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王女コゼット

「あらためて、おはようなのじゃ! お主が勇者じゃな? はじめましてなのじゃ! これにサインをしてたも!」


 俺は勇者と名乗ったりはしてないんだが。王女が差し出した紙に名前を書くと嬉しそうに懐に仕舞った。


「ありがとうなのじゃ! 妾のペットとも仲良くしてくれるかの?」

「あ、ああ」


 なんでいきなりペット紹介を? 子供の行動は突拍子もないな。たぶん友達に友達を紹介する感じなんだろうけど。


「タロウ~!! 来るのじゃ!!」


 タロウ? 呼ばれてやって来たのは、モッサリとした毛が生えた王女より少し大きなペンギンだった。


「跳びペンギンのタロウじゃ! 妾のペットなのふぐっ」


 いきなりペンギンがヒレで王女をどつく。どつかれた王女は床を滑って行って壁に頭をぶつけた。

 やはり女王はあらあらと笑っているし、家臣や兵士は見ない振りをしている。


「痛いのじゃ~!! タロウがじゃれつくといつも痛いのじゃ~!! タロウはペットと言うと怒るからの~」


 いつもなのか。頑丈な王女だな。

 あと怒るなら言うなよ。

 取り敢えず撫でて慰める。


「勇者は優しいのじゃな! もっと撫でてたも!」


 俺のお腹にしがみついている王女を撫でていると、アルテミスがタロウ? に近付いて興味深く見ている。


「お~。変な生き物」


 タロウの周りを回りだした。


「可愛い動物さんですね~。ご主人様、なんていう動物さんですか? 森では見たことがありません」


 跳びペンギンは海辺の岩場で暮らすペンギンで、ペンギンのクセに水が嫌いで岩場の苔や虫を食べて生きている。

 基本的に雑食なので何でも食べる。寒くても暑くても生きていける羨ましい奴だ。


「ごしゅじん、ごしゅじん。これ欲しい! アルにも買って」


 ペンギンの腹をつついておねだりする。


「ピイィィィィィィィ!」


 突然ペンギンが雄叫びを上げてアルテミスの鼻にクチバシで噛み付いた。


「ん~!! 痛い痛い! アルはこれ要らない! 痛いからヤ!」


 狂暴な生き物ではないはずなんだが。アルテミスの赤くなった鼻をさすりながら考える。

 アルテミスの為にペットを飼うのも良いかもな。暇な時にでもペットを探すか。

 ドラゴンとか欲しいな。馬車が入れない険しい場所にも行けそうだし。

 こっちの世界にはペットショップはないから、捕まえる必要がある。


「ごしゅじんのペットはアルに噛みつかないのに!」


 アルテミスがちょっと怒っている。


「ご歓談中にお邪魔するぜぇ」


 ガシャーンとガラスが壊れて妙な魔族が侵入してきた。


「何者だ! ……ッ! 魔族め! 女王陛下の御前と知っての狼藉か!」


 兵士達がいきり立つ。


「ビリー! ケビン! ユリア達と女王と王女を守ってくれ! 初見の敵は俺が戦う」


 能力の判らない敵は警戒の必要がある。


「何しに来たんだ?」

「パーヴェル様の魔力容量が足りなくて封印解除ができないから、時間稼ぎと勇者の抹殺さ~。俺っちの名前はヒュドール。遊んでおくれ~」

「ふぇ、怖いのじゃ~!!」

「王女様はこの俺っちが怖いのかい? 酷いじゃないか~」


 青い粘体の魔族がからかうような口調で王女に攻撃する。

 腕の先が槍のように伸びて王女に襲い掛かる。

 兵士達が盾を構えて奴と王女の間に入るが、簡単に盾ごと貫かれた。

 リーゼが風の魔法で奴を切るが、すぐに繋がって回復してしまうのでダメージがない。

 奴の腕が王女に届きそうな瞬間に、闘気を纏った俺が左腕で受ける。

 俺の闘気を貫いて腕に刺さるが、大したダメージにはならない。


「勇者が守ってくれるのじゃ~!! 妾はもう怖くないぞ!」

「トール様、娘を助けて戴いて……感謝の言葉もありません」


 リーゼが王女に駆け寄り、抱っこしてビリー達の所に連れて行く。

 ライフイーターで奴の生命力を奪って回復していると、兵士達が槍で攻撃をした。

 しかし、奴の体には物理攻撃は効かないらしく、兵士達の攻撃は無視して身体中から粘体を伸ばして纏めて串刺しにする。


「兵士も下がれ! 攻撃できん!」


 俺の言葉に従い、大人しく下がった。


「勇者様がお相手とは光栄の至り。ウケケッ。なんてな。俺っちに素手で向かって来る気かい? 武器が有っても無理だけどな」


 軽口に付き合わず殴り掛かる。当然効かないが油断させる為だ。


「くそっ。ブヨブヨして効かない!」

「これが勇者なんて拍子抜けしギャアアアアアアアア!」


 連続で殴る俺の手が光り出して奴の体の一部を蒸発させた。


「油断大敵だぞ? 俺を甘く見すぎだ」


 魔族全体に言えることだが、人間を見下しているからだ。


「俺っちの体に何をした!?」


 後ろに跳んで俺から離れる。


「光の魔法と闘気を合わせて閃熱を発生させる技だ。光神閃熱掌っていう魔族に天敵の技だよ」


 水っぽかったし熱に弱いと思ったら当たりだったな。炎じゃ駄目だろう。


「ついでに言えば殴り掛かる必要はない!」


 手の平から閃光を放って奴を撃つ。何発かは避けるが全ては躱せずに直撃する。


「くっ! グアアア! …………悪いけど俺っちは逃げる!」


 体を窓の隙間に通して逃げ出した。

 兵士の死体や血と、俺の攻撃で融けた床が嫌な匂いを放っている。


「ボサッとするな! 息の有る兵士を回復するんだ! 俺の装備を持って来てくれ! 回復薬が有る」

「トール様の言う通りにしなさい! 急いで頂戴ね」


 俺とマリンで回復魔法を使うが、瞬時に回復するわけではない。兵士が俺の装備を持って来たので、アイテムボックスから回復薬を取り出して兵士に配る。

 奴は遺跡にいるだろうし、追う必要はないな。第一、俺の生命力と魔力もかなり消費した。



「ありがとうございました。勇者の名は伊達ではないようですね。やはり我が国の兵では倒せないみたいです」


 勇者は周りが勝手に言っているだけだが。

 俺達は兵士達を回復したあと、女王の部屋に通されて今後の話をしている。

 謁見の間は片付け中だ。


「いつ襲撃が有るか判りませんし、今後は城のどこでも武装して戴いて構いません」


 女王の配慮はありがたい。


「あの敵は物理攻撃が効かないらしいね。私では攻撃手段がないようだ」


 ビリーは攻撃魔法がないからな。


「トールとアルテミス以外はダメージが与えられないんじゃないか? オークションで買った俺の魔法の弓じゃ効果が薄いだろ」


 ケビンの分析は正しいだろう。水の体に加えて粘体だからな。雷魔法の電熱なら効くかもしれん。


「ユリアの風で切っても無理かもです」

「ユリアお姉ちゃんだけじゃないよ。レベルが上がらないとアタシの光の翼も威力が上がらないし効かないと思う。それに熱で攻撃する技じゃないし」


 ユリアもカリンも悄気(しょげ)ている。


「トールの光魔法よりはレベルが高いけど、熱を発生させる光魔法は、あたし使えないわ」


 魔法はイメージだからな。レーザー光線とか見たことないと、光が熱を発生させるイメージをしにくいのかもしれない。


「姫様の光魔法が効かないなら私の光魔法なんか無理ね。回復に専念するわ」


 マリンは攻撃魔法も一応使えるが、土魔法じゃ粘体にはダメージを与えられないだろう。


「妾はなんにもできん! 魔法も武術もからっきしじゃ!」


 残念王女の発言は黙殺する。


「ん! アルが頑張る! ごしゅじんと一緒に頑張る!」


 立ち上がり、握り締めた両手をブンブン振って気合いを入れている。眉毛が逆のへの字になって可愛い。


「勇者がいれば大丈夫なのじゃ! 妾のことを守ってくれたからの」

「コゼット姫。トールはあたしの婚約者ですよ? くっつきすぎです!」


 そうなのだ。さっきからずっと手を恋人繋ぎでいるし、ホッペをスリスリしている。


「トール様は妾の命の恩人じゃ! 妾の国は優秀な者と結婚するものじゃからの。トール様はムコなのじゃ!」

「ですから! あたしの婚約者です」

「英雄に妻がいっぱいいるのは普通であろ? リーゼロット様は面白いのじゃ~」

「~~~っ!」


 リーゼが悔しそうに頭をワシャワシャして俺を睨んでくる。


「おいトール。姫様が怒ってるぞ? 8才じゃ若すぎだろ? 早く断って機嫌を取ったらどうだ?」

「……ケビン、俺を愛する女の子は若くても立派なレディだ! そしてレディの誘いは断れないのだよ。機嫌はお前の腹躍りで」

「知るかアホ!!」


 何にせよ今は敵のことだ。


「メインは俺が引き受けるから、みんなはサポートを頼む。あの技は生命力と魔力の消耗が激しいから回復する時間を稼いでくれ」

「ご主人様、危ない技なんです?」


 手の内を晒したくないが、情報の共有は大事なのでユリアの疑問に答える。


「俺の技は全て生命力と魔力を消耗するんだが、単純に威力を上げる訳じゃなく、熱量を上げて奴を蒸発させるからな。薪をくべるみたいに生命力と魔力を消耗し続けるんだ。他の技は一定量消費して繰り出すし威力も自在だ。しかし、あの技は奴に有効な威力になるまで温度を上げなきゃならないから消費量も多い」


 回復しながら戦うか、俺のレベルが上がるかスキルを強化するしかないな。


「では私とケビンで護衛をするから、他の皆で魔法攻撃をして足止めをしよう。マリンはトール君の回復を優先してくれ」


 戦闘方針が決まったところで、遺跡に付いて聞いておく。ビリーが。

 俺達は買い物に向かおう。魔法の威力を上げる武器とかマジックアイテムを探そう。

 アルテミスの魔法攻撃力を上げれば、俺の回復の時間を稼ぎやすいし。


「妾も連れていってたも? デートとやらをしたいのじゃ!」

「トール様、娘を宜しくお願いいたしますね? 我が王家の子女は積極的な上に情熱的なのです。夫も腹上死したくらいで。コゼットはその時に出来た子なんですよ?」

「いやー! 聞きたくない!」


 ロマンチックと思っていたのに、リーゼにはツライな。耳を塞いでいる。


「まあ、買い物に連れて行くのはいいけど。武器屋とかで楽しいのか?」


 女の子が武器屋を喜ぶとは思えん。


「どこでもいいのじゃ! デートなら楽しいから大丈夫に決まっておるからの」


 本人がいいなら構わないけどね。


「そう言えば奴に襲撃されたのは前に兵士がやられた時か?」


 遺跡に行く着く前にやられたらしいが。


「いえ。城に魔族が襲撃して来たのは初めてですわ? 兵士達は遺跡付近で全滅したようです。調査隊が遺体を発見していますから」


 城の襲撃は初めてなのか?


「なら庭が破壊されたのは何なんだ? 明らかに爆発の跡だろ?」


 まさか庭が気に入らないから壊して新しく造り直していた訳じゃないよな?


「ああ! あれはコゼットのイタズラですわ。大砲を撃つのじゃ! と言って壊れましたの」


 ………………ああ、そうなんだ。


「お転婆って可愛いよな!」


 俺は自分を無理矢理納得させて、買い物に出掛けた。

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