《修羅》
アゼル大陸北部に存在する国。雲州ーーー大昔に絶海を超えた先の大陸に住んでいた者たちが、アゼル大陸へ流れつき住み着いた歴史を持つ国だ。
そのため、普通とは違う所が多い。特に、外見に。
耳の長いもの、体が小柄なもの、逆に体が大きいもの、額に角を持つもの、獣の特徴を持つ人種などがいる。これらは、彼らの住んでいた大陸の環境によるものだとされが、その記録はほとんどが失われている。一説には、進んだ文明により遺伝子改造をしたからとも言われている。
そんな、色々な人種が存在する雲州は閉鎖的な国自体だ。北は海、南は樹海。そう、雲州の近くには国がない。1番近い国でも直線距離で700キロメートルだ。
しかし、樹海が存在する。そこは、魔造工母の管理から抜け、野生化した魔物が多く存在する。海路は無理だ。何せ、海に存在する生物は危険極まりない。過酷な環境である絶海を生きる。魔造工母が水棲生物型の魔物を産まない理由もこれにある。産んでも勝てないからだ。これの理由から海路は使えない。
彼らが使える手段は陸路ーー鉄道だ。だが、陸上を走るのは不可能だ。魔物がいるからだ。レールを敷くことができない。だから、彼らは地下に作った。長距離地下鉄を40年かけて。
他国から、資源の量、人種の多様性などから、こう言われているーーー黄金大国、と。
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青い月が照らすは、屍山血河の地獄絵図。
雲州の南部、樹海に面する退魔師たちの最前線、大津。ここでは、日夜、魔物と退魔師たちの死闘が繰り返されている。しかし、最近になって状況は変わった。
一方的なのだ。蹂躙と言ってもいい。それほどに圧倒的だった。
理由は簡単。新しい現人神がこの戦地に配属された。
その現人神の名はーーー柊 和門。去年に《修羅》の権能を発現し、戦場に認められた17歳の『鬼種』。
鬼種とは、額に角を持つ人種であり、身体能力が非常に高い。
「全然滾んない」
和門は魔物の死体の上で赤い瞳を爛々と輝かせながら、退屈そうに呟いた。その手に持つ刀は血の一滴も付いていなかった。
「ひ、柊君、そろそろ帰還しよう」
月を見ながら1人耽っていた和門に声がかかる。
振り返ると、和門のお目付役の飯沼 健一が、少し怯え気味でいた。健一も同じ鬼種であるが、目の前の少年は同じ鬼種とは、到底思えない。
「飯沼さん、でも、僕不完全燃焼ですよー」
これだけ、殺してなお、足りないと言う少年に健一はドン引く。
「いや、でも、お腹減ったでしょ? 休まないとダメだよ」
心を偽り、愛想良く、諭すように言う。相手は現人神。流石に、いきなり切り掛かってこないと思うが、気を悪くし、殺されるなんてことは、なくはない。
年は自分より10歳近く離れているが、実力の差は圧倒的だ。どうしたって勝てない。警戒して当然なのだ。
「えー、疲れるようなこと何もしてないよー」
和門は抜き身の戦場を振り回しながら、自分は平気だと言う。確かに、若さ故か、権能の力か、和門は疲労を感じさせない。これだけの魔物を殺したのにも関わらず。
健一も和門の戦闘をサポートするべく、行動を共にするが、いざ、戦闘が始まって見ると全くといって役に立っていなかった。
《修羅》の権能と戦場。2つの力を持つのだから。《修羅》は体を戦闘に特化させるものだ。その間は目が赤く染まら、戦いの事しか考えられなくする。そして、最強と名高いブレイド、戦場。空間を断ち切ったり、転移したりと、出来る能力を持つが、使い手に選ばれる条件が厄介なのだ。《修羅》、もしくは、その亜種の権能を持つ者だけが、振るう事を許される。
過去にこの2つを持った現人神が1人いた。唯一、最強の現人神ーーゼンイ•クラークを無傷で殺すことに成功した。そんな、最強を超えた現人神と同等の存在が、ここにいるわけだ。
「それにほら、血の匂いに釣られて、おかわりが来たし」
瞳がより強く、赤く血のように輝く。
「ちょっーーー」
健一が止まるより速く、和門が動き出す。《修羅》によって、強化された身体だ、健一には追いつけない。
見てるだけだと、健一も経つ背がない。なので、自分に出来ることをやる、と、意識を切り替える。
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走る。疾くーーーー。
森の木々を避けながら。
「みーっけ」
和門が嗤う。腰に刺されていた、鞘から抜刀する。綺麗に波打つ刃紋を持つブレイド、戦場を。
『エンゲージ。 これより、蹂躙を開始する。 汝に、敗北は許されない。 忘れるな、我を使う以上な』
戦場が、頭に直接語りかけてくる。ブレイドは死んだ勇者の残留思念を持つとされている。この意思が武器が人を選んでいるのだ。
その中でも戦場は特に、我が強い。
「五月蝿いなー。 黙ってつかわれろよ」
抜刀するたびに、言ってくるのだ。それが、かなりうざかった。
戦場の力、『縮地』。空間を転移する能力を使い、敵の頭上から、奇襲をかかる。
確認できた魔物は《紅舌》。その名の通り、長い紅色の舌を持つ魔物だ。こいつは3メートル近い身体と硬い皮膚により、耐久性がある。光魔法以外の魔法耐性もあげられる。数は3。
並んで、木々を薙ぎ倒しながら、進む。
そんな、厄介な《紅舌》の首に戦場を振り落とす。
すっと、それはまるで、豆腐のように簡単に切れた。
これこそが、戦場の真価。空間ごと物体を一刀両断する、防御困難な斬撃。
《紅舌》は声を上げることなく、絶命した。
「まず、一匹」
縮地を使い2体目の背中に転移する。
「うっおーーっ」
だか、それを見越したように、もう一匹が舌を鞭の用にして、襲い掛かる。
和門は即座に戦場で迎撃しようとするが、乗っていた《紅舌》が、体を揺らす。
「ぐっーーー」
バランスを崩したため、右の脇腹に舌が打ちつけられる。
勢いよく、吹き飛んだ和門に追撃をかけようとするが、2体の《紅舌》の足元が、隆起する。
健一の魔法だ。直接の魔法は効果が薄いが、間接的なら、意味はある。
一時停止を余儀なくされた《紅舌》。その、眼前に和門が現れる。
「死ね」
縦に振り落とされた、大振りの一撃。それは、《紅舌》を左右に切った。
地面に着地すると同時に、振り向き、戦場を最後の《紅舌》へ向けて、投擲する。戦場は真っ直ぐ飛び、《紅舌》の眉間に突き刺さる。
舌が、地面に落ちる。絶命したのだろう。
それを確認し、戦場を手元に転移させる。
脇腹が、痛い。
『油断するからだ。 まだまだ、未熟だな』
戦場の声が響く。
「五月蝿い。 勝てたからいいの」
まだ、何か言う戦場を無視しする。
今のは楽しかった。そんなことを思いながら、健一の元へあるく和門だった。




