。更新頑張りますので、お付き合いください。
次の更新は9月17日(土)予定です。
お楽しみにー。




