4話 結成、王都特務隊『ブルークレア』
詰所へ到着すると、そのまま所長室へと向かった。
興奮気味のローズリリイに腕を掴まれ、ズルズルと引きずられる形で所長室へと到着。
そして数度ノックをして部屋へと入ると、そこにはラウルやルナ氏といった元十八小隊の面々と、モデルのようにスラっとした超絶美人なお姉様が立っていた。
ちょうどパグから、新部隊についての説明を受けていたようだ。
というかパグの横に立つ、この綺麗なお姉様は誰でしょう? 知らない顔だ。あんな美女がいたのなら、真っ先に脳内メモリーしているはずなんだけど。もしかしてパグの新しい秘書?
美女オーラをむんむんと放つお姉様も気になるが、とりあえずそれは置いといて。まずはローズリリイの入隊交渉を進めなければ。
タイミング良くメンバー全員集まってるし、交渉するなら今がチャンス。
が、しかし。
肝心のパグが、予期せぬローズリリイの登場で、真顔になって固まっていた。
ほんとアポなしで申し訳ない。
そして一呼吸吐き、パグがやっと正気を取り戻す。
「こ、これはこれはローズリリイ嬢。ヨハン君との話し合いは上手くいったのかな?」
恐らくパグは俺の性格からして、ローズリリイの入隊を断るものだと思っているはず。
確かに俺も当初は断ろうとしていたよ?
でもね、童貞がツンデレお嬢様に命令できる機会なんて、これを除いて他にあるだろうか?
答えは否――。
このチャンスを活かすべきだと俺の本能が叫んでおりまする。ツンのデレを見ろと轟き叫んでおりまする。
だからすまんね、所長。
俺はツンデレをもっと味わってみたいのです。
「ええ、ご心配にはお呼びませんわアグライト男爵。ちゃんとヨハン隊長から入隊の許可は得て来ました」
「――え?」
と、パグが固まるので。
「すいません、入隊の許可を出しちゃいました」
テヘペロな感じで追い討ちを掛ける。
「えぇぇー!? ちょ、ちょっとヨハン君? どういうこと? ほんとに許可したのかい?」
そんなに驚かなくても。これは俺に決済権を渡したパグも悪いと思う。こうなった以上、潔く腹を括って諦めてほしいものだ。
「はい、本当です。ただし、彼女が入隊するにあたり、いくつか条件を出させていただきました」
そして俺は、今までの経緯をパグに説明していく。
特に入隊条件やローズリリイの覚悟を強く主張してみた。
プレゼンのイメージはスティーブ・ジョ〇ズで。
「よろしいでしょうか? 彼女はアンガスター家の除籍を覚悟の上で、特務隊に入隊を希望しております。もちろんこちらとしても、そんな恐れ多いことをしてもらうつもりは毛頭ありません。しかし、彼女にそういった覚悟があるということを、所長には知っていただきたいのです。そして何より一番重要なのが、彼女の個としての強さ。これは我々にとって大いに助けになるのではないしょうか? 彼女が我が隊に加わることによって、隊員の生存率が格段にアップするのは間違いありません。ですので、所長にもぜひ彼女の入隊を認めていただきたくお願いにまいりました!」
などと、わざとらしく語ってみせると。
「……まさかこんなことになるなんてね。僕の予想が外れちゃったな。ローズリリイ嬢? 一つ確認したいんだけど、このことはアシュレイ様はご存じなので?」
「え、えぇ!! もちろんです! その辺は抜かりなく」
あっ、これ絶対言ってないわ。きっと強行突破するつもりだな。事後報告で大丈夫か?
パグに見抜かれて、入隊を渋られなければいいが。
「うーん……、そっかー、アシュレイ様が許可してるなら仕方ないか。それに僕もローズリリイ嬢にそう言っちゃった手前、入隊を認めざるを得ないね。……よし、じゃあ僕の権限において、ローズリリイ嬢の入隊を特別に許可するよ!」
なんとパグがあっさり折れるという。
惜しいな、パグが顔面偏差値の高い女性キャラならチョロイン枠をゲット出来たものを。実に残念。
そんなチョロダンディなパグの言葉に。
「やったー!」
満面の笑みで喜ぶローズリリイ。
思わず俺とハイタッチ。
こうやって少しづつ好感度を上げていき、いつか体験できるであろうデレのために童貞はひたむきに頑張る所存。
今回は記念すべきその第一歩だ。
「良かったですね、リリイさん」
「ええ、これもヨハンのおかげだわ。ありがとう!」
よしよし、いい感じだ。
ぐふふふ……、我が策中に嵌るが良い。
「さて、ちょうどヨハン君たちも来たことだし、ついでに新たに発足する特務隊の責任者を紹介するよ。さっ、みんなに自己紹介を」
「はい、所長」
そう言って、パグの隣に立っていた美人なお姉様が一歩前に出る。
肩口で切りそろえられたブラウンヘアーに、モデル顔負けのスラリとした八頭身ボディ。
休日にはヨガ教室でも通ってそうな、意識高い系OLのような女性が俺たちに自己紹介を始めた。
「皆さん、はじめまして。アグライト・カミラと申します。今回、新たに発足する特務隊の支部長として、皆さんと共に励んでいきたいと思います。まだ不慣れな部分が多いと思いますが、どうぞよろしくお願いします」
そう言って頭を下げるカミラ支部長。
面々が返事を返す中、俺は一人驚きで声が出なかった。
ア、アグライトだと!?
そんなバカな……、これが親子だとでも言うのか!?
かたや三頭身、かたや八頭身。
もはや親子以前に種族が違うんだが?
「あのー……、所長? つかぬことをお聞きしますが、もしやカミラさんって……」
「うん、そうだよ。僕の実の娘だ」
まじかよ!?
ガチの突然変異じゃん!?
おい、DNA? ちゃんと仕事しろよ? 種の配合間違ってんぞ?
「一昨年、士官学校を卒業して、そのまま僕の補佐をしてもらっていたんだけど、新設部隊の責任者を任せられる人材が他にいなくてね。特務隊の業務内容は既に頭に入ってるから、きっと仕事は無難に回せると思うよ。仲良くしてあげてね」
親指を立てて、そう言い放つパグ。
おいおい、職権乱用しまくりですか。縁故就職万歳だな? でも美人なので文句はない。むしろご褒美。
「ヨハンさん? 以前から貴方のことは、父からよく聞いてました。お互い初めてのことばかりですので、協力しながら頑張っていきましょうね」
ニコリと微笑みながら右手を差し出してきたカミラさん。
え、握手していいんすか? いいんすか?
「よ、よろしくお願いします!」
そうして握ったカミラさんの手は、身長に似合わず、とても小さく柔らかかった。なんだか優しい温もりに包まれたような感じだ。
今更ながら、アイドルの握手会に並ぶ同胞たちの気持ちが、なんとなくわかったような気がした。何故、たかが握手権のために、あんなに必死になってCDを買い漁っていたのかが。
女子の手とは、まさに神が与えた一種の癒し。
カミラさんと握手をするだけで、日々の生活で溜まった、魂のホコリまで洗い流してくれるような気分となる。
もっと早く気付けば良かった。手を繋ぐ行為がこれほどまでに童貞の心を癒すものとは。
ただ、このままカミラルートを進むと、もれなくパグがついてくるという地雷もある。判断が悩ましい。
「じゃあ、これからの流れを説明するよ」
俺の妄想をぶった斬るようにパグが説明を始めた。
「まず、一つ了承してもらいたいのが、きみたちの活動拠点が王都より移動となります」
な、なんですとー!?
聞いてないんだけど? いきなり俺の王都ライフ終了のお知らせ!?
これにはみんなもビックリ。
「と言っても、ここから馬車で一日ほど移動したところにある城塞都市ハーフベルだけどね」
「え、所長? ハーフベルって、冒険者の街ハーフベルですよね?」
何故かラウルが興奮気味にそう話す。
いきなりどした? 発情期ですかこのヤロー。
「そうとも言うね。地理的にはアンガスター領と、ルトナーク領、さらには魔物支配領域の三つに面する、王国特別管轄都市の一つだ」
つまりは王国が飛び地で管理する重要都市の一つ。
というか魔物退治の最前線都市じゃねーか!
「そこに王国特務隊支部を作る運びとなってね。既に支部となる拠点は確保済みで、引退したプラチナ冒険者クランが使ってた建物を居抜きするから期待していいよ」
いや、そういう話ではない。
最前線送りにされるのが嫌なんだよ。
もはや左遷だ、左遷。
「あら、それってもしかして『竜の牙』のことかしら?」
「よく知ってたね、ローズリリイ嬢」
「えぇ、だってその土地って元はアンガスター家の別邸でしたもの。使わなくなって冒険者組合に売り渡したのは聞いてましたけど、まさか『竜の牙』が引退してたなんて……」
なるほど、どうやら有名な冒険者だったらしい。俺はまったく知らんけど。
「もう彼らも良い歳だからね。何人かウチで指導教官として雇うことにしたから、向こうで稽古でも付けてもらうといいよ。学ぶべきことはたくさんあるはずだから」
「「ほんとですか!」」
何故かラウルとネイ氏がこれに喰いつくという。まったく、この脳筋どもめ。
「急な異動となって申し訳ないけど、しばらくの間、そこを拠点にして近隣の調査を頼むね。きみたちの成果にもよるけど、少しづつ隊員も増やしていく予定だから。それを含め、みんなには精一杯頑張ってほしい!」
「「了解しました!」」
こうして、ローズリリイを特務隊へ入隊させるというミッションは、無事にクリアすることが出来た。
しかし、予想外の異動勧告を受けてしまったのが辛い。
向こうで新たな出会いがあるといいんだけど……。
パグの説明が一通り終わると、ローズリリイがチームの面々と軽く自己紹介を交わして、その日は解散となった。
それにしても、みんなローズリリイの加入に嬉しそうだったな。まるで有名芸能人が、一般企業に入社したようなはしゃぎっぷり。
どうやら彼女を問題なく受け入れられそうで安心した。
ローズリリイもツンな感じで恥ずかしがってはいるが、内心きっと嬉しいはず。ほぼ同年代だからな!
それから俺たちは一週間の準備期間へと入る。
その間に俺は家族に昇進の報告と、ハーフベルへ異動となった旨を伝えるために実家へと帰省。
まあ、帰省と言っても兵舎から歩いて三十分ほどの距離ですけどね。夢の一人暮らしをしたいがために、兵舎に入っただけなのだから。
そして両親に事情を説明すると、これには父さん、母さんもビックリした様子。
それでも息子の昇進を喜んでくれた。
ほんのちょっと前までニート万歳な穀潰しだった俺が、入隊して僅か三か月で隊長職に就任したのは、両親としては出来過ぎなくらいの出世だろう。
ただ妹のシェリーが、俺の異動でどことなく悲しそうだったのが気がかりではあるが。すまんね、ツンデレに目が眩んだ兄ちゃんを許してほしい。
そんなこんなで俺は貴重な休暇を実家で過ごした。
と言っても、ずっとぐだぐたと寝ていただけだが。彼女のいない男の休日なんてこんなもんよ。
そしてハーフベルへと出発する前日。
俺たちは再び所長室へと集められる。
どうやら専用装備が出来上がったみたいだ。
各自、梱包された荷物を受け取ると、パグから。
「あ、そうそう! 昨日の所長会議できみたちの部隊名が決まったから報告しとくね。東西南北の詰所より各一部隊づつ選出された特別部隊ということで、うちは『ブルークレア』の名に決まったから。今後はその呼称で呼ぶからね」
「へぇー、守護竜の名前ね! いいじゃない!」
と、ローズリリイ。
「そう、その通り。この地へと芽吹く災厄の芽を食べる守護竜の名前だよ。みんなもその名に恥じないように、頑張ってほしい! 期待しているから!」
こうして王都特務隊「ブルークレア」隊が結成される運びになった。
警邏隊で、記念すべきダンジョン調査チームが誕生した瞬間である。
【あとがき】
本日も読んでいただきありがとうございます。
皆様のおかげで日間ファンタジーランキングに入ることが出来ました。
ブクマ、評価いただいた皆様、心より御礼申し上げます。
こんな作者でも応援してくれてるんだと、ちょっと久しぶりに目元が熱くなりやした。
みんなありがとーー!
そして誤字報告をしてくださった方、本当にありがとうございます。お見苦しい限りですね。お手間をかけてしまい申し訳ございません。非常に有難いです。
これからもダラダラと更新となりますが、よければお付き合いください。
物語をあまり難しくは展開しませんので悪しからず。
明日も更新の予定です。
どうぞよろしく!




