糸と服と靴
「スピッスピッスピッ」
スピカの号令のもと一人と一羽と一匹と一匹の上の一体が体を横に曲げる運動をしている。
「一人と一羽と一匹と一匹の上の一体って、もう早口言葉って言って良いね、これからは人で統一しよう、うん」
『上の一体とまとめて一人でいい』
アラクネさんから嬉しい申し出。
「おっけ、名前も決めないとね、もしかして名前ある?」
『ない』
「よし、じゃぁ考えよう…って簡単に思いつくものでもないのでじっくり考えようっかな…」
「スピッピッピッ」
「自分の場合はお気軽につけたよね?とおっしゃる?まぁスピカさんは…まぁあれじゃないっすかぁ…ねぇ」
「スピッピッスピッピッピッ」
「って理由を開示せずに逃してくれないと…えとね、ワタシの遠い故郷から見える星の名前だよ」
「スピーッスピッスピーーッ」
「お、ごきげんじゃん、かわいいねスピカは、よしよし」
スピカの頭を撫でる、もう片方の手をアラクネに差し出すと上の人がハグをしてくる。
2つのさわり心地を楽しみつつ名前を考える。
「よし、決めたアラネアにしよう、スピカと同じく星にまつわる名前だよ」
『主ぃありがと、アラネア嬉しい』
「気に入ってくれたら嬉しいよ~さて、本日も頑張っていきますか、と、その前に今日はご飯があるのであった」
【アラクネのアラネアが眷属となりました、データリンクが使用できます】
「うゎっ、久々に世界の声的なものが!んでデータリンクってなに?なにができるのかわからないしやり方もわからない…アラネアわかる?」
『分かんない』
「だよね、なんかフラグがバグったゲームみたい」
『ゲーム?』
「あぁこっちの話ってことで…悩んでも仕方がないんでご飯にしよう」
一個のバナナもどきを1/5位割ってアラネアに上げると本体が細かく切り分けて上の人に渡すと人型がサクサク食べている。
「人の食べるものは上の人が食べる仕様なのね」
残りを頬張りながら観察。
スピカは流木トレーの縁に止まってバナナもどきの水飴を舐めている。
「なにげにバナナもどきと綿毛菌が優秀過ぎ、ほぼチートというかご都合主義バンザイって感じで、神様がいるのならチョー感謝、開拓するときは最初に植えとこっと」
「今日は何から手を付けようかな…バナナもどきの採取をしたら糸作りかなぁ、生ゴムソールの草鞋って乾いたかな…」
「おっ、乾いたけどまだベタつく、裏は草鞋でコーティングして、靴底には布を当てたいところ…」
『手伝う、少なければ糸足りる』
「蜘蛛の糸って丈夫らしいから凄く軽くて良いのが作れそう、スニーカーとか」
『スニカってどんなの?』
「こんな感じで…ここはこんな風になっていて…ソールはこんな感じ…ソールはゴムじゃ無理か…となるとソールとヒールは一体にして木で作って…あそうすると底が曲がらないからあるきにくいだろうな、やっぱ動物の皮があればなぁ…」
小枝を使って地面にスニーカーと革靴を描いていく。
「生ゴム結構あるしなぁ、あ、デッキシューズなら生ゴムのソールで行けるんじゃない?」
デッキシューズを描いてみる。
「ここのところを生ゴムにして、帆布のところを新しく作る布にしたらそれっぽくなりそう、靴底は木を中心に入れて踵を厚めにして…こんな風にできそう?」
『できる』
「あ、でも靴底の中心材はカーブさせたい…多分この形で削ったら折れるよね…曲げわっぱ職人みたいに曲げられるかな…どうやってたっけ…確かお湯に浸して木が柔らかくなったら曲げて形をキープするんだっけ…今のワタシの能力でできる範疇ではあると…ふむ、アラネア小隊にこんな風な形に削ってもらおっかな」
『主ぃ隊員が良い木があるって』
一匹のキクイムシが一歩前に出てきてあぎとをガチッと鳴らす。
「ほう、ではこれを許そう」
おが屑をつまんで水飴を少し垂らして目の前に置いたら、期待でプルプルしていたキクイムシが一気に野生を取り戻して貪りだした。
「じゃぁアラネアにお任せしておっけ?」
『オケ、じゃぁ、いく』
アラネアがご兄弟様に二拍手した後、キクイムシ隊員をまとめて丸めて前肢で抱えて器用に歩いて行く。
「なんか独り立ちされたみたいで寂しい感じ…いてらっしゃいませ」
敬礼をしてアラネア小隊を見送っていたらスピカが食事を終えて頭の定位置に乗る。
「スピカは今日も崖の下に行く?」
「スピッ」
「行くのね、わかった、じゃぁ送ったらバナナもどきを取りにいって、糸作りしようかな」
「スピッスピッ」
スピカと一緒に二拍手してでかける。
というわけで元気よくスピカさんが飛び去った後、テクテク歩いてバナナもどきの実を12個回収、帰る途中で酸っぱい実も詰んでいく。
河原に行くと昨日から晒しておいた木の白皮の束を石の上において、流木の枝で叩いてほぐす。
「こんな感じかなぁ」
ところどころくっ付いてはいるけど、手ですり合わせていると乾いてはらりと解けていく。
「うん良さげ…途中に枝とか出ていないお陰でよれたり切れたりしていないとか、完全にチートだね、すみません縄文さん」
とりあえず全部の束を叩いてから木に吊るして干しておく。
竈に火を入れて木を曲げる練習を始める。
適当に拾った流木の枝をウォーターボールで薄く包んで火にかける。
柔らかくなっていないか確認しようとして、熱さにやられる…。
「うあっちっち…ミトンが欲しい…」
なにか使えるものがないか見渡す。
「葉っぱじゃ難しいし…あ、筵でいっか」
バナナもどきの実をバックから出して木をつかんで見ると行けそう。
河原の岩の間に熱くなった木を押し込んで、小さめの石で曲げ具合を微調整して放置してみる。
「余っている荒縄でミトンみたいな小さな袋を作るかな」
ということで編み物を開始、なんか慣れたのかすごい速さでできる。
「これは慣れたってレベルじゃない速さ…もしかしてアラネアの能力?なのかな、聞いてみよう、
魔法は魔法でいいとして、能力はスキルみたいなものなのかな」
説明のような独り言をつぶやいているうちに荒縄ミトンが完成。
「ジャジャーン!と」
ミトンをニギニギしてみる、少し強ばるけど想定の範囲内。
少し長めの木を茹でて岩の間に挟んでテコの原理で曲げてみるとバキッと折れてしまった。
「硬い木だと折れちゃうのか、いい素材はないかな…こんなときは根っこ通信だな」
河原から上がって土下寝スタイルになる。
『すみませ~ん、しなやかで折れない木が欲しいんだけど』
『木じゃないけどいいかな』
『大丈夫です、ご応募ありがとうございます』
『そろそろツルが枯れるのでどうぞ』
「川を下ったところっぽいな、ツルって言ってたのでそれらしいのは…お、あれかな」
河原を歩いて5分、崖を這うように登りながら伸びているツルを発見、ご近所さんだった。
『さっきのツルさんですか』
『はい』
『どうやったらいいの』
『バリッとむしる感じで』
ツルには細かい毛のような棘が出ている。
「ミトン持ってきといてよかったぁ、では参ります」
バリバリバリ、ドサドサドサ。
小石やら落葉やらと一緒に結構太いツルが落ちてくる。
「取れたのは良いけど…」
太い根本がどう見ても非力なワタシじゃ切れない感じ。
アラネアなら行けるんじゃないかな、こんな感じで。
「ズバン!ってね」
手をクロスしてアラネアが木の枝を切ったとき真似をしてみる。
バシュッ!スパン!
「うぁっ、なんか出来た、アラネアのスキルがまじで使えてるっぽい」
バシュッ!スパン!
「おぉぉぉ凄い」
バシュッ!スパパン!
「うひゃ気持ちいい」
バシュッ!スパパパン!
「あっはっはっエアカッタートゥリャッ!」
バシュッ!スパパパパパパン!
「うひゃひゃはや…って、やばい、誰も突っ込まないから永遠に刈り取り続けてしまうところだった」
見境なく切ってしまったので、細いツルも混じっている…表面がツルツルしているので種が違う気がするが気が付かなかったことに…
『あっ良いですよ』と光の粒。
『…ありがと、有効に使わせてもらうよ』
チョロ水を一体にまいた後、要らない部分をスパパンとやり、ツルを引きずって何度か往復。
「このスキルはエアカッターとしとこう、あれ?ところでツルで何をするんだっけ?…ん~実験用だった…こんなに要らない…調子に乗りすぎた」
というわけで茹でながら考えることにして、太いツルを適当な長さに切ってウォーターボールで表面を覆って竈の上に固定。
「細いツルの方は病院のロビーに合った花かごみたいなのが作れそう、太いのは曲げたら椅子の脚とか作れそう…うぉ?」
頭の中でツルを使って編まれた椅子のパターンが何個も浮かんで回転している。
「もしかしてこれって編み物スキル?」
リラックスチェアみたいなものを想像したら候補が再検索されて浮かぶ。
「おぉぉショッピングサイトみたい、よしこれにしよう」
選んだパターンがハイライトされると手を動かしたくなる衝動に駆られる。
なんか次にやることがどんどん頭の中に降りてくる…えっと細いツルも煮て柔らかくしておいて、太いツルを曲げて輪っかを作り座面にして、長めの太いツルで脚部と背もたれを一体にして…
…気づいたらぶっ倒れていたらしくアラネアが心配そうに覗き込んでいた。
「あ、これが意識を手放したってやつ?異世界あるある~主人公意識を手放しガチ~…っと、アラネアもう大丈夫だよ」
体を起こすと骨組みまでできた椅子があった。
『主ぃすごい!』
「アラネアのスキルを借りたんだと思うよ、そいうえばアラネアは何か新しくできるようになっていないか聞いてみたかったんだ」
『編み物、使役、風斬、増えた』
「…ちっエアカッターより風斬のほうがかっこいいじゃんか…使役って何が使役できるの」
『○した虫の種族』
「おぅ…虫…チャバネGとかカメムシとか近づくなって命令できんのかな…」
『主ぃ何作ってたの』
「リラックスチェアみたいなやつ」
『続き手伝う』
「あぁでもこっちの作業は自分でもできそうなんで、糸を作るのを手伝ってほしいかな」
『あぃ、あとこれ出来た』
L字状に削られた靴底の中心材が完璧に仕上げられている。
「おっ流石!ありがと、茹でとこう」
靴底の中心材を茹でた後、お湯ごとボウルにつけておく。
『糸を作る』
「その前にお昼ごはんにしよっか」
アラネア小隊の隊員たちがソワソワしてるしね。
食後に河原に戻ってきて乾いた白皮の束をアラネアに渡すと、一本一本取り出して器用に紡いでいく。
「上手だねぇ」
『うん、糸吐きの前のこよる感じに似てるの』
コツを掴んだのか急速に途中から紡ぐのが早くなった。
『仲間呼んでくる』
パタッと紡ぐのを止めて森へ入っていった。
「さて、ワタシもやりますか、今度は意識を手放さないように気をつけてっと」
骨組みに細いツルを編んで座面と背もたれを作ってゆく。
「バーン完成です!」
スキルの効果なのかあっという間に完成。
座り心地を確認。
「空が綺麗…っと、アラネアに糸作り頼んでいたんだった、サボってる場合じゃない」
糸作りの現場に近づくと、小さなハナグモたちが糸を紡いでいる。
『仲間連れてきた』
繊維を解すクモ、繊維をつなぐクモ、糸を巻き取るクモ。
「家内制手工業の域を超え始めて無くない?」
『主ぃ糸で靴作る?』
「お、そうだったね、ちょっとまってね」
頭の中にデッキシューズを意識すると編み物スキルが起動。
「うん、このデザインにしよう」
シンプルなキャンパス地のやつを選ぶ。
『主ぃ分かった』
「えっ何が?」
『主ぃからこれ作ってって来た』
「もしかして使役(虫)のスキルかな、○してないけど…データリンク?か?」
『主ぃと使役の契約した』
「おぉそういえばカプッとやられましたわ」
『名前くれたの眷属で』
「世界の声が言ってたね、それで良かった?」
『嬉しいよ オケ?』
「オケ?、うん、オケだよ、うふふふ」
『じゃ靴作るね』
「じゃぁ、ソールの中心材曲げてる間に生ゴムを取ってくるかな」
ボウルの中で冷えた靴底の中心材を再び温めたあと、岩に挟んで足裏の形に固定する。
ウロに戻って乾燥させていた草鞋ソールと生ゴムを持って河原に戻る。
「草鞋を編み込んだ方が生ゴムの持ちがいい気がするんだけど、どうかな?」
『糸で補強する』
アラネアは草鞋を自分の糸で整えながら薄く圧縮してインソールにしていく。
靴底の中心材が曲がったのを確認して、アラネアに渡すと、アラネア小隊と一緒に足の形に合わせて調整。
『後は糸で作る』
靴底の中心材に空斬で穴を器用に開けるとインソールを乗せて一緒に編み込みだす。
「うわすごっはやっ、立体裁断より高度な立体成型?糸吐きと編み物スキルのコンボすごいですわ」
あっという間に靴裏以外が出来上がり。
試しに履いてみると恐ろしいほどぴったりな上にシルキーな肌触り。
草鞋インソールは糸の繊維でできた布で覆われて元が草鞋とは思えない出来。
『糸で強くしてゴムを貼る』
靴裏の中心材に細かな穴を開けて糸を絡め生ゴムを糸の立体構造の中に詰め込んで剥がれなくしたら出来上がり。
「お~すごい、なんというか場違いなくらいに近代的かつ素晴らしい履き心地」
一通りアラネアを肩に乗せて歩いて回る。
「この靴は良いねぇ…腰蓑とのギャップが凄い、浦島太郎がデッキシューズ履いてる感マシマシ」
『糸出来たから服作れる』
「おっそうじゃん編み物スキルで服を決めよう…くるぶし丈のチノパンにTシャツとパーカーが無難かな、異世界感なくない?って思うけどナーロッパじゃない可能性もあるしね」
『ナロパ?』
「…う、うん、故郷の地方の名前だよ…」
『主ぃ嘘ついてる』
「バレんのかい!データリンクこわっ」
『デタリンク違う』
アラネアがハナグモ達を使役して直接体の上に立体成型していくのでこそばゆい。
小一時間ほど直立不動で我慢していたら、完成。
「おぉぉぉぉ、ワタシは戻ってきた!みたいな全能感があるのはなぜ、服ができただけなのに!ってアラネアありがとう!よよよよ…」
『主ぃオーバー』
「いや本当に嬉しいんだよ、まじ感謝」
パーカーとパンツはボタンダウンながらも見た目は現代。
ただ、生成りとは言え、白で全身統一されているので、怪しげな宗教団体みたいに見えなくもない…なとふと思う。
白のワンピースとかなら良いのかな、でも動きにくいか、只今縄文生活中だしね。
『主ぃ自分も作ってみた』
アラネアが白いワンピースに白のベレー帽をかぶっている。
「うわっ可愛い、良い腕してますね」(関西弁風イントネーション)
バナナもどきの加工を終わらせ、おろしたての服を着て草原にスピカを迎えに行く、アラネアは肩に乗ったまま器用に寝ている、ハナグモたちはフードの中で丸まっている。
崖につくと夕日がとても綺麗で見入ってしまった、少し風が冷たいけどパーカーがいい仕事をしているので心地よい。
『主ぃ仲間飛ばせて』
「ハナグモも飛ぶの?というかどこに行くの?」
『どこにつくかわからない』
「糸出して飛ぶんだよね、なら崖のすぐ上の方がいいかな」
崖の上に手を出すとハナグモたちが糸を垂らして風が強くなる度に一匹づつ飛んでいく、飛び立つ時に右前肢をクィックィッと振って飛び降りていく。
「元気でねぇ、手伝ってだってくれてありがとう」
遠くまで飛んでいったハナグモの糸が光の加減で一瞬きらめくのをしばらく見続けた。
「遠くへ行っちゃったね」
『あぃ』
崖の近くの石に腰掛けてスピカを待つ。
日が沈みかけた頃戻ってきたスピカが一瞬戸惑ったけど、パーカーのフードを下ろしたら、いつも通り髪の毛に飛び込んできて寝落ち。
「スピーースピーー」
いつものイビキを聞きながら二人を連れて薄暗くなった丘を登ってゆく。




