俺は、一体?
“光槍”を喰らったヤツは、上体を大きくグラつかせた。
効いたか! なら……もう一発!
「喰らえ……“迅雷”!」
迸る雷霆がヤツの身体を打ち据える。
ヤツの四肢が、あらぬ動きを始めた。
と、またその腕のスライム肉塊が蠢き、俺に向かって牙を剥く。
「チィッ!」
すかさずそれを、サーベルで斬りはらう。
これは想定内。フレッシュゴーレム戦でもそうだったからな。
さて……そろそろトドメだ!
「……“氷弾”!」
俺の掌から無数の氷の矢が発射され、ヤツの肉体を貫いた。そして、まだヤツの体内にとどまっている“スライム”を凍りつかせていく。
これなら、表面だけ凍って中は生のままっつーワケにもいくまい。
にしても、我ながら凄まじい威力だな。圧倒的な魔力はホットスポットとリンクした恩恵なワケだが、感覚すら研ぎ澄まされている。そうでなきゃ、ヤツの“核”なんぞ見抜けなかったしな。
正直、クセになっちまいそーだゼ。ただでさえMOD持ってんのにな。頼りすぎんのは危険か?
さて、と。そろそろイイ具合か。“芯”まで凍っただろうか?
「今度こそ……“衝弾”!」
俺の掌から放たれた衝撃波が、ヤツの胸の中央に命中した。
「ゴフォ!」
ヤツの叫び。
……どうだ?
「ゴォ……ガァ……」
ヤツは俺に向かって歩を進めようとする。
クソッ、まだ歩けるのか!
もう一撃! いや……
何かが砕ける音が響いた。そして、左腕が落ちる。
次いで、右手。
無理やり動こうとしたんで、中の氷が割れたのか。そして同時に肉や骨も砕けた、と。
そして右膝が砕け、その身体が地に崩れ落ちた。
「ガフッ!」
とうとうヤツの身体は衝撃でバラバラに砕ける。
「……やった、か。……おっと」
俺の目前に、フィルズ・ロスタミの首が転がってきた。
うげっ……生首かよ。
と、それは眼を剥き、俺を睨みつけた。そしてその口元に刻まれたのは、狂気の笑み。
『クク……ハハハ……』
ヤツの“声”が脳裏に響いた。
ゲッ、この状態でまだ生きてんのかよ!
『キサマの……その“力”。私と同じ……借り物の“力”、か。見て……おくがいい。これ……が、偽りの“力”に……溺れたモノの末路、だ』
「……」
末路、か……。
『私は敗れた。だが……』
「?」
『ただでは死なん!』
「なっ!?」
ヤツが口を開く。と、その中から“何か”飛び出した。
舌? いや……あれは、緑色の……槍か!
それは凄まじい速さで伸び、宙を走った。その先にあるのは……
マズい!
「……えっ?」
その先にいるのは、エスリーン。
サーベルで斬り払……ダメだ! 間に合わねェ……
しかし、
『油断大敵だな』
「!」
いつぞや聞いた“声”。
直後、俺の影が伸びた。
そして、それは実体を持った黒い刃となって空中へと伸び、“槍”を斬り払う。
『なっ!?』
斬り払われた“槍”の先端は床上に落ち、突き立った。しかしすぐさま形を失い、ゲル状の水たまりとなる。そして残りの柄も形を失い、だらしなく地面に伸びた。
『バカ……な。今のは!? そうか、貴様は……ゴハァ!?』
ヤツの絶叫。
直後、黒い錐状のモノがヤツの頭頂から現れる。おそらくそれは、床から突き出てヤツを貫いたのだ。
一体何が起きた!?
見ると、俺の影がヤツにまで伸びている。あの錐は、さっきの黒い刃同様、俺の影が変形したモノなのか。
と、見る間に錐は消失、やがて影も収縮し、通常の状態へと戻った。もはや勝手に動くこともない。
そして、フィルズ・ロスタミは事切れた。
その首は熔け崩れて緑色の粘液となり、やがては白煙を上げて消滅した。
後に残されたのは、床上の小さなシミ。
「……エスリーン」
「ええ……。“浄炎”」
彼女の呪文により、フィルズ・ロスタミや聖堂騎士だった“もの”は炎に包まれる。
そして、武器やわずかな骨を残し、消滅した。
あの、“声”。そして、影……
「俺は、一体?」
炎を見つめ、思わず独語した。
「終わった、の?」
炎が消えると、エスリーンはぽつりと呟いた。
「……とりあえず、親父さん達の仇は打てたし、当面の脅威は無くなった、だろう」
そう。当面は、だ。
アルセス聖堂騎士団はエルズミス大神殿へ対抗する為、新たな姫巫女を探している。もしエスリーンの存在に気付いたら、彼女を連れ去ろうとするだろう。
今回この塔に連中がやって来たのは、おそらくフィルズ・ロスタミを追討する為だ。
しかし、フィルズ・ロスタミが姫巫女候補を探している事は連中も知っているだろう。もしかしたら、それが誰かを勘付いた可能性がある。
もしその情報を駐屯地や本部まで届いていたとしたら?
おそらく連中は、草の根をかき分けてでもエスリーンを探すだろう。
「……ねぇ、ソースケ。私、一人になっちゃった」
「エスリーン……」
父や親しい人を殺され、今その仇も死んだ。
「……とりあえず、さ。今日はティシアさんの所に戻ろう。まだエスリーンにゃ帰る処もあるだろ? それに、金の鸚鵡亭とかもさ」
少なくともその二つの宿は、エスリーンのとっては数少ない知り合いのいる場所だ。
……おっと、もっと重要な人物(?)を忘れてたぜ。
「そーいえば、リラもいるじゃねーか。今はエスリーンと一体化してるけど、元はと言えば親父さんの使い魔。ある意味家族じゃね? とりあえず、リラを分離する方法を探すのも一つの手かもな」
「……そうね」
彼女は口元に、微かな笑みを浮かべた。
何にせよ、当面の目標みたいなモンはあった方がいい。
彼女にとっても、俺にとってもな。




