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初の外国支店

 ユリアを昼まで可愛いがった日の午後、俺は奴隷商館に奴隷を買いに行き、ユリア達は領主に挨拶に向かった。

 奴隷商館に到着すると、すぐさまオーナーが出て来てぺこぺこしだした。

 商人だけあって俺の情報を知っていたらしく、店員がズラリと並んで挨拶してくれた。


「ようこそいらっしゃいました。レオンハート様の勇名は存じております。当店をご利用下さるのは光栄の極みで御座います」


 丸っこい体に恵比寿顔のオーナーが俺を持ち上げる。勇名って何だ? 魔王軍と戦ってることか?


「取り敢えず俺の希望を伝える。屋敷の管理を出来る者1人、家事が出来る者20人、商売経験のある者5人、料理スキルのある者30人、接客に向いてそうな女の子50人、護衛が出来そうな戦闘スキル持ちを30人買いたい。予算は金剛貨4枚で、余った金は有能な戦闘奴隷を買えるだけ頼む。俺は不動産屋に行くから選んでおいてくれ」


 簡単に欲しい奴隷のスペックを伝えて金を払い、俺は不動産屋に向かうために(きびす)を返す。

 背中でザワザワする気配を感じながら奴隷商館を出ると、人混みをすり抜けて不動産屋に到着した。例によって街で1番デカイ所だ。


「屋敷と店を5軒買いたい。屋敷の予算は金剛貨2枚、店舗は食べ物屋になるやつを金剛貨1枚で」


 奥の部屋に通されてソファーに座った俺は、ヒゲが立派な中年の不動産屋に希望を伝えた。

 普通の大きさのレストランや喫茶店の相場は中金貨1枚~大金貨1枚くらいなので、豪華な店が買えるだろう。

 (ちな)みに庶民の家の相場は小金貨2枚~4枚くらいだ。土地が余っていて安いので庶民の年収の2~3年分くらいで家が買える。

 レストランや喫茶店などは設備と広さが必要なので少し高い。

 ついでに言えば、家を借りる場合は庶民なら大銅貨5~8枚、中流家庭は小銀貨1枚くらい。上流家庭は大抵家を持ってる。

 中流家庭も半分くらいは家を買うらしい。


「そのご予算ですと細かい注文もできますが、どう致しましょう? ご購入のあとに工事の手配もできます」


 なら予算内で出来るだけの魔道具を付けて貰おう。調理が楽になる魔道具を優先的に付けて貰い、従業員の宿舎も併設して貰うように交渉した。


 屋敷の方も20部屋に大きな食堂、使用人用の別館が付いた屋敷を買えた。風呂も魔道具付きで有るので問題ない。

 魔法で工事をする店に頼むので、2~3日で終わるらしい。住むのはすぐに可能だそうだ。店もすぐに使えるらしい。魔道具の設置は明日には終わるそうだ。

 俺は契約内容を良く読んで、納得したので不動産屋に金を払い契約を交わした。


 書類を受け取って店を出ると夕陽が街を染めて、晩御飯の準備をする主婦が食材や水を抱えて歩いている。

 主婦に近付かない為に屋根の上を歩いて奴隷商館に向かう途中、ユリア達が見えたので声を掛けた。


「よう! 挨拶は終わったのか?」


 屋根の上から呼び掛けるとアルテミス以外はすぐに気付いたものの、アルテミスはキョロキョロしている。ユリアに教えられて上を向いた。


「終わったわよ。変な領主だったけど」


 今日のリーゼは鎧姿ではなく、上品な貴族令嬢のような格好だ。せっかくの服が台無しになりそうな疲れた顔だ。


「ご主人様のお仕事は終わりましたか?」


 夕陽の赤色に負けない青い髪を、風に乱されないように押さえて聞いてくる。


「いいや。まだ終わらない。今は従業員を迎えに行くとこだ」

「アタシが付いていこっか? お兄ちゃんが寂しくないように」


 ピョンピョン跳び跳ねて主張しているカリンは、ミニスカートなのに見えそうで見えない。なんてテクニックだ!

 パンツが見たいので連れて行くことにした。


「トール君。領主様は何故か終始怯えていたが心当たりはないかい?」

「ああ、あの領主様は謝りまくってたな。涙と鼻水を垂らしながらメイドにも怒られてたしよ」


 やっぱりやり過ぎたか? 仕事になるのか不安になるな。


「さあな? 死ぬほど怖い悪夢でも見たんじゃないか?」


 俺の誤魔化しにケビンは不思議そうな顔をしているが、ビリーは何かしら気付いたらしく、苦笑している。


「お夕飯までには帰ってくるのよ?」


 マリンは最近、皆の母親のような振る舞いが増えたな。どうしても戸惑ってしまう。


「ごしゅじん! 早く帰る! ……アルはお腹ぺこぺこ」

「分かった分かった。なるべく早く帰るよ」


 どうやら待っててくれるらしいので急ごう。飛び降りてカリンを抱き、屋根の上に飛び上がる。

 急ごう急ごうとは思っているけれど、パンツを見なければ前に進めない。

 下から見えないようにスカートを捲ると、嬉しそうに「今日もお兄ちゃんは元気だね!」と言われた。

 なんか落ち込んだ。羞じらいが欲しい。



 カリンを連れて奴隷商館に入ると、オーナーが飛んで来た。


「お待ちしておりました。商品の用意はできております……これは愛らしいお連れ様ですね?」


 腕を掴んでぎゅっと胸元に抱き抱えるカリンに気付いて、オーナーが訊ねてくる。

 カリンの紹介を済ませて大部屋に案内されたら、直立不動の奴隷達が一礼で迎えた。

 100人を超える奴隷達が入る部屋はさすがのデカさだ。悪徳貴族の領地なので奴隷商が儲かるんだろう。


「商品をお確かめ下さい」

「いや、必要ない」


 別に人数さえ揃えば構わない。


「そうで御座いますか。では、こちらが料金の明細書で御座います」


 150人、1人1人の奴隷の細かい値段が書かれている。


「またお兄ちゃんが無駄遣いしてる~」


 明細書を覗き込み、カリンの頬がプクーっと膨れる。


「おじさん。オマケして♪」


 首を傾げてニコ~っと笑う。カリンの魅了スキルが発動したのか、オーナーの顔が赤くなり、ぼーっとした顔でコクコク頷いた。

 結果として大金貨3枚も値切った。強力なスキルだな。商売人としては恐ろしい。



 ゾロゾロと奴隷を連れて、買い取った店舗に向かう。商売経験のある5人に店長を任せるつもりだ。

 地球の料理を提供するレストラン、アイスクリーム専門店、クレープ屋、ケーキ屋、お菓子屋をさせる。

 こちらにもケーキはあるけど、バタークリームを使っているので現代のケーキと違い、かなりシツコイ味だ。

 お菓子も日本の戦後みたいな物しかないので、定番のスナック菓子や菓子パンなどを売る。

 作り方はレシピを渡して、極秘事項にする。奴隷以外には見せないように命令した。


 それぞれの店に均等に定員や護衛を割り振り、材料費や服代、護衛の装備費などの開店資金を渡して明日から準備をさせる。

 給金を払うと言った時には、やはり驚かれた。こき使われるものと思っていた奴隷達の顔に笑顔が浮かぶ。

 税金や給金などは店の売り上げから払うようにして、俺が顔を出さなくてもいいように、細かく命令しておく。

 宿舎が出来上がるまでは店に泊まるように指示を出して、毎月の売り上げは屋敷で管理させるので、屋敷に護衛を多く配置する。

 屋敷の使用人達の給金や維持費は、そこから毎月決まった日に受け取るように言っておいた。


 次は宿に居る村人達の所に行って、給金や待遇、仕事内容を説明してから店に連れて行き、奴隷達に紹介した。

 給金などは店長から支払われる。村人達の仕事は力仕事がメインで調理には関わらない。

 家賃を払って暮らしている庶民の平均的な給金なので、家賃が掛からない分、貯金も出来るだろう。



「お兄ちゃん。お料理の味見はアタシがしてあげるね!」


 エヘヘと笑いながらカリンが味見役をしたがる。


「太らないようにするんだぞ?」

「ハーイ! 嫌われないようにダイエットもするから大丈夫! でも女の子に太るとか言っちゃダメだよ?」


 1人で食べ過ぎないように、ユリアやアルテミスも一緒に行かせよう。

 店の準備があるので2~3日滞在するか。領主がきちんと領地経営を改善するかも気になるし。

 滞在中はお師匠に稽古を付けて貰いに行くのも良いかもしれん。

 帰還の翼の目印は国の王都に配置することにする。どの国の王都にも瞬時に行けると、魔導列車も有るから便利だ。


 買ったばかりの屋敷に住むのは掃除が終わる明日からにして、今日はもう宿屋に帰ろう。アルテミスが腹ペコで拗ねる前に。



「ただいまー」


 高級感溢れる宿屋の受付に元気なカリンの声が響いた。


「お帰りなさい。手を洗ったら食堂に行きましょうね」


 受付の横に在るカフェでお茶を飲んでいたマリンが、まるで家に居るような態度で返す。


「トール君、カリン君、お帰り」

「やっと飯が食えるな! アルテミスが駄目だって言うから待ってたんだよ」

「ん! ダメ! ごしゅじんより先にご飯はダメ」


 足を組んで紅茶を飲むビリーとは反対に、ケビンの奴は腹が減ってグッタリしている。

 その頭をアルテミスがペシペシ叩いている。


「トール、カリン、お帰りなさい。村の人達は大丈夫だった?」

「ああ。リーゼが心配するようなことはないよ」


 リーゼは生活環境の違いに戸惑わないか心配していたが、逆に村の生活には戻れなくなるんじゃないか?

 魔道具なんて便利な物は庶民には縁がないからな。井戸まで水を汲みに行かなくて良いし、湯を沸かすのに薪も要らない生活なんて考えもしないだろう。


「明日はどうするの? 変な領主が滞在中だって手紙を女王陛下に出したから、あんまり長居できないわよ」


 リーゼの言うことも(もっと)もなので、明日は孤児院を買い取って浮浪者の子供を引き取ってから店に視察に行くかな。出発はその翌日にしよう。

 大人の浮浪者には売り上げから、パンとクリエの実を配るように屋敷の使用人に指示を出せば問題ない。

 全部は救えないが、出来るだけ多く助けることは出来る。俺の気分を悪くする存在は、根こそぎ消し去りたい。


「それじゃあ、食堂に行きましょうか。ケビン、いつまでもだらしない格好でいないの」

「飯が食えるならすぐに動くよ」


 母親にしたら、子供はいつまでも子供なのか? 俺は母親の愛情なんて感じたことはないが。


 飲み込めないモヤモヤを抱えたまま、食事に向かった。

一連の旅の流れを描写しましたが、今後は省いて物語に必要な部分を主に書いていきます。

描写しなくても旅や商売はこんな感じでしていると思って下さい。

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