第5話 火の精霊エンジュ ③
クーラリオを抱きかかえて、ユウトは泣いて泣いて泣きじゃくった。そんなユウトにクーラリオはあきれたように、しかしやさしい声をかける。
「あのなぁ……、あやまる時間と元気があるんだったらな、さっさとあいつを、やっつけてくるんだ」
「むりだよ、むりだよそんなの!」
ユウトは小川のなかでへたりこんで泣きさけびつづけた。
「あんなのに、あんなのすごいのに勝てっこないよ。絶対むりだよ!」
「なんで、そう思う?」
「あんなすごい攻撃だったんだよ?!いきなりビュンってとびだしてきて、まっかな大きな手でぎゅっぎゅっておにぎりしてくるんだよ!あんなの、ボクのポンコツ運動神経じゃあ絶対よけられっこないよ!さっきみたいににぎられて、じゅうじゅう燃やされちゃうよ!」
クーラリオはだまってユウトの泣き言を聞いていた。
「今度は本当に、まっ黒のまる焼きの焼きおにぎりにされちゃうよ!だから、勝てっこないよ。おしまいだよ……」
「ばか……、やろう!」
枯れはてそうなくらいかすれてながら、耳の奥どころか胸の奥ふかくまでえぐるような声を出してクーラリオはさけんだ。
「たった一回負けたくらいで、すぐにあきらめてどうする?!」
「でも、でも……」
ひっく、ひっくとしゃっくりしながら鼻をすすっているユウトに、クーラリオはぎこちなくおきあがらせて言葉をつづける。
「いいか、ユウトよく聞け。魔導界出身だろうと地上界出身だろうとな、負けたと思うまで、負けたってあきらめちまうまで人間は負けねぇんだ!」
「負けたと思うまで?」
「そうだ。人間は負けねえ。生きていれば絶対に次に勝つチャンスがある」
ユウトはだまって下をみていた。さわさわと流れる小川の水面にゆらゆらとゆれる月がうつっている。
「第一、お前はあの時、おもいきり油断していただろうが!?ちゃんと気をつけて、気合を入れて全力で戦って負けたのか?ちがうだろ!」
「う、うん……」
「やられて死んでしまったんならそれまでだ。でもお前はこうやって生きているからな。生きているからオレさまのありがたいお説教を聞く事ができるし、泣き言だって言えるし、反省だってできるんだ」
「生きて、いるから?」
「そうだ、生きているからだ」
その時、ぐうぅっとユウトのお腹からうなる音がした。
「なんだユウト、腹が減ったのか」
「う、うん。そうみたい」
夕飯のカレーライスを食べてから、かれこれもう五時間くらい。それからみんなで肝だめしをしてキャンプファイヤーをして、呼びつけられてお堂に行かされて、そこでクーラリオと出会って……。ずいぶんと時間がたっていたのだ。
「ゲオルギィにみんながカチンコチンにされて、マーダルおじいさんに助けてもらって、それから魔導師になれるようになって、結界で戦って……。あっという間だったけど、なんだかずいぶん長かったような気がする」
「まあ、それだけ動き回って戦っていりゃあ、腹も減るだろうな」
「えへへ」
ユウトは左手でお腹をさすってみる。やっぱりお腹がすいていたし、のどもカラカラになっていた。
「のどがかわいて、お腹がすくってことは、お前はしっかり生きているってことじゃねぇか。わかるだろ?」
「うん」
「だから生きているうちはな、簡単に負けたとか、もうだめだとか、思ったりするんじゃねぇ。思っちまったら本当におしまいなんだ、ぞ……」
そのまま息を切らせてぐったりしてしまうクーラリオ。
「クーラリオ!しっかり!しっかりして!」
「オレ様をだれだと思っているんだ?オレ様はクーラリオ様なんだぞ。ユウトこそ、ちゃんと立ち上がってみせろよ……」
ユウトはクーラリオを大きな岩の上にそっと置くと、ぐしぐしと涙をこぶしでぬぐって立ち上がり、そして空を見上げた。木と木の間からのぞいていた夜空には、お月様が青白く、くっきりと力強くかがやいていた。
「ユウト、お前はしっかり立ち上がれるな。立てなくなってたらどうしようかと思ったぞ」
「大丈夫。ボクはもう大丈夫だよ」
ユウトは、ここがみんなでテントを張っていた場所の近くだという事を思い出した。
「ちょっとまっててね!」
ふきぬける風のように、小川の上を、森の木々の間をかけぬけるユウト。ついさっきまで木の枝にぶつかっていたとは思えないほど見事な上達ぶりだった。
「そうだぞユウト。お前はやればできるんだぞ……」
ぽつぽつとむらさき色の点々が目の前に広がってきたクーラリオは、うつらうつらとふかい眠りの底におっこちてしまいそうになっていた。そこへユウトが、突風のような早さで帰ってきた。
「クーラリオ!のどがかわいてお腹がすいたから、水筒とお菓子を持ってきたよ!一緒に食べよう!」
「そいつはいい考えだが……。言っとくがオレはからくりの体だからな。食べ物は食えねえぞ?」
「いいんだよ。気分だけでも味わってよ、ね?」
「わかったわかった。気持ちだけでもいただいておくぜ」




