商売の為に走り回る
風呂から上がり、食事にする。
帰りが遅くなったら先に食べる様に言って措いたのに、結局全員で食事になった。
メニューは俺の好きな白米、前菜はカボチャのポタージュスープで、甘さが子供達に好評だ。
主菜はガーリックで焼いたステーキだった。
しっかり中まで火が通り、ナイフで切ると肉汁がジワッと溢れ出す。ガーリックの香りが食欲をそそる。
ヨダレを垂らしそうな犬耳族のモニカがシッポを振りながら待っている。
副菜の野菜をいっぱい使ったポークソテーが、ウサ耳族のフィルの好みらしい。
小さな頬を膨らませて一生懸命もぐもぐしている。
音が鳴る度にウサミミがピクピク反応するのが可愛い。
食後のデザートにケーキが出た。
この世界のケーキは、バタークリームを使ったケーキなので甘さがしつこいそうだ。
長持ちさせる為にバタークリームを使うのだが、その分味が犠牲になる。
その為、奴隷になる前にケーキを食べた事が有る娘達は、余り嬉しくない様だ。
浮浪者の子供達は御菓子自体食べた事が無いので、大喜びだ。
それでも奴隷になってから、デザートなど諦めていたからか口を付ける。
「何このケーキ!?美味し~!」
「フワフワのクリームですね?バタークリームではないのでしょうか?」
「こんなに美味しい物だったんだ!」
「人間さんのお菓子は凄いです!森では食べられません!」
「お野菜が食べられるだけでも幸せだけど、これも幸せですぅ~」
「リネットはこれを屋台で売りたいよ~」
「あ、これは手間が掛かるから無理よ?」
「お姉ちゃん美味しいね?」
「本当ね、ドワーフ族はお菓子は作らないから」
「ドワーフじゃなくても食べられないよ」
「お菓子は貴族様とかお金持ちの食べる物だよ」
女の子はケーキ好きだな。食事中はそこそこ静かなのに。食べるのに夢中で静かなだけか?
お腹がいっぱいになったから余裕が出来て話が弾むのかもしれない。
ユリアも一緒に燥いでいる。
食べ終わり、食器の片付けが終わると使用人達は風呂に入る。
俺はソファーでユリアの肩を抱きながら、リビングでイチャつく。
一言話す度にキスを交わし愛を囁く。
ユリアの目蓋が落ちてきたので、お姫様抱っこでユリアの部屋に連れて行く。
ユリアを寝かし付けて自室のベッドで待っていたら、4人の奴隷達がやって来た。
警備担当は忙しいので、今夜は売り子のリネットと料理担当のメイとラナ。
最後にメイド長補佐のフィーネだ。
リネットはツインテールをわっかにした髪型で、胸は小さい。
キスをすると目をぎゅっと閉じて唇を突き出す必死な姿が良い。
「リネットは頑張ります!パティさんに習って来ました!」
健気な女の子は良い娘だ。
「今夜は旦那様に私達がお料理されちゃうんですね?」
メイは羞じらい、緊張しながらも気丈に冗談を言った。
ミディアムヘアの外ハネを弄っている。
後ろから抱き寄せて、丁度良いサイズの胸を掴むと真っ赤になって目を閉じた。
ラナは左右の髪をお団子頭にした料理好きな娘だ。チャイナ服なんかを着せたい。
小さな胸だが足が綺麗で触り心地が良い。
「……旦那様、お料理はどうでした?」
「不味いなんて言う娘が居たか?」
料理にプライドを持っているらしく、自分のスタイルより料理を気に入って貰えるかが重要らしい。
女の子としての魅力には気付いていない娘なので、料理でしか役立てないと思っているのだ。
誘った時も胸が小さいけど良いですか?と心配していた。
フィーネの番になるとミディアムショートの髪を掻き上げ、色っぽくしようと必死だ。
しかしポーズが様になって無いし、頬も可哀想なくらいに紅い。
「……フィーネ、無理するな」
「!……無理なんてしてません!」
何でバレたの?みたいな顔で焦っているフィーネの唇を塞いで、落ち着くまで抱き締めた。
薄暗い部屋の中の天蓋付きベッドから、押し殺した様な声が夜中まで途切れる事は無かった。
翌日は昼頃まで寝ていたが、使用人達は全員起きて働いていた。浮浪者の女の子達も元気になったので、張り切って仕事を手伝っていた。
ユリアも売り子をしていたので、エルフが珍しいのか皆が見ている。
ちょこちょこ走り回っているユリアは可愛いいな。
浮浪者の女の子達も動き回れる様になったので、洋服を買いに行かせよう。
正式に見習いメイドにする。
ユリアと護衛2人にメイド長と子供達で、普段着と外出着、仕事用のメイド服を買いに行く様に頼んだ。
ユリアに小金貨を4枚持たせて送り出す。
俺の方は商売に必要な材料を、定期的に屋敷に届けてくれる様に契約をしに行く。
王都から馬車で飛ばしたら、3時間程の距離に有る漁港に向かいたこ焼き用のタコを仕入れる契約をする積もりだ。
見た目の所為で嫌われているが、知らせずに食べさせれば大丈夫だろう。
皮を剥いで吸盤を取り、足をぶつ切りにすればタコだと判らない筈だ。
雑菌も塩で良く洗えば大丈夫。
見える範囲を空間転移で跳び、漁港を目指す。
漁船だけじゃなく、旅客船も来るので意外にデカイ。
1時間掛けて漁港に着いたら早速交渉する。
漁師は漁に出ているが、この漁港には小さな村が在るので、顔役に話を通した。
タコが増えすぎて、貝などを食べまくるので困っていたらしく、処分してくれるならと、輸送費だけで契約をすることが出来た。
タコはサメとかまで殺したりするからな、人間が食べないんじゃ増えすぎても可笑しくない。
何にせよ安く買えたので利益が期待出来る。
たこ焼き粉は無いから作るしか無いが、小麦粉で作れる。
材料費を考えると、たこ焼き10個で小銅貨1枚くらいだから、中銅貨1枚で小銅貨4枚の儲けだ。
アイスクリームと同じ儲けになる。売れたらだけど。
あとは、……この世界には菓子パンが無いから、作れば儲かるだろう。
パンが主食の世界だし、味が付いたパンなら絶対売れるだろう。
メロンパンとクリームパンにハンバーガー、第1段はこの3つにしよう。
パンは組合が在るから面倒だが、ゴブリンキングを倒す様な奴に、ふざけた事は言わないだろう。
値段を高めに設定すれば、安いパンと被らなくて、金に余裕の有る人しか毎日は買えないから、組合から文句も出ない筈だ。
やはり人手が要るな。奴隷ならレシピをバラさない様に命令して措けば大丈夫だし、配達とかのサービスをすれば、浮浪者にも仕事を与えられる。
配達なら子供でも出来るから良いかもしれないな。
幸い資金力は有るから最初は利益が低くても何とかなる。
利益は従業員の給料分だけ稼げれば良しとしよう。
「あぁぁぁぁぁ!!そこの黒髪のお兄さん!!」
考え事に没頭している俺の耳に、可愛いらしい叫び声が聴こえた。
声が聴こえた方を見ると、可愛い女の子が俺を見て驚いた顔を見せている。
「やぁ!初めまして。美少女に声を掛けて貰えるとは光栄だな。この後食事でもどうだろう?」
その美少女は身長150ちょっとで、少女と大人の中間みたいなスタイルだ。
短めのピンク色の髪で、本人から見て左側をサイドテールに纏めて、腰に細身の剣を差し、可愛らしい踊り子の格好をしていた。
踊り子と言っても露出は少ない。
レベル10 カリン
HP105/105 MP134/134
身体系スキル
剣術(1) 舞踊(3)
踊り子にしてはレベルが高いな。
「お兄さん!!もしかして転生者!?」
転生だって?この娘は転生者か?
「何の事かな?それより君の事を知りたい。食事の後は俺の家に来ないか?」
誤魔化しつつ情報収集する。
「何のって、その黒髪だよ~。それに思いっきり日本人顔だもん、判るよ」
まあ黒髪は珍しいからな。地球を知らなければ珍しいで済むが、知ってるなら日本人だと判るよな。
俺の場合は転生じゃなく転移だから顔が変わってないし。
「君は転生か?」
誤魔化すのは諦めて訊ねる。
「そだよ。名前はカリン、日本に居た時の華鈴って名前を使ってるの。顔立ちは変わってないけど髪と目の色は変わってるよ?おっぱいとお尻は色っぽく成長する様にして貰ったけどね」
後ろ手を組みながら、片足の爪先でトントン地面を突く。
「あたしはこの世界に転生したんだけど、義理のパパとママが2年前に死んじゃって……、それで踊り子をしてお金を稼いでるの」
訊いたところ、11才の時にこの世界の両親が流行り病で亡くなり、それから踊り子をしてる様だ。
「で、君は幾つの時に死んだんだ?」
気になって訊いてみる。
「7才の時に誘拐されて死んじゃったんだ。それで神様に逢って赤ちゃんからやり直せるって言われたけど、そのままの年齢で身体を作り変えて貰ったの。お陰で地球の子供より強かったよ」
身体を作り変えているなら転生だな。
実年齢も13才の様だ。
「でも何故踊り子をしてるんだ?もっと楽な仕事が有るだろう?」
ウエイトレスとかなら余り危険は無い。
「アイドルになりたかったから。1番近いお仕事かなって」
エクストラスキル持ちだろうし、まあ無事なら別に良いけど。
「それで、お兄さんは?」
相手の事も解り、警戒する必要も無いので自分の事を話す。
「そっか、お兄さんは来たばかりなんだ……、大変じゃない?」
探る様な目で覗き込む。
仲間になりたいんだな?
同郷の日本人でこの世界に来たばかり、自分を売り込むチャンスだしな。
何より寂しいんだと思う。
「大変だからカリンに家に来て欲しいな。賑やかな方が良い」
カノンの頭を撫でて笑い掛けると、満面の笑顔になった。
「えへん!あたしがトールお兄ちゃんを助けてあげるね?」
抱き付いて見上げるカリンをぎゅっとしてから、家に帰る。
「ところでカリンのエクストラスキルってなんだ?」
レベル10だから、戦う事は出来るんだろうけどスキルがショボい。
エクストラスキルでレベル上げをした筈だ。
「エクストラスキルは2つ有るよ。1つは制限時間が有るから安全な場所まで使いたくないけど」
家に帰る道すがら、スキルの説明を訊く。
1つ目のスキルは見てのお楽しみと教えてくれなかったが、2つ目のスキルは魅了だそうだ。
魅了スキルは、僅かな時間、掛けた相手の思考を鈍らせるスキルで、同じ相手には5分間効かなくなるらしい。
「魅了のお陰でお店で値切るのも簡単だし、絡まれても自分が何してたのか混乱してるから逃げるのが簡単だよ」
戦闘に使えるのか訊いたら、一瞬混乱させて逃げるのには使えるけど、戦いの最中は目の前に武器を持った敵が居るので、さすがに自分が何をしているのか判らないなんて状態にはならないそうだ。
いずれにせよ、使えるスキルなのは間違い無い。
レベルイーター以外の俺のエクストラスキルも話して情報交換をする。
荷物を持ってあげたら、カリンが腕に抱き付いたので、そのまま2人で屋敷まで歩いた。




