護衛役、末っ子王子に忠誠を誓う
「俺が真実を教えてやろう」
そう前置きしてから、俺はゆっくりと口角を上げた。
「『十人』という発想自体が甘い」
残った面接参加者の何人かが、怪訝そうに眉をひそめる。
盾の少女も、不思議そうな顔でこちらを見ていた。
盾の少女はまだしも、残りの九人は阿呆すぎるな。
奴らに戸惑っている暇などないというのに。
そう考えながら、指先を鳴らす。
――ビリッ。
一瞬、不吉な音が響いた。
直後――。
ドサッ。
盾の少女を除く参加者たちが、その場へ崩れ落ちた。
武器が落ちる音。
体が地面に打ちつけられる衝撃。
九人分のそれが、ほぼ同時に響く。
「……え?」
盾の少女が、呆然と呟いた。
何が起きたのか理解できず、何度も瞬きを繰り返す。
聞こえたのは、あの短い音だけ。
衝撃も、閃光も、派手な魔法陣すらなかった。
「皆……気絶、した……?」
「雷を軽く流したからな。意識が飛ぶ程度にな」
「……!? 指を鳴らしただけで……そんな、繊細な制御を……!? す、すごすぎます……」
少女が、信じられないものを見る目でこちらを見つめてくる。
「でも、なぜ、残りの九人を気絶させたのですか……? ……ま、まさか」
「そう。おまえ以外、全員暗殺者だったわけだ」
目を見開いたまま、いよいよ固まってしまった少女の横で、ガルグイユが素っ頓狂な声を上げる。
「えええーっ!? ぜ、全員ですかーっ!?」
「どんな暗殺者を送り込んできても、俺には通じない。その結果、敵側も自棄を起こしたのだろう。数で押す。雑だが、頭の悪い連中らしい発想だ」
とはいえ、十人がかりの暗殺というのは、よっぽどのことだ。
これ以上増えれば、それはもう暗殺ではなく、戦争の前触れと言っていい。
さすがに、こちらも何らかの対策をとったほうが良さそうだ。
「そこの兵士たち、この暗殺者どもを縛っておけ。尋問に使える」
小さな指先で、気絶している暗殺者たちを指さしながら振り返る。
傍らに控えている兵士たちは、どうしたものか困っているところだった。
俺がいる場所での暗殺者問題は、下手に手を出すなと釘を刺してあるからだ。
命令を受けた兵士たちは、ホッとした様子で急いで駆け寄ってきた。
やっと仕事を与えられたという態度だ。
彼らは暗殺者たちを抱え上げると、次々運んでいった。
その様子を見送りながら、ガルグイユが小声で問いかけてくる。
「……で、ですが……どうして、盾の少女以外、全員暗殺者だとおわかりに……?」
「殺気だ」
俺は短く答えた。
この場に近づいたときから、複数人の殺気を強く感じた。
こんな数を一度に浴びるのは、今生では初めてだったから、俺は即座に違和感を覚えた。
奴らは隠しているつもりだっただろうが、十九人分の殺気を誤魔化せるわけがない。
「さすがにはじめから、十九人とも暗殺者だとは思っていなかったが。だからカマをかけてみた」
「『この中に暗殺者がいる』というあの宣言のことですね……?」
盾の少女が尋ねる。
俺は頷き返してやった。
「すると奴らはあっさりボロを出した。無意識だろうが、互いに何度も目配せをし合っていた。全員グルだと、すぐにわかった」
「な、なるほど。さすが、ルシウス様ですっ……!!」
大喜びで俺を褒めたたえるガルグイユとは違い、盾の少女は青ざめている。
彼女はそのまま片膝をつくと、深く頭を下げた。
「……申し訳、ありません……。護衛に立候補しておきながら、暗殺者を九人も見逃すなんて……」
微かに震える声からは、本気の謝罪と、自分自身に感じている情けなさが伝わってくる。
「詰めが甘かったのが敗因だな。ありえないという思い込みが足を引っ張ったのだろう。たしかに、十九人もの暗殺者が手を組むなど、普通ならありえない。でもこの王宮では起こる」
今後、対策は取るつもりだが、今のところ、ここは暗殺者の温床だ。
「ル、ルシウス様……」
ガルグイユが、いつになく言いよどんだ声を出した。
視線は俺ではなく、盾の少女に向けられている。
「……この少女は……落選、なのでしょうか……?」
ついさっきまで、実力に疑いの目を向けていた相手だ。
だが、今のガルグイユの声音には、警戒も疑いもない。
あるのは、純粋な心配だけだった。
一人で十人を相手取り、無傷で制した実力。
暗殺者を前にしても動じなかった冷静さ。
そして、自分の失策を、言い訳せずに受け止める生真面目さ。
それらを見てしまえば、放っておけなくなるのも無理はない。
盾の少女は、何も言わず、ただ静かに立っている。
やがて、覚悟を決めたように、ぎゅっと目を閉じた。
逃げも、弁明も、命乞いもしない。
ただ、下される結論を待つだけ。
まるで判決を待つ罪人のような態度だった。
少女を落選させるか。
……本来なら、そのつもりだった。
だが、ここで落とせば、また面接に参加させられる。
それに、今回の件を知ったとき、国王がどんな気持ちになるかが心配だった。
護衛をつけようとしたことが裏目に出たとなれば、国王は間違いなく自分を責めるだろう。
国王としてではなく、父としての自分を……。
そんなことは望んでいないので、何かしら手を打ちたい。
となったとき、暗殺者たちの襲撃は受けたものの、護衛役は選べたとなれば、国王の気持ちも少しは楽になるのではないだろうか。
そもそも、今までの志願者の中では、この少女は突出していた。
それに、回復魔法を使えない俺は、防御特化型の護衛とは相性がいい。
……試験的に採用してみるか?
十九人俺を殺しにきた。
その中に、偶然、一人だけ紛れ込んでいた俺の味方を。
「試用期間を与えてやろうか?」
情に流されたわけではない。
ただ、使える駒だと判断しただけだ。
盾の少女は俺の問いかけに対して、はっと顔を上げた。
「……! いいんですか……?」
「疑うべき場面で疑えなかった。そこは減点だ。だが、守る役としては、悪くない欠点だ。もちろん、使えないと思ったら、問答無用でクビにする」
「はい……!」
「ご期待に沿えるよう、必ず結果を残してみせます……!」
声量は控えめだが、少女の瞳はキラキラと輝いている。
よほど嬉しかったらしい。
「しかし、よく最終面接まで残れたな」
暗殺者のひとりが指摘していたが、彼女は明らかに子供といえる年齢だ。
実力があろうとも、普通なら書類審査で弾かれているはずだ。
少女は、少し言い淀んでから答えた。
「……事情があって、残していただけたのだと思います。でも……今はまだ、私の背景については、ルシウス様に知ってほしくありません」
「なぜだ?」
「それを理由に採用されるのは、嫌なんです……。私の実力が足りなければ、容赦なく落としてほしいのです。……ですから、本採用とされるまで、時間をいただけませんか……?」
彼女の生い立ちになど、興味はないので、「構わない」と答える。
生い立ちどころか、そもそも彼女自身に対しても、大した関心を持っていない。
護衛など、国王が望まなければ、連れて歩きたくなかったのだから、当然と言えば当然だ。
そういえば、無関心すぎて名前すら聞いていなかったことを思い出す。
さすがに「おい」「おまえ」で済ますわけにはいかない。
「おまえの名前は?」
「リュカ――と申します」
俺は顔を上げて、改めてリュカを観察した。
小柄だが、五歳の俺よりは当然背が高い。
巨大な盾と、それに見合わない幼い年齢が目を引くせいで、これまで外見はほとんど気にしてこなかった。
銀に近い白髪は肩口までの長さだが、耳元の束だけは長い。
特徴的な髪型だが、人形のような顔立ちの彼女にはよく似合っている。
装備は、盾役らしく、無駄を削ぎ落としたものだ。
スカートは腿の動きを妨げない短さをしている。
それをカバーするため、膝下までを覆うロングブーツを履いていた。
だが、服装や装飾よりも、顔つきのほうが目を引いた。
命じられれば、どんなことでも従う。
そんな覚悟が、強い視線や引き結ばれた薄い唇から伝わってきた。
真面目そうで、忠義もありそうだ。
悪くない人材だろう。
――ところが。
リュカが主を想う気持ちは、俺の想像を軽く超えていた。
常軌を逸した忠誠心の持ち主だとわかるのは、試用期間がはじまってすぐのことだ……。
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