《覇動》
ユーグリス帝国。アゼル大陸最大の国土を有する国だ。しかし、数十年前までは、今ほどの国力などなかった。元々、他民族国家であった名残か、国内での争いが頻繁に起きていた。ただでさえ、魔物の脅威が迫っているのにも関わらず、だ。
そんな帝国に1人の現人神が君臨することになる。
名は、ギドラス•サー•ユーグリス。《覇動》の権能を使いバラバラだった帝国をまとめ上げ、支配者となった。
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玉座の間にて。豪華絢爛とも言うべき贅を尽くした派手な空間。最恐の暴君が大きな玉座に横になっていた。
醜悪な肉の塊。とても、武勇に長けた人間には見えない。今も臣下が話している内容よりも、玉座の隣に置かれた果物を美女に給仕させていた。
「へ、陛下、その、どういたしましょうか?」
臣下が震えながら問う。男の預かっている領地は、活発化している魔物によって、荒らされていた。男はなんとかしようと色々と策を練ったが、相手が悪かった。何せ、領地を荒らし、住み着いた魔物は《トロール》人に近い姿をした魔物だ。だが、人間と違うのはその体の大きさだろ。4メートルにもなる巨体、そしてその数だ。
ーーーおよそ5000体。
その内の200が攻めて来た。
領地を前線基地として奪われたのだ。
「どうか、陛下のお力であの醜き怪物どもを蹂躙していただきたい!!」
男は涙を零す。自分がこれからどうなるのかを知っていた。信頼され、与えられた領地を守れずに皇帝の力に縋ることしかできないのだから。
皇帝は無能を嫌う。以前も無能な領主をこの場で床のシミにしたほどだ。これから自分もシミになってしまう。死ぬのだと、そう思うと怖い。吐きそうだった。
しかし、男は耐えた。未だに避難の完了していない領民。恐らく生きている者はいないだろうが、1人でも生きな残りがあるかもしれない。ならば、自らの命を犠牲にしてでも、皇帝に動いて貰わなければならない。
「断る」
即答だった。興味がないのは態度でわかっていたが、ここまでとは。それでも、男は諦めなかった。
「お願いでーーー」
「くどいぞ」
男が突然、潰れる。床には男だったものが散乱していた。周りから見れば何が起きた分からないだろ。
これこそが《覇動》の権能。力そのものを自由自在に操る。
「自分の領地すら、守れんとはな。 本当に使えんな」
皇帝のあんまりな言葉が玉座の間に静かにこだまする。他のものたちは極力見ないようにして、嵐が過ぎ去るのを待つ。自分も巻き込まれないように。
「民が何人死のうが、余に関係ない。 お前たちの代わりなんぞいくらでもいるんだからな。 余が生きている限り、帝国は永遠だ」
誰も、何も言わずにいる。
「今日は疲れた。 余は休む。 キース後は頼んだぞ」
皇帝の座る玉座ごと皇帝は宙に浮く。権能を使い移動に用いているのだ。
「御意」
キースと呼ばれた男が短く応える。
その言葉を無視して、皇帝は玉座の間から出て行く。
「それでは改めてーー」
彼らの仕事は皇帝がいない所で行う。皇帝がいては話が進まないからだ。
《覇動》の暴君。彼は力に恵まれただけの現人神だった。