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封印の遺跡

 エルフの里を後にした俺達は、1時間ほど掛けて遺跡に到着した。

 エルフの結界が張ってあるので見えなくなっていたが、ユリアが妖精魔法で解除したら見える様になった。

 人を惑わすタイプの結界だったらしい。妖精魔法は基本的に、森を守ることに特化している様だ。


 目の前に現れた遺跡は3階建てで、上に行くほど小さくなっていく。1階が広いので、2階も3階もかなり広いけど。

 石造りのわりに劣化がまるで無く、雨ざらしになっていたのに苔1つ無い。


「入り口が壊されているな。パーヴェルの仕業か?」

「そうね、兵士が来た時には壊されてたってお父様から聞いたもの」


 まだ奴が居るのか?


「パーヴェルが精霊王の封印を解いて、魔王の力の一部が封じ込められた宝珠を手に入れようとしている筈、という推測は当たってしまいまったね」

「……父さん、パーヴェルに勝てるのか?」


 パーヴェルが居る事を示唆したビリーにケビンが不安をぶつける。


「伝承通りの力を持っているなら…………勝ち目はまるで無い」


 厳しい予想に皆が喉を鳴らす。


「しかし、封印を解いた直後は魔力が尽きているだろうから、戦闘能力は確実に下がっている筈だよ」

「では倒すチャンスですか!? ユリアはご主人様のために頑張ります!」


 ユリアはやる気だが、それでも倒すのはまだ厳しいだろう。


「ビリーのオッサン、封印を解くのはどのくらいの時間が必要なんだ?」

「そうだね……恐らく1ヵ月近く掛かると思うよ」


 それなら儀式が終わる直前なら、体力も下がっているかもしれないな。

 さすがにぶっ通しで儀式をしているとは思えないが。徐々に封印を弱めていく筈。


「お兄ちゃん、急がないと封印が解かれちゃうよ!」

「トール君、急ぎましょう? 少なくともパーヴェルにダメージを与えておけば、次の儀式を遅らせることができるもの」


 確かに。今回が駄目でも時間を稼げれば、次は間に合うかもしれない。

 奴とは違う遺跡を狙うという手もある。


「よし! 行こう!」


 俺達は覚悟を決めて遺跡に突入した。



 壊された入り口から遺跡に入ると、内部は破壊された罠が散乱していた。

 地面から突き出す、へし折れた槍や壁に刺さった弓矢など、パーヴェルに壊されたと思わしき痕跡が慎重さを呼び起こす。


「罠が多いな。気を付けて進もう」


 メンバーに注意を促し、ビリーを先頭に進む。


「罠感知に拠るとあちらこちらに罠が有るから、私の後を付いて来て欲しい。解除しなければ通れない所も在るみたいだよ」

「あなた、気を付けて下さいね?」


 マリンがすぐ後ろに付き、回復魔法の準備に魔力を溜めている。

 所々に有る落とし穴は、スイッチを解除している。

 パーヴェルは飛べるので、床に有る罠は作動していないみたいだ。

 罠を避けて歩いて行くと、破られた扉が有り、その部屋の左右の壁際に石像がズラッと並んでいる。


「ガーゴイル…………やっかいな相手ね! 固いし痛みも感じないから、戦って消耗は避けたいわ」


 ガーゴイルの光る目を見詰め、リーゼがうんざりして呟いた。


「確かになぁ、オレの弓も効きにくいし」


 痛みを感じず急所もない相手だと弓はツラいよな。


「作動させずに通り抜けるには、解除方法を見つけないといけないね」


 ビリーの話では解除方法が有るみたいだけど、石の破片が転がっているところを見ると、パーヴェルの奴は壊して進んだらしい。


「部屋に入ると作動するから、解除は別の部屋じゃない?」

「そうね、戻って別の道に行きましょうか」


 リーゼの言葉にマリンが提案する。


「ねえ、お兄ちゃん。寄り道して間に合うかなぁ?」

「カリンちゃん、大丈夫です! まだ封印は解けてませんから」


 ユリアが言うには猶予は有るらしいが、体力の消耗は避けられない。罠を警戒して探索すると、パーヴェルと戦う前に疲れそうだ。


「仕方ないな。怪我するよりはマシだ」

「トールの言う通りだ。強敵が居るんだから回復アイテムや魔力は節約したいぞ」


 全員一致で解除することに。


 2時間掛けて探索すると、何部屋か仕掛けらしき物が有ったが、どれが何に対応しているのか判らないので、全て作動させる事にした。


 1つ目は普通にスイッチだったので、皆を部屋の外に出して押したら、落とし穴が開き俺が落っこちた。


「……嫌な予感がしたんだ、闘気を纏っていたからダメージは少ないが…………イラッとくるな」


 紐無しバンジーで10メートルくらい落下して、自力では昇れない。


「ご主人様!! ユリアが今すぐ助けに行きます!」

「待て、ユリアちゃん! ロープで引き上げるから!」

「トール君! 大丈夫かい!?」

「お兄ちゃ~ん! 怪我はない~!?」

「トール! あたしを置いて死んだら許さないからね!」

「リーゼ様、落ち着いて? 縁起でもないこと言ってはダメよ」


 立ち上がって無事をアピールすると、上からロープが下りてきた。

 それに掴まると、ビリーとケビンがロープを引っ張り、俺を引き上げてくれた。


「大丈夫ですか、ご主人様?」

「トールのバカ! あたしに心配掛けるなんて大バカ!」

「お兄ちゃん、アタシが傷の手当てをしてあげるね」

「私が回復魔法を掛けるから、心配しないの」


 マリンはなるべく近付かない様に回復してくれた。


「俺は見ての通り大丈夫だ。…………下からだとパンツが丸見えだしな」


 実に良い景色だった。この世界のどんな風景よりも美しく、俺の心を奮わせる。


「お前、ホンットにどんな時でもエロいな」

「まあ無事ならいいじゃないか、ケビン」


 ロープを引っ張るために、落とし穴から離れていたビリーとケビンが、呆れながら寄ってきた。



 2つ目はパズルで、やっぱり嫌な予感がしたので俺がやる。

 部屋全体を使ったパズルで、分割されたレリーフをスライドして絵を完成させる。

 大きなパズルなので全体が見えず、リセットする度に電撃が発生するので痺れる。


「ご主人様、ユリアが代わります!」

「男のオレ達で交代でやるか、父さん?」

「そうだな。私がやろう」

「あたしだって見てられないわ!」

「お兄ちゃん、傷を舐めてあげるね?」

「動物じゃないんだから、……回復魔法を掛けるわ」


 皆が代わりを買って出るが、俺がやる。いざというときは、レベルイーターやライフイーターで敵から奪えるので、念のために俺がした方がいい。

 ダメージを負ったところを敵に囲まれでもしたら、仲間が死ぬかもしれない。


 苦労して絵を完成させると台座が出てきて、眩く光る玉が安置されていた。


「これ何かなぁ? 魔王を弱くするアイテムとか?」

「そんなに都合良くはないだろ?」


 カリンの疑問にケビンが呆れた様に答える。


「しかし、魔王を封印した遺跡だ。それに関係したアイテムかもしれないね」


 ビリーの言い分ももっともだ。


「とりあえず、俺が大事に持っておく」


 アイテムボックスに仕舞い、次に向かった。


 様々な仕掛けでダメージを食らいながら、ようやく解除が出来たらしい。

 ガーゴイルの目の光が無くなっている。仕掛けを解除出来たという証拠だろう。


「普通に倒した方が、俺のダメージは少なかったんじゃないのか?」


 全員が危険になるよりはいいが。


「あはっ、トール、カッコ良かったわよ!」

「アイテムも手に入ったし……ドンマイだよお兄ちゃん!」

「ご主人様、立派でした!」


 美少女達にチヤホヤされたので良し!


「念のために俺が先に行く。大丈夫だと思うが囲まれたらヤバいからな。敵から奪える俺なら囲まれても回復できる」

「エッチなわりに男らしいわ、トール君!」

「母さん、男らしいからエロいんじゃないか?」


 どうでもいいわ、アホ!


「ご主人様…………」


 俺の服をぎゅっと掴んで、心配そうに見上げるユリアを撫でて笑い掛ける。

 ホッとした顔のユリアが頬を染めて、にへ~っと笑った。


「痛てて……リーゼ、なぜつねる?」

「デレデレしてるからよ! エッチ!」


 リーゼはツンデレ姫だな。当然の如く、全属性持ちの俺には膨れた表情も可愛いく見える。


「お兄ちゃん、ガーゴイルが動いたら変身してもいい?」


 カリンが俺の背中をツンツンつついて訊いてくる。


「ああ、そうだな。カリンはまだレベルが低いから気を付けるんだぞ? お兄ちゃんを心配させるなよ」

「うん! 必殺技もあるから大丈夫だよ!」


 嬉しそうに抱き付いてくるカリンを抱き返して、額にキスをした。


「罠は無いみたいだから安心したまえ」


 ビリーの言葉に幾分、勇気付けられて部屋に入る。2つの剣を抜いて敵襲に備えた。

 強敵相手なら馴れた一刀流がいいが、数が多いので攻撃の手を増やした方がいい。

 お師匠から一応双剣も習ったので、スキルはないが大丈夫だろう。


 無事に部屋を通り抜けると、仲間も走ってやって来た。

 2階に上がる階段を上ると、8メートルくらいの大きさのゴーレムがバラバラになって倒れていた。


「……どうやらガーディアンらしいな。パーヴェルの奴がやったんだろう」

「そうだね、材質は神鉄だよ。バラバラにできるのはパーヴェルか魔王くらいだろうね…………人間技じゃない」


 冷静なビリーも、敵の力に冷や汗を掻いている。

 神鉄は現在確認されている金属で、最も固い金属だ。

 一流の鍛冶師が最上級の設備と、かなりの魔力を使ってようやく鍛えることが出来る金属だ。

 それをあっさり砕くなんて、神鉄を使った防具でも奴の全力には耐えられないな。

 神鉄ゴーレムを素材としてアイテムボックス放り込んで先に進むと、3階に上がる階段の前に、3メートルの巨体で、二足歩行のライオンみたいな魔族がいた。


「ガハハハハハハハ! ここから先には進むことは出来んぞ! パーヴェル様の邪魔はさせん! 我が名はガルファング! 三魔将筆頭、パーヴェル様の直属部隊の1番隊隊長だ!」


 レベル86もあり、HPも2000を超えている。

 魔力が無いので完全に戦士だな。


「頑丈そうだな、ビリーを中心に攻めるぞ! 俺とリーゼで掻き回すから、ユリアとカリンとケビンは援護を! マリンは回復に専念してくれ!」


 全員の同意を得て敵に突っ込み、レベルイーターでレベルを52まで下げた。


 ケビンの弓矢を大剣で弾き、俺とリーゼの剣を俊敏に躱す。俺とリーゼが同じタイミングで距離を取ると、すかさずユリアの風の精霊魔法が飛ぶ。

 腕の一振りで風の刃を散らし、矢を弾く。


「エンジェル・フェザー!!」


 変身したカリンの光の翼から、幾つもの羽根が発射される。

 ユリアの魔法とケビンの弓を弾いた直後を狙われ、慌てて避けるガルファング。

 そこをビリーのスキル、剛撃が襲う。

 腕力強化で2倍になった腕力、剛撃で倍化した斧が奴の背中に食い込んだ。

 元々の肉体強化スキルもあり、大ダメージだ。


「グオォォォォォォ!!」


 奴はすぐに咆哮して腕を振り回す。

 ビリーが撥ね飛ばされたが、マリンが駆け寄り回復する。


「下等生物風情が!!! 許さんぞぉぉぉ!」


 目を剥き吼える敵に、俺達は威圧される。


「弱体化しても化け物だな」


 突進してきた敵に合わせて俺も突っ込んだ。

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