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よかった、噓告されたオレはいなかったんだね  作者: 小宮地千々


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お疲れさま那珂川くん

「ねえリク、バスケしない?」

 五月の終わり。

 若葉のころは過ぎてじわじわと気温と湿度が上がり、迫る夏の気配に日々おびえる中で、横中(よこなか)ミカお手製の弁当(でっかい二段の重箱)を三人でつついてるときに、天辺(あまべ)キノエがそんなことを言い出した。

 昼休みの中学生かな? 今ちょうど昼休みだったわ。

「いいけど、1on1(ワンオンワン)?」

 二人相手だと普通にブロックされまくる未来しか見えない。

「ううん、3x3(スリーエックススリー)!」

「誰と誰と誰!」

 多分、片方のチームは彼女さんたちとオレとして、どこから三人生えてきたんだろう。

 あと3on3(スリーオンスリー)じゃないんだ?

「キノ、説明を省きすぎ」

 横中(よこなか)ミカが呆れたように突っ込む。

 なお夏が近づく=薄着になるであり、つまりはお重に箸を伸ばす二人のすらりとした腕がまぶしい。

「えっとね、ミカとちょっとゆるめの運動系サークル探してて、3x3のバスケにしたんだけど」

「バレーじゃないんだ?」

「どうしても本気になっちゃうから」

「それにバレーはリクがいない間にもういいやってなるくらいしたし」

「そっか」

 以前のミカの話だと、キノエの事情はもうちょっと込み入ってそうだったけども、当人がそう言うならあんまり詮索もすべきじゃないだろう。

「で、そのサークルがどうかしたん」

 そしてなんでオレとバスケをやろうって話になるのか。

「サークルでリクを自慢したい!」

「紹介がわり?」

「ええ……」

 これは予想外の展開。

 確かに彼女さんたち以外にも関係を広げたいと思っているけども、いきなりバスケやろうぜ! からはじまるとは。

 スポーツ漫画かな?

「あとなんかあたしとミカが付き合ってるって思われてるっぽくて」

「あら~」

 まぁなんか普通に距離近いもんな、二人。

 ルームシェアもしてるし、そりゃ煙もモクモクかもしれない。

「あら~じゃない。私の恋人はリクだから」

「ごめんて」

 そしてミカさんはややオコだった。

 昔から女子にモテてたからな、その手のいじりには飽きてるのかも知れない。

「だからリクの実在を証明してもらおうと思って!」

「オレは非実在青少年だった……?」

 長身美女二人に二股かけるやべー奴とか思われてる一方で、また逆の一方では未確認彼氏扱いか……。

 ちょっとしたアイデンティティ・クライシスだぞこれは。

「ちゃんと彼氏面してね」

「割と要求の難易度が高い……そんで、いつ顔出せばいいの?」

 最近ミカと運動してるのもあるし、もともと体を動かすのは嫌いでもない。

 向こうでもバスケする機会くらいはあったしな。

「今日!」

「唐突……!」

 この前ちょっとしおらしい態度だったのにキノエさん?

 オレが良ししたから遠慮しなくていいやってなったのかな。まぁそっちのがらしいからいいっちゃいいけども。

「ちょうど活動日だから」

「ほなしゃあないか……別に試合に勝てなきゃどうこうってないよね?」

「どうこうって具体的には?」

「二人と別れさせられる……?」

 キノエに質問に質問で返されたので更に疑問形を重ねていく。

「そんな試合絶対受けない」

「なんの権利があってそんな要求するの?」

 すごいマジレスするじゃん。

「なんでと言われるとなんでだろう……ま、了解。そんなら気軽にバスケしに行けばいいんだ」

「格好いいところ見せてね!」

「彼氏面して」

「がんばる……」

 そこまで気軽じゃなくなってしまったけど、まぁどのみち頑張る以上のことはできないからいいか。

「――あ、そだ。横中、お弁当美味かったです。サンキュ」

「ん、お粗末さまでした」

「リク、リク、あたしには?」

 ミカが満足そうに頷き、天辺が自分にはと催促する。

「天辺なんか手伝ったの?」

「お弁当箱包んだ!」

「上手に包めてえらい」

「へへー」

「キノはそれでいいの?」

 まぁ楽しそうだからいいんじゃないかな……。


 §


 そうして講義終了後、二人に連れられて向かったのは屋外のバスケコートで、大学の敷地の端も端に位置していた。

「こんなんあったんだ」

「うん」

「用がないとこっち来ないもんねー」

 コートはどうやら二団体で利用しているらしく、それぞれハーフコートを占拠して片方はすでに試合中、もう片方はコート脇でウォームアップ中だ。

「おつかれさまでーす」

「おつかれさまです」

 天辺たちの所属はウォームアップ中の面々らしい。

 ゆるめのサークルを探していたと言っていた通り、男女合わせて八人のグループは和やかな雰囲気である。

「お、天辺さんたち。お疲れ様でーす」

「おつかれさまでーす、わ、彼氏さん本当にいたんだ」

「お邪魔しまーす」

 やはり実在を疑われていた……? と思いつつ頭を下げる。

 と思ったけど普通に二人と付き合っているヤツはそれはそれでおかしかったわ。

 なんかもう当たり前になりすぎててちょっと感覚マヒしてたけど。

「あー、那珂川(なかがわ)リクです。今日はよろしくお願いしまっす」

「よろしくー」

 挨拶は大事。古事記にも書いてあるってなんかの本にも書いてある。

 少なくとも歓迎の姿勢を見せてもらえたので気が楽になった。

 あとは下手なプレーして恥をかかないことを目標に頑張ろう。

「ね、ね、カナダに留学してたんだって?」

「二人のために帰ってきたんでしょ?」

「本当に二人と付き合ってるの? 本当の本当? 大変じゃない?」

 と思っていたらまさかのっというかまぁ妥当な質問攻めを受ける。

 ちな全員が女子だった。

「留学って言うか親の都合で引っ越したって言うか、で、元々大学はこっちで通う気だったんで戻ってきただけで。あと二人とも彼女です、オレの」

 一気に答えると最後の回答でおーと声が上がった。

「彼女でーす」

「彼女です」

 そうして喜び抱き着いてくる彼女さんたち。

「エグいエグい」

 陽キャのノリなら許されるんだろうか、反応を見るにサークルの面々は苦笑三割、面白がってるの三割、やや引き二割、ドン引き二割といったところ。

 あんまり許されてない、なくない?

「じゃあ一部男子の無念を晴らすための歓迎試合、ウォームアップしたらさっそくはじめよっかー」

「うーい」

「はーい」

 ええ……やっぱりちょっと私怨があるんじゃないか。

 そう思ってキノエを見ると、ちらっと舌を出した。

 さては趣旨を理解してたな?

 可愛い。

 でも横で首を横に振ってるミカともども後で説明責任を果たしてもらおう。

 ひとまずオレもウォームアップを始める。

「那珂川くん、ルールは聞いてる?」

 するといかにも上級生っぽい、ヘアバンドをしたミディアムボブの女子が近寄ってきた。

「あ、三年の神谷です。今日の審判、よろしくー」

「ウッス、お願いしまっす。えーと二十一ポイント先取、試合時間は十分、通常のシュートは一点、3ポイントラインの外からは二点、であってます?」

「そうそう、あとコートの外に出たとき以外の攻守交替はセンターラインに戻るんじゃなくて、2ポイントラインの外に出して再開ね」

「ハイ」

 ちょっとイメージがつかないがやってればわかるやろ!

「あ、あとショットクロックが十二秒。そんなに厳密にはとらないけど気を付けてね」

「十二秒以内にシュートっすね」

「そうそう、やってた?」

「いや、体育くらいス」

 てか隣のコートも同じルールだとしたら相当運動量激しいなコレ……。

「ごめんねー、悪ノリに付き合ってもらっちゃって」

 ちょっとげんなりしたのがばれたか神谷さんが片手をあげて詫びる。

「悪ノリだったんスか、ちなどなたの……?」

「うん。信じたくない男子と、見てみたい女子の」

「満場一致を見ている……!」

 そして物言いがやっぱりUMAとかに対するそれなんよ。

「まぁ今日限りでもいいし、気に入ったら遊びに来てくれてもいいから」

「あれ、勧誘もされてます?」

「やー、だって気になるじゃん? あの二人の共有彼氏って」

 神谷さんの視線を追うと、組んでガチウォームアップしながらこちらをガン見している二人がいた。

 もうちょっと近くで聞いてくれればいいじゃん。

 すべからく明らかにするよ、オレ。

「はーい。じゃあ選手はコートに入ってー」


 コイントスの結果、先攻はこちらとなった。

 相手チームも男子一名、女子二名の構成で、コート内の身長はミカ、キノエ、相チームの男子、ポニテの女子、オレ、そしてショートカットの女子という順番だ。

 ブービーの悲しみを覚えつつ、センターラインを背負ってゲームの開始を待つ。

 そう、これはゲームだ。

 バスケで彼女にいいとこ見せよう&新しい知人をゲットしようってミッション。

 そう考えればやる気も出てくる。

 そろそろLINEの連絡先増やしたかったからな……!(切実)

 ピッと小気味よいホイッスルのあと、神谷さんからショートの女子、そしてオレへとボールが回る。

 試合開始だ。

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