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大団円(仮)

 野村彩佳と小倉雪奈は桑原圭史郎の殺人及び死体遺棄の容疑で、どちらも被疑者死亡のまま書類送検。

 

 高島亜由美は殺人教唆、および県会議員の川西幸雄との癒着に関する経済事犯容疑で逮捕、起訴された。当然、川西幸雄も逮捕、起訴となる。

 

 石岡孝太に関しては、公務執行妨害のみで厳重注意にとどまった。


 これで宮島再開発の話は頓挫だろう。結果的には事件解決となったが、両手を挙げて喜ぶ訳にはいかなかった。 

 容疑者を追い詰めておきながら、みすみす目の前で自殺させてしまったことに加え、民間人を巻き込んだこと、いずれも警察としては面子が立たない。マスコミはおもしろおかしくその点を強調して報道した。


 聡介はまず課長にガミガミ言われ、部長にもさんざん文句を言われた。

 やっとのことで解放され、刑事部屋に戻ると、部下達全員が心配そうな顔で待っていた。


「なんだお前達、全員揃って……ほら、さっさと仕事しろ。刑事の仕事は犯人逮捕の後の方が大変だって知ってるだろ? 徹夜したいのなら止めないけどな」


「班長、お話があります」駿河が思い詰めた表情でやってきた。

 この頃はわりと駿河の感情が読めるようになった。

 あるいは彼が隠そうとしなくなったのか。だとしたら、心を開いてくれるようになったということだろうか。


 聡介は駿河の肩をぽん、と軽く叩いて立ち上がった。

「まさか、責任を取って辞めるとか言うんじゃないだろうな?」

 先制を期して聡介は言った。


 ぎくり、と駿河の身体が震える。やっぱりか。

「思い上がるなよ、お前一人が辞めたところで何の解決にもならないんだ。責任を取るのはこの俺だ。俺が判断して、指示を出した。その結果がこれだ。今のお前がしようとしているのは、ただの現実逃避だ」

 今にも泣き出してしまいそうな顔。

 今の彼はただの、父親に叱られて小さくなっている子供のようだ。


「ここを辞めてどうするんだ? パパの会社に再就職するか?」

「そんなことは考えていません!」今度はムキになった。

「……なら、今できることだけを考えろ」

「班長……」

「俺はお前達をフォローするのが仕事なんだ。迷惑をかけられたなんて少しも思っていない。わかったか? わかったらさっさと仕事に戻れ。俺はもう少し、ここで休憩していく」   


 9月も近いこの頃はだいぶ暑さも過ぎ去った。

 蝉の鳴き声に変わって、鈴虫の声が聞こえるような気がする。

 

 駿河は最敬礼し、踵を返した。

「めずらしく厳しいですね。あいつにだけは、ひたすら優しいのかと思っていました」

 友永の声が後ろから聞こえた。

「友永か……彰彦はどうしてる?」

「淡々と仕事してますけど、奴も相当ショックを受けてますね。よりによって一番嫌いな男に正論でやり込められちゃね」

 聡介は目を丸くして尋ねた。


「……お前、あの場にいたか?」

「いませんでしたけど、三次市署に同期がいましてね。いろいろ情報は入ってきてます」

 こいつは地獄耳だ。気をつけよう、と聡介は思った。


「ところで班長、課長が呼んでますよ」

「それを先に言え!」

 聡介は急いで課長の元へ走った。

 捜査1課長の大石警視は苦い顔をしていた。


 先ほどさんざん文句を言ったくせに、まだ何かあるのかと聡介は身構えたが、上司の用件は思いがけないものだった。

「さっき、三枝巡査長から連絡があった」

「三枝?! あいつ、どこにいたんですか?」

 久しぶりに聞く名前だ。

「……自分に刑事は向いていない、生活安全課に戻りたいと。それができないなら警察を辞める……と」

「……」

「ちょうど備後庄原署に欠員があって、そちらへ異動になった。そこで、だ。そうなると君のところに欠員が出る。増員を希望するかね?」

「はい。ちょうどいいのがいますので、このまま引っ張らせてください」


 一つだけ嬉しい報せができた。

 聡介は刑事部屋に戻ると、稲葉結衣巡査の姿を探した。

「うさこ、うさこはどこだ?!」

「うさこなら、さっき買い物に出ましたよ」

 そこへ結衣がお弁当の袋と、大量のスーパーの袋を提げて戻ってきた。


 聡介は結衣の元に走り寄ると、

「喜べ、お前も来月から捜査1課の一員だ!! うちの班員だぞ」

 当の本人はしばらく何を言われたのかわからなかったようだが、やがて

「本当ですか?!」と、目を輝かせた。

「ああ、本当だ。これからよろしく頼むぞ!」


 やったな! と、日下部は嬉しそうだ。

 はい! と、結衣はうるうると涙を浮かべて喜んでいる。


「……三枝さん、どっか行っちゃったんですか?」

 それまで静かにパソコンのキーボードを叩いていた和泉が言った。

「ああ、所轄の生活安全課にな」

 ふーん、とだけ返事があってそれきり息子は黙りこんだ。


 その時、聡介の席の電話が鳴りだした。知らない番号からだ。

「はい、捜査1課高岡班」

『あの、私……御柳亭の……石岡孝太の後見人の寒河江里美と申します』

「ああ、女将さん。どうかなさいましたか?」

『孝ちゃん……石岡君が、どうしても和泉さんとおっしゃる刑事さんにお話しがしたいと言っておりまして、ご足労ですが、病院までお越しいただけないでしょうか?』

「和泉……ですか? 駿河ではなく」

 思わず聡介は訊き返した。

『ええ、確かに和泉さんと言いました』

 彰彦に? いったい何の話だろう。聡介は訝しく思ったが了承し、明日の朝一で向かうと約束した。

 ちらりと駿河を見る。彼はいつも通り真面目に仕事に取り組んでいた。



 あれから周にも美咲にも一切連絡が取れない。

 病院へ到着した。石岡孝太の病室の前には制服警官が立っている。

 

 挨拶をして病室に入ると、彼は一人だった。

 だいぶ顔色がよくなったようだ。

「女将さんはお帰りになったのですか?」

「はい、昨夜の内に」

「傷の具合はどうですか?」

「まだ痛みますが、時間の問題です」

 慣れない言葉遣いのせいか、少しぎこちない。

「どうぞリラックスしてください。それで、僕に話とは?」

 孝太は少しの間、天井を見つめて考える様子を見せた。やがて、

「何から話したらいいのか……こんなこと、警察の人に頼むのはおかしいけど、でも周はあんたのことを一番信頼してるみたいだし、大好きみたいだから……それに、あんたも周のこと、本気で大切に思ってくれてるみたいだし……」

 普段から重い鍋を扱っているのであろうごつい手が和泉の手に触れる。

「周と、サキちゃんを守ってあげて欲しいんだ!」

「……詳しいことを話していただけますか?」

 その手を握り返し、和泉は答えた。


 

 賢司の言ったことは大げさでもなんでもなく真実だった。

 どこから情報を仕入れてきたのか、宮島と生口島で起きた事件について取材を申し込みたいと、雑誌記者や新聞記者、テレビリポーターを名乗る人間が何人も訪ねてきた。


 インターホンをしつこく鳴らし、無視していても執拗に粘って、いつまでも玄関前にたむろしている。そんな中、マスコミの報道合戦は日に日に過熱していき、どのチャンネルも警察と政治家に対する批判ばかりを公共の電波に乗せていた。高島亜由美が逮捕され、警察車両に乗せられて県警本部につれて行かれる映像が何度も流れる。


 これでは本当に家から出ることもできない。

 ところが。その殺人事件をはるかに凌駕する大事件が東京都内で発生した。連続幼女誘拐殺人事件。犯人は未成年の少年A……。


 地方で起きた一地方新聞記者の殺人事件に対する世間の関心は、あっという間に薄れてしまい、あれほど大勢いたマスコミ関係者も姿を消した。

 夏休みが終わって、新学期が始まる直前の話。


 明日からはもう9月だ。

このシリーズ3作目ですが、約2年前の操作ミスによって2部構成になっておりましたが……2019年8月18日、思い切って1つにまとめました。


【解決編】は非公開にします。

感想くださった方、レビュー書いてくださった方、済みません……。

削除はせずに残しておきます!!

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