第5話 火の精霊エンジュ ②
もえさかる炎はさらに勢いを増し、人のような姿に変わる。それはトラックを立ち上がらせたほどの大きさの炎の巨人。その手にはしっかりと固くユウトがにぎりしめられている。
「うわあぁ!あぁぁぁ!」
つかまれたユウトの体から、ものすごい勢いで水蒸気がたちのぼっていた。水のマフラー、ミズチは、炎の熱からユウトを守ろうと必死でがんばっているのが水蒸気になって現れているのだ。
しかし、ふいをつかれて巨大な炎の手ににぎられてしまったので、水のマフラーは完全にユウトの体を守りきれていなかった。
水の幕で守れていないところから、そして水が蒸発して幕がなくなって守りきれなくなってしまったところから、炎はその凶暴な熱でユウトの体を焼いていたのだ。
「あー!あー!うあぁー!」
ユウトの悲鳴が、かたいものを切りつけるようなかん高いものに変わっていく。
クーラリオは何とか近づこうとしたが、炎の熱と風にさえぎられて弾かれてしまう。クーラリオは炎の壁のせいでユウトの姿を見ることはできなかったが、耳をつんざくその悲鳴が、今までのグズって泣いていた時とはうったえている痛みがちがうことは理解できた。
炎の壁の向こうでユウトが大変なことになっているのはまちがいなかった。
「ユウト、しっかりしろ!ユウトォ!」
「……!……!……!」
もう、ユウトの口から飛び出しているのは、人の悲鳴ではなくただの物音になっていた。
「ちくしょう!どうにもならねぇのかよ?!」
ユウトはもう悲鳴をあげることしかできなくなっていた。
水のマフラーはユウトの命の危険を感じ取って、いちかばちかの方法を取った。これでもかとたくわえていた力をふりしぼって大きくなって、水と火をふれ合わせて大量の水蒸気を作り出し、一気に大爆発させたのだ。
爆発の力はものすごく、炎の巨人の手を吹き飛ばす事ができた。
こうして、なんとか炎の巨人の手の中からユウトは脱出することができたのだ。
しかし、ユウトは無事ではなかった。魔法の力で守られていたはずのマジカルスーツが炎で焼かれてチリチリのボロボロになってしまい、全身にひどい大やけどをおってしまっていたのだ。
「逃げるぞ!」
「わぁぁん!うわぁぁん!」
クーラリオはその小さな体から信じられない力を出して、ユウトをくわえてとびあがる。
いちもくさんに向うのはきれいな水が流れている近くの小川。
何とかひっぱってきたクーラリオはユウトもろとも、たたきつけるように小川に不時着。ユウトは小川の中に無事になげこまれたのだが、その体にふれた水はブクブクとふっとうしている。ものすごい熱だ。
「うあぁー!あー!あー!あー!」
「ユウト、しっかりしろ!しっかりしろ!」
「痛いよう、痛いよう、痛いよう!」
冷たい水の中をゴロゴロと転げまわるユウト。
無理もない。ユウトの体は見るも無残に焼けただれ、やけどが骨にまでとどいているところまであったほどだったからだ。
「まってろ!もう少しがまんするんだ!」
とてもひどいやけどをユウトは負っていた。このままでは皮ふから呼吸ができなくなって、ユウトはまちがいなく死んでしまうだろう。
ついに声も出なくなり、ひゅうひゅうと弱々しく息をするだけになって動かなくなってしまったユウト。その胸の上にクーラリオはとまる。
「四の五の言っていられねぇ!オレの全力、出しつくしてでも!」
クーラリオの体がまっ白にかがやきはじめる。クーラリオはユウトのやけどを治すために、治癒の魔法を使ったのだ。
クーラリオの治療魔法で、ユウトの体の痛みが引いていく。痛々しく焼けただれていた肌が、信じられないほどきれいに治っていく。
「はぁ、はぁ、ふぅ。クーラリオ……、あ、ありがとう。楽になったよ」
しかし、クーラリオはユウトのお礼に返事する事もなくそのまま、元気をなくしてゴロリと置物のようにへたりこんでしまった。
「だ、だいじょうぶ?!」
「ば、ばっきゃろう。油断してほいほい近づくからこんな目に合うんだぞ……」
口で怒っているクーラリオだったが、目は全然怒っていなかった。それどころかやさしげにユウトの方を見ているようだった。
ユウトはけんめいにクーラリオの背中にゼンマイの鍵をさして巻きなおす。しっかりと巻けなくなってしまうまで巻き直したユウトだったが、今までのようにクーラリオに元気が戻らない。
「もしかして、治療の魔法を使ったら弱っちゃうの?」
「へっ!ゼンマイを巻けば体を動かす力は戻るが、魔法を使うのに必要な魔力までは戻らねぇんだ。ユウトにわかるように言うなら、電池切れってやつだな」
「じゃ、じゃあその電池ってどこで充電すればいいの?!」
「地上じゃむりだ。予備は持ってきてねぇし、入れなおそうとしたら魔導界に帰らなきゃならねぇ。でも、そんな時間なんて残ってないからな」
ボソボソとかぼそい声でクーラリオはしゃべった。
「うわぁぁん!ごめんねクーラリオ。ほんとうにごめんね!」




