イヤな予感しかしねェ
――牧草地
仕留めたスノリゴスターは、グラームのおっさんに手伝ってもらい、血抜きをした。
腰と尾にロープをかけ、モミの木に吊るしておく。こうする事で、獲物が生臭くなることを防ぐのだ。ここを集合場所にしておいたのはラッキーだったな。コイツを吊るしておける大きさの木は、この辺りにゃあんまねェからな。
にしても、さすが牧畜をやってるだけあってグラームのおっさんの手際は鮮やかだ。よく見て覚えておかねば。
まーでも、ココでの昼食は止めといたほーがイイか? 血の匂いがちっとね。いや……そーいうのにも慣れにゃいかんか。
とりあえず血抜きをしている間に、情報交換だ。
何故ヤツがこんなところに出現したのかを確認する。
「連中の活動が活発になったのは、数日前からでね……」
グラームのおっさんは大きくため息をついた。
「なるほど……。狩ってた連中がいなくなったんで、安心してナワバリを広げだしたんですかね?」
「いや……狩りをし始める前でも、この辺りまでやって来ることはなかったそうだ」
ふむ……違うのか。
「それに……こんなに攻撃的になる事は、今までなかったんだ」
「そうなんですか……」
イヤな予感しかしねェ。
……グラーム一行に同行して狩りをしようと思ってだが、危険だ。ヤツらに加えてゾンビまで出た日には皆まで守りきれねェ。
とりあえず今日は俺達だけで荒地の方へ行き、状況を確認した方がいいだろう。
そうエスリーンに話してみた所、彼女の了解が得られた。
さて……血抜きも終わる頃かな?
俺は大八車を取りに行く。
そして血抜きを終えたスノリゴスターを積み込んだ。
積み込みを終えると、グラームのおっさん達にはこの辺りから一旦退去してもらう事にした。
まだ他にもいるかもしれねぇからナ。
ついでに他の羊飼い達にもそれを伝えてもらおう。
さて、行くか。
俺は大八車を引き、エスリーンとともに歩き出す。
「エスリーンさん、お気をつけて」
シェイルの声。
エスリーンは笑顔で手を振ってら。
チッ……
いや、大人げねェか。
「じゃあ、行ってくるぜ!」
俺も彼らに手を振ると、荒野へ向かった。
しばらく行くと牧草がまばらになり、かわって岩などが目立ち始めた。
この辺りから先が、本来のスノリゴスターの生息域だ。
さて……
気配を探る。
ぶっちゃけオオムカデんトキは気配なんてあんましよく分からんかったが、アイツらなら何とかなりそーだ。節足動物と脊椎動物じゃ違うんかねェ?
さて……
“見て”るな。どっかから。
が、出てこねェ。やっぱし警戒されてるか。
スノリゴスターは、一見ワニのよーな外観に反して狡猾だ。集団で狩りをする事もあるらしい。あるいは待ち伏せし、油断したスキに一気に襲うか。ヤツらは辛抱強く、相手にスキができるまで、じっと息を潜めていたりするとの事だ。そして一度襲いかかると、あっという間に目当ての獲物をかっさらって行く。
先刻のはある意味、不幸な遭遇戦だったのかもしれん。
野生動物だモンな。そーいうイミでは、とりあえずエモノらしきモノが通りかかったら襲うゴブリンやら山賊やらよりも厄介だ。
とはいえ、仕留めたスノリゴスターを乗せた大八車からは、布ごしとはいえ血の匂いが漂ってるハズだ。
さて、どーしたモンかね。
このままじゃいつまでたっても襲ってこねぇだろう。そして俺達が警戒に疲れた頃に、一気に来るハズだ。
ふむ……
とりあえず、大八車を岩陰に置く、そして俺とエスリーンはその側の手近な石に、並んで腰掛けた。
「……どうするの?」
「そーだな。ちっと早いケド、昼飯にしよう」
リュックから小さな包みを取り出し、彼女に渡す。
俺ももう一つ同じものを取り出した。
中には肉を挟んだ薄焼パンが入っている。金の鸚鵡亭で作ってもらった弁当だ。
本来は木陰に座って食べたかったんだケドね。羊とか眺めながら。
「こんな所で食べて、大丈夫? 襲ってこない?」
心配げなエスリーン。
「多分、来るよ。スキをみせたらね」
「え? ちょっと……」
彼女の戸惑いの声。
「大丈夫だって、俺がいるさ。それに……そうでもしなきゃ、ヤツらと遭遇できないと思うぜ」
「なるほどね。ちょっと落ち着かないけど……」
「しょーがないさ。次はもっと景色のいいトコロで食べよう」
「そうね……」
二人して薄焼パンを頬張る。
その間にも警戒を怠らない。
ふ〜む……
わずかに動きがあった。来るかな?
エスリーンに目配せ。
しかし、表面上は気にせず食べ続ける。
そして、
……来た!
三頭が岩陰から飛び出し、こちらに向かって来る。
「むぐぐ……」
立ち上がりつつ、残りを一気に口に放り込んだ。
っと……あぶね。危うくノドに詰まるトコロだった。
敵前で窒息死なんてアホみてェなコトにならんで良かった。
そして……
「“雷陣”!」
雷系のマップ兵……じゃねぇ、範囲呪文をぶちかましてやる。
「ガァアッ!」
「ゴアッ」
「ガッ!」
悲鳴をあげる三頭。
だが、それでも襲いかかって来る。この程度じゃヘコたれねェってか? それとも威力を抑えてたんで、ナメられた?
その矛先は……エスリーンだ。まぁ、確かに一見仕留めやすそーに見えるか。
だが、エスリーンは一人前の魔導師だ。しかも猫の身体能力を得た為に、近接戦能力も高い。
軽やかにバックステップ。そして、
「うぐ……“〜〜”」
ナニやら呪文を放つ。
つか、まだ口の中にパンが残ってたか。
彼女の掌に光球が現れる。そしてそれが弾けると、多数の光の矢が放たれた。どーやら“光矢”だったらしい。
それらは次々に三頭のスノリゴスターに襲いかかった。
逃げ惑う連中。
早速追撃……とはいかなかった。
エスリーンが制御ミスった光の矢が俺にまで襲いかかって来たのでそれを斬りはらう。
まー、モノ食いながらやりゃあ、ね。
っと、ンなコやってたら連中が逃げ出した!?
ケド、逃しやしねぇ!
すかさずナイフを取り出し、投げる。
早速投擲術スキルの出番だゼ。
空を切り裂き、ナイフが疾る。
そして、命中。脇腹に深々と突き刺さった。吹き出る血。そしてヤツは倒れ伏した。
おっしゃ!
……って、よく考えたら肝がいるんだっけか? 内臓傷つけてたらヤバくね?
ケド、今は気にしてるヒマはねェ!
もう一丁!
今度は背中。
だが、足は止まらん。
「エスリーン!」
「分かったわ! “光槍”」
彼女の放った光の槍が、背中にナイフが刺さったスノリゴスターの首筋を貫き、仕留めた。
今度はダイジョーブだったか。
さて、俺は……
二体目にナイフを投げた瞬間には走り出していた。そして三体目に追いすがる。
そしてヤツの前に回り込んだ。
「ガァッ!」
逃げられないことを悟ったか、ヤツは俺に牙を剥く。
だが、俺の敵じゃねェ。
かわしざまに首筋へ一撃をたたき込み、あっけなく終了だ。
おっしゃ! エスリーンも無事だし、言うコトなしだ。
とりあえずコレで、今日の食材採りは終了だ。
……食材採りは、だがな。




