事前調査は、念入りにした方がいい
旦那様。
先日仰せつかった調査について、進展がありましたのでご報告を。
ベルタン伯爵家は噂通りでした。令息自身に取り立てて問題はございませんが、下の弟に放蕩癖があり、留学先で揉め事を起こしたそうでございます。
コルトー伯爵家は、前当主夫人が幅を利かせているようです。伯爵夫妻も彼女には頭が上がらないとか。
ええ、そうですね。この二家は候補から外しておいた方が良いかと。
後はラガルド侯爵家ですが……、なかなかガードが固く、内偵に難航しております。下働きや出入りの商人に金を積みましたが、口を割りません。
家内統制にも抜かりないとは、さすがは宰相閣下でございますな。
ええ、引き続き内偵を進めます。
はい、全く仰る通りで。
嫁ぎ先はお相手の人柄や家柄だけでなく、家庭環境も重要。今回の件でよく理解致しました。
ブランシュお嬢様には今度こそ相応しいお相手を見つけて頂きたいと、私を含め使用人一同、願っております。
なにせ、お嬢様がお生まれになった頃からお仕えしている者がほとんどですからな。
僭越ながら、お嬢様がたを自分の子か孫のように思っている者も多いのです。
カロリーヌ様は賢く才気煥発、ブランシュ様は素直でお優しいご気性。お二人はクラヴェル家の至宝でございます。
お嬢様がたならば公爵家、いや王子殿下にすら嫁ぐことが出来ると、私は常々思っておりました。
え?それは言い過ぎ?
左様ですか。大変失礼致しました。
ですが、ヴィトリーの若造がブランシュ様に相応しくないという点だけは、断言しておきます。
ああ、いえ。旦那様のご判断を責めているわけでは……申し訳ございません。
ヴィトリー伯爵は問題のある方とは思えませんでしたし、あの事業提携の話は我が家にとっても十分に利のあることでした。旦那様が縁談へ乗り気になられたのも、無理からぬことかと。
あの若造も、ぱっと見は優しげに見えたのですが……。
ええ、あの母親が全ての元凶でしょう。あのような女の元では、愚者に育ってしまうのも仕方ありますまい。
ヴィトリー伯爵家へ同行していた侍女から話を聞く度に、心を痛めておりました。ですがお嬢様は自分が至らないからだと、いつも仰って……。責任感の強い方でございますゆえ、クラヴェル家のためにと耐えておられていたのでしょう。
ブランシュお嬢様が婚約を解消したいと申し出られたときは、本当に安堵致しました。その知らせを聞いた使用人室では、万歳の大合唱だったそうでございますよ。
ああ、そういえば、また彼奴奴から手紙と花束が届いておりました。
はい、既に処分してございます。お嬢様がたの目に触れる前に。
先日は門の近くでうろついている姿を見かけたと、警備の者が言っておりました。町の衛兵に「当家の近くに不審者がいる」と連絡しましたところ、連れて行かれたようでございます。
全く……諦めの悪い者どもでございますな。
ええ、はい。警護の人数を増やす件、承知致しました。
我々使用人一同、我が身に代えてもブランシュお嬢様をお守り致します。お嬢様が御身に相応しいお相手へ嫁がれる、その日まで。