国境を越えて
「ふざけんな!」
「てめえが死ね!」
「アタイの男を! よくもやったわね!」
気炎を上げて怒りを顕にする盗賊達に呆れながら忠告する。
「痛い思いをするより自害の方が良いだろ? 勝ち目はないし、俺は見逃す気もないんだ」
言ったら仲間があっさり殺られたのを思い出したのか、今更ながら怯え出した。
自害する気も無さそうなので攻撃を開始した。残像を残す速度で一足飛びに斬り掛かる。反応すら出来ない女盗賊の首の動脈を斬り裂いた。
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
横に居た男が女の生暖かい血を浴びて絶叫した。
パニックになった盗賊達は武器を闇雲に振り回して逃げ惑う。
振り回される剣を斬り上げで切り落とし、返す刃で首を狙う。
逃げる奴に向けて逃げ道を塞いぐように前方に飛び、着地と同時に抜き様に胴を斬り、余勢を駆って次の敵を斬り伏せた。
叫びながら突き出してきた女の槍を剣の腹で滑らせるように逸らして心臓を貫く。
俺が剣を振る度に、敵の武器や身体の一部が飛んでゆく。敵の血が地面を濡らし、俺の剣から涙を流すように滴り落ちた。強化された耳にポタポタと耳障りな音が響く。
全員を殺し終えたら闘気を消した。懐紙で剣を拭い、拭き終わった懐紙は魔法で燃やし尽くす。
「お師匠とは比べるのも烏滸がましい相手じゃ修行にもならなかったな」
当然の如く金目の物は全て奪う。死体も放置して変な病気が流行っても困るので焼いて灰にした。
「そろそろ飯の時間だな。戻ろう」
馬車の所に戻ると、ユリアが飛び付いてきた。
「大丈夫ですか? お怪我はなさそうですけど」
「ユリア。トールが盗賊相手に怪我するわけないじゃない」
「そうだよ! ユリアお姉ちゃん」
「トール君の実力では物足りない相手だろうね」
「働いた分は腹一杯食えよ!」
「それじゃあ食事にするわよ。トール君も皆も手を洗いなさいね」
席に着くとアルテミスがスープを掬って差し出した。
「あ~ん、する! アルが世話する!」
せっかくなので食べさせて貰う。
勢い良く口にスプーンを突っ込んできた。
俺に食べさせたら自分が食べる。交互に食べるので食事の時間がいつもより長い。ダイエットには良いかもしれない。
「アルちゃん、ユリアにもお世話させてください」
「や! 奴隷のシゴト」
アルテミスは奴隷の仕事に誇りでもあるのか? パティに教わっていたみたいだけど。
「それより! 美味しい? お兄ちゃん。ちゃんと感想言ってよ~」
カリンは肉じゃがの出来が気になるらしい。
「心配しなくても旨いぞ。可愛い妹が作っただけでも旨い!」
「あたしのは?」
「可愛い嫁さんの手料理も旨いんだ!」
リーゼは不安そうにしていたが、誉めるとホッとして食べ始めた。
「ある意味男の中の男だな。甘過ぎる肉じゃが? とか言う料理や具の大きさに難がある料理を全肯定とは……上達にはまったく役に立たないけどな」
「ケビンは男のクセに細かいな。女の子が一生懸命作ったんだからそれで良いだろ。可愛いもんじゃないか」
「お前が女の子に対して大雑把なだけじゃないか? お前は好きか嫌いかの2択だろ」
俺の為に尽くしてくれる女の子は天使みたいなもんだ。
「ではトール君の代わりに私が意見を言わせて貰おう。この肉じゃがと言う料理は煮込み過ぎて肉が少し硬くなっているね。ジャガイモも煮崩れして粉っぽくなっている。味に関しては初めて食べた料理なので正解が分からないが、食材を入れるタイミングを変えるだけでも美味しくなる筈だよ」
ビリーって冒険者ギルドで報告する時も思ったが、どうでも良いことで饒舌になるな。普段は物静かなくせに。
「姫様の料理は火が通り難い食材は小さく、火が通り易い食材は大きく切ってみれば食感が良くなるでしょう。それと」
「あなた…………どつくわよ」
普段はおっとりしたマリンがメイスを構えて夫を脅す。
「むう、それはマズイね。君に殴られると痛いでは済まない」
「なら食事中に長話はやめてくださいね」
マリンは肉体強化を持っているからビリーでも当たり所が悪いと致命の一撃になりそうだ。
「ご主人様? 人間さんの夫婦は殴るのですか? ユリアはどうすればいいですか?」
ユリアに殴られても痛くはないだろうが、精神的に嫌だな。
「ユリアはそのままで」
気付いたらカリンがアルテミスを買収していた。
「アルちゃん。お菓子分けてあげるから替わって?」
「………………………………………………………………ダメ!」
おおっ! 凌いだか。甘い物が大好きなアルテミスにしては頑張ったな。かなりアヤシイが。
振り切るようにまだプルプル首を振っている。そんなにお菓子が欲しいなら替われば良いのに。
食後のデザートはアルテミスにあげた。店用に試しに作った大きなこし餡の饅頭をモフモフ食べる姿は愛らしい。ホッぺをつつきたくなる。
みんなで食器を洗いながら夜営の時の見張りを決める。
「見張りも俺がやる。操車はビリーとケビンに任せるし、女の子はお肌の為にも寝て欲しい」
「1人で見張りをする気かよ?」
「トール君、何か有ったらマズイ。私とケビンも交代で見張りをするよ」
「トールが寝ちゃったら困るし、一緒に見張りする?」
「リーゼ達は俺の為にもお肌は大事にしてくれ」
話し合った結果、俺が夜通し見張りって、ビリーとケビンが交代で俺の相方をすることになった。
俺は朝から寝て、ビリーとケビンは御者をしていない時に寝る。
女の子達は炊事、洗濯、掃除を担当する決まりだ。
食器を片付けて旅を再開する。俺は夜営に備え、ユリアとアルテミスを連れてシャワーの後、2階で昼寝だ。
カリンとリーゼはマリンから料理と洗濯を習うらしい。
2階に上がると靴を脱ぐ場所があり、全面にベッドのマットレスを敷いてある。
布団と毛布もあるので快適だ。フカフカの布団の感触とユリアとアルテミスのお尻の感触で、すぐに眠くなってしまった。
人類にとって抗い難い感触である。カリンにご飯の時間だよ! と起こされるまで寝た。
俺は見張りの最中に剣の修行をする。馬車は防音も完璧なので大丈夫だが、馬を起こさない為に素振りしか出来ない。
なので剣の修行はそこそこにして、闘気の修行と魔法の修行を重点的にする。
光魔法以外の魔法を使った魔法剣を完成させたい。闘気も攻撃魔法も攻撃的なエネルギーなので、反発し合って交ざり難い。
全魔法を使えれば相手の弱点も突き易くなるので誰とでも有利に戦えるようになる。時間は幾ら有っても足りない。
レベルイーターを防がれたら現状では勝ち目がなくなる。レベルイーターは敵のレベルを調整するのに使った方が良い。
敵のレベルを奪うよりも、普通に倒した方がレベルが上がり易いからな。勝ち目のない相手のレベルだけ奪うことにして、少しでも戦力アップしたい。
まだ考え事をしながら使えないらしい。闘気と魔力が霧散してしまった。
身体に纏うだけなら消費は少ないが、気を抜くとぶつかり合って消し飛んでしまう。
考え事は止めて集中した。耳や目の身体能力も強化されるので、気配察知の修行にもなる。
その夜は近付いてくる魔物から生命力と魔力を奪って回復しながら修行した。
そんな生活を続けて3日目の昼過ぎには国境の砦に着いた。コーニング王国の兵士が出迎えてくれる。
「お待ちしておりました! 勇者様ご一行とリーゼロット姫様!」
国境を越えたし、これで何か有ったらコーニング王国のせいになるので緊張してるだろうな。
あとパパりんは手紙に何て書いたんだ? 勇者になる気はこれっぽっちも無い。
「出迎えご苦労様です。一応お忍びみたいな物ですから。あまり大袈裟になさらないで」
リーゼも姫なんだな~。礼儀を弁えた貴族の子女は部下以外の人間には言葉遣いが丁寧になる。姫様プレイとかをいつかはしたい。
「俺達も魔王軍が許せないから戦うだけで、勇者一行は止めてくれるとありがたい」
「さすが! 謙虚でございますな! 畏まりました! 勇者様のご命令とあれば」
いまいち解ってない気がするな。面倒だから放置するけど。
「ここからは我等が護衛を致します。ご安心を!」
やっぱり解ってない。
「ですから大袈裟になさらないで下さい。皆様は砦の警備というお役目があるでしょう? レアイラ女王陛下にもお伝え下さい」
リーゼが再度伝えると兵士達は敬礼して下がった。道なりに進めば良いので案内も断り、馬車の旅を再開した。
王都までは村を2つと街を1つ越えなければならないらしい。順調にいけば馬車なら2日の距離だそうだ。
村には近寄らない方が良いと忠告を受けた。この先の領地を治める貴族は酷いらしく、民の生活は苦しいそうだ。
街ならまだマシらしいけど、村には貧しい人しか居ないそうだ。タカられるから村には寄らない方が良いと言われた。
商売の人材集めも兼ねて寄ることにした。より多くを助けるには金が必要だ。
世界中の国に支店を作って人を雇おう。金は天下の回り物だ。どんどん使おう。
「村の人間さんもユリアみたいに幸せになるといいですね」
俺の膝で足をパタパタさせながら機嫌良くニコニコしている。
「お兄ちゃんはお金持ちだもんね! 大丈夫だよ」
「ん! アルを買ってくれた!」
ユリアに膝を取られたので、カリンは右隣で腕に抱き付き、アルテミスは肩車で俺の頭をクシャクシャしている。
なんか子持ちのオッサンになった気分で切ないな。左に姫君が居るのに拗ねてしまっているのでイチャイチャできない。早く村に着かないかな~。




