もーガマン出来ん
――翌朝
ナンか寝苦しい?
つか、息が……
顔に何か暖かく柔らかいモノが押し付けられている。
あー、そうか。昨日は疲れ切ったせーで、エスリーンと抱き合ったまま眠っちまったんだっけ。酒も入ってたしな〜。
……あれ? っつーコトは、もしかして二人くっついたまんま!?
ならこのまンま続きをやってもいーよナ?
……って、ナンか感触がおかしくね? ちょっと、コレは……
目を開ける。
と、視界一面を覆う肌色の……って、
「ゴラァ! ヒトのカオに足を載せんなやァ!」
顔の上の足を退け、思わず怒鳴る。
どーしてこんなアリサマになったんだか。
いつの間にか、寄り添って寝てたハズのエスリーンの身体が上下入れ替わり、しまいにゃ俺のカオに足を乗っけてやがるとゆーね……。
『ああ。すまなかった。どうしても本能を抑えきれなくてね』
リラの“声”。
「なるほど……って、このカッコはお前のせいかヨ!」
『うむ。ヒトの身のまま寝るのは少々慣れなくてね。色々試してはいるんだが……』
「……分からんでも無ェ。が、ヒトのカオに足乗せるのは止めてくれんかな……」
『ダメか?』
「ダメに決まってんだろがっ!」
『ふむ、そうか……すまなかったな』
そう言うと彼女は身を起こす。そしてフットボードにもたれかかり……。
って、ナンで足開いたまま座るんだ!? 下着が丸見えじゃねーか!
もーそーいうのはイイよ。ここ数日イロイロ見てきたせーで、なーんか段々希少価値がさ〜〜。モロじゃなくて、チラっと見えるのがいーんだよね、チラっと。
それに加えてだらしないカッコもなァ。な〜んか休日にダラけてるオッサンみてェなんだよね……。
「……なぁ、そのオッサン臭いカッコ止めね?」
問うてみる。
『ふむ……これもダメか』
「男ならそれで構わんケドな。くつろぐならもうちっと……」
『なるほど。ヒトというのは面倒臭いモノだな』
彼女はまた身を起こす。その時、膝を立てたので、肌着の奥がはっきり見え……
あっ、ちっと透けてたっぽい? もしかして惜しいコトした?
後悔する俺をヨソにリラは横に来ると、背を向け身体を丸めた。
おっと、今度は猫っぽいな。
まぁ、俺もその隣で寝転ぶか。少々精神的に疲れたしな。
『ああ、そうだ』
と、その途中、いきなり彼女が上半身をヒネり、こっちを向く。
……身体が柔らかいのは分かったケドさ。下半身が向こう向いたまんまなのは、ちとホラーな光景だ。
『一つ気になった事がある。君の“影”についてなんだが……』
「ああ、そーいえば。妙な動きをしてたな」
『うむ。もしかしてアレは、“影人”ではなかろうか?』
「“影人”?」
『かつて天空神と大地母神により人族が創造された際、その地に落ちた“影”から生まれたモノさ。彼らは全ての魔族の始祖とされている訳だが……』
「まさか、ソイツが俺の影に潜んでいるとか!?」
『いや……そこまでは確証がない。そもそも影人は神話の時代の伝説でしかない。実在したかすら分からない存在だ』
「なるほど」
『しかし……“勇者”の試練の一つに、己自身の影と戦う、というものがあったそうな。もし君が勇者であるならば、いずれあの“影”は君の前に立ち塞がるかもしれないな』
「勇者、か……」
果たして俺は一体ホンモノの勇者なのか、それとも“力”を与えられただけのニセモノなのか……
思索の迷宮に迷い込みかける。
……が、
『それよりも、だ』
リラは俺の側へと完全に向き直った。
「?」
『昨晩の続きをしようじゃないか』
などと言いつつ脚を絡めてくる。
「……へ?」
『あそこでお預けされてしまったので、まだ少々くすぶっているのでね』
「え? いやちっと待て。そ、それ、エスリーンの身体だろ?」
『なに、心配ない。私の身体でもあるからな』
「おおおおおい」
いや、そーかもしれんケド。そーかもしれんケド、エスリーンの意志ってモンが……。
『ああ、分かっている。その“時”はエスリーンに代わるさ』
「なぁ……それって、ブン殴られるフラグじゃね?」
『ふらぐ? まぁ細かい事は良いじゃないか』
「俺が良くな……むぐぅっ!?」
リラが俺に覆いかぶさり、彼女の唇で口を塞がれた。そしてそのまま俺の唇を割って彼女の舌が入り込んでくる。
「む……ぐ……」
ちょっ……いきなりかよ。
そう思いながらも、俺も舌を絡める。
彼女の舌は猫みたいにザラついてて、ちっと痛い。半分猫だったな、そーいや。
確か猫ってこの舌で肉をこそぎ取って食うんだよな。舐められる場所によっちゃあ大惨事になりそーだ。つか、すでに俺の唇や舌もヤバげ。
気がつけば、いつの間にか彼女の手が俺の服の下に潜り込んでまさぐっている。
……にしても、ずいぶん手慣れてんのな。
『ああ。金の鸚鵡亭の主人夫妻のを参考にさせてもらった』
あの二人も、夜になるとベッドの上でこーいうコトやってんだな。いや、夫婦だからアタリマエか。……って、ソレ覗いてたんかよ!
『うむ。エスリーンが“眠った”後にな。なかなかに興味深いものだな。未知の分野ゆえに、研究の価値はある』
オイオイ……。
『ふふ……君のも熱いな。私も、さ』
彼女の手に導かれ、俺の掌が“そこ”に触れる。薄布越しにも熱く、じっとりとした感触が伝わってくる。
……スマン、エスリーン。もーガマン出来ん。後でいくらでも殴ってくれ。
俺は彼女を抱きすくめ、その上に覆いかぶさり……
かぶさり……
壁にかけた上着から、何やら音がした。布地越しに、チカチカ光っているのも見える。
……ナンでこーいうトキにスマホに着信があんだよ。
無視だ、ムシ! ちったあ空気嫁や!
『……例の人物なんだろう? 少し話しててもらえないか?』
と、リラ。
「え゛!?」
今度はこっちがお預けかよ!
『大丈夫だ。私は逃げないよ』
「……分かった」
俺は不承不承スマホを手に取った。そしてベッドの端に腰掛け、通話を開始する。
「もしもし?」
『やあ、私だ。調子はどうだい?』
「ああ、悪くないよ。何とかフィルズ・ロスタミも倒したしね」
『そうか』
満足げな声。ヤツはそこで、一旦言葉を切った。
『ところで……彼女との関係はどうだ?』
「どう、と言われても……。いままさに、これからハジメテ色々イタそうとしていた所だったんだが……」
『あっ……』
絶句するヤツ。
『そっ、そうか。邪魔してすまなかった。ところで、彼女にこの通話は……』
「あ〜、大丈夫、大丈夫。中断したら、スネて隣の部屋行っちまったからさ」
ちっとイヤミを言ってやる。
まっ、当の本人……の身体は俺の背中にくっついたまんま聞き耳を立ててるワケだが。
あっ……いまそこ弄んな。つか、薄い肌着越しに彼女の柔らかい身体が押し付けられて……。
ダメだ。ガマン出来ん。いーからとっとと通話切れや。
「まー、ナンとかなると思うケドな。今からまた口説いてみる」
『そ……そうか。健闘を祈る。では……』
俺の心の声が通じたのか、そこで通話は切れた。
『ふむ……君のいう通り、具体的な指示はない様だな。それにしても、正体の掴めん人物だ。君とエスリーンの仲を気にしているというのは、いかなる意図があるというのか……』
リラは思案顔だ。
確かにそこは俺も気になった。やはりエスリーンと俺を巡り会わせたのは、ヤツの意図なのだろう。
果たして、このまま……
『では、続けようじゃないか』
「お……おう」
俺の思索を半ば無視し、リラは俺の首に腕を回す。
仕方ねェ。本能には逆らえねェよナ? な?
俺は彼女を抱き上げ、そしてベッドに横たえる。その肌着に手をかけて捲り上げ……
が……
『……口惜しいが時間切れだ。今はエスリーンと楽しんでくれ』
と、リラ。ナンかホンットーに悔しそーナンだが。
そーか。エスリーンが目覚めるか。
って、ちっと待ってくれ。このシチュはヤバくね?
その姿勢のまま硬直し、一人パニクる俺。
そうする間にも、エスリーンが目を覚ましてしまったよーだ。
よく考えりゃ、取り繕う時間はあったな。もー後の祭りだが。
エスリーンはぼうっとした顔で俺を見上げる。
「あ……ソースケ、まだするの?」
「……は?」
“まだ”? どゆ事? てっきり怒ってブン殴りにくるかと思ったんだが。
「えっ……あのっ」
彼女は周囲を見回し……赤面した。
あ〜、そーいう夢を見てたんか。
「へっへ〜」
思わずニヤける。
一方の彼女は狼狽し、涙目となる。そして、
「……嫌〜〜! 忘れて!」
彼女は俺を突き飛ばした。
そしてヘッドボードで後頭部を打ち付ける。
あーやっぱしこーなるんですか、そーですか……。
その衝撃に、俺の意識は暗転した。
その直前、『正直すまなかった』というリラの声が聞こえた様な気がした……。




