まだ俺が信用できんってコト!?
――翌朝
……お、重い。
また胸の上に何か乗ってやがる。
まさか、な。
目をあげる。と……。
『やあ、おはよう』
エスリーン……いや、リラが俺の上にいた。
「お……おはよう。でもさ……ナンで俺の上に乗ってるのさ」
『本能というモノさ』
「そ、そうか。……って、ねーよ! つか、乗ってると認識したら降りてくれよ!」
『ふむ……仕方ないな』
メンドくさそーに降りやがる。
やれやれ。やっと自由になった。
とりあえず、ベッドから身を起こす。
一方、リラは自分のベットに腰掛けた。
つか、寝間着のまんまで足組むなや。下着が見えてんじゃねーか。
……眼福、眼福。ケド、ちっと慣れちまった?
おっと、そーいえば。
「ちょっと聞きたいコトがあるんだが……いいか?」
『ああ。そう来るだろうと思っていたよ』
「ありがてェ。じゃあ、とりあえず……昨日のハリムのおっさんの話は覚えてるよな?」
『うむ。聞いていたぞ』
「そんなら話が早い。あのおっさん、信用出来そーか?」
『ああ。十分信用に足る人物だ。まぁ、少々融通がきかない所もあるがな』
「なるほど……」
まぁ確かに、いかにもな教師然とした人物だったな。小学校のトキの担任があんな感じだったな。ま、それよりちっとは人当たりが良さそーか。
「で、だ。兄弟子云々ってコトは、同じ師匠から学んでたんだよな。それって……誰?」
『ああ、魔女ヴァテンティーナだ』
おっと、いきなり大物が来たか。
ヴァレンティーナ。ゲームでは、勇者の仲間にして、熟練の魔導師。確か、魔導師組合の長だったっけか。今は出奔して行方不明らしーが。
「その人って……まだ存命?」
ゲームから十数年。万一ってコトもあり得るからな。
『ああ。もちろんだ。数ヶ月前にも姿を現したらしい』
へぇ、そーなんだ。
「その人とコンタクトは取れそう?」
ゲームで扱ったキャラと会うってのも面白そーだが。実際はどんなヤツなんかねェ?
『難しいな。非常に気まぐれな人物だそうだしな』
そのヘンはゲームの展開と同じか。
「あ〜、なるほど。まぁ、それは仕方ねェか。そーいや、その弟子の一人、アイーシャとかいうのが今は代行でギルドの長をやってるんだっけか?」
『うむ。今はエルズミスの大神殿にいるらしいな。あのお方と会いたければ、そこに行けば良い』
「なるほど……」
大神殿、ね。
姫巫女の住まう場所、か。勇者が任命される場所でもあるらしい。
行ける距離なら一度行ってみてもいーかもな。
「こっからどんぐらい?」
『そうだな……ここからだと、おそらく35ラン程か』
35ラン……1ランは約4kmだから、140kmってトコか……。
ちとホネだな。
転移魔法でも使えりゃ良いんだがな、と思ったが、もし使えたとしても、そこへいきなり転移とかは出来ねェらしい。
どーやらエルズミスみてェな重要な拠点は結界が張ってあるんで直接転移はできねェそーだ。万一のコトを考えりゃ、当たり前ェか。
魔王戦役みてェな緊急時には護符が発行され、それを持つもののみが転移を許されるとかいうハナシだ。勇者一行はそれを交付されてたってコトかな?
ふーむ。
いずれは行かにゃならねェだろーが、今はまだいーや。
「そーいやさ、勇者や他の仲間は現役なん?」
ゲームでのパーティのメンバーは、ヴァレンティーナの他には勇者ヴァルスラーナ、戦士アレオス、そして司祭ローベルトがいる。もう一人、選択次第で加わるヤツがいたな。
ソイツは名前は任意で決めて良いヤツだったか……。
ナンか、『この世界の秩序の外にある存在』とか言われてたな。もしかして、俺と同じ転移者?
いや……ゲームで付加された要素なのかもしれんか。ディフォルト名無かったし……。
勇者ヴァルスラーナは名門の出で、千年前に魔王を倒した勇者ヴェルザンドの末裔であるらしい。
戦士アレオスは西方リーマスの出身で、元は剣闘士奴隷。あらゆる武器を使いこなす、戦闘のエキスパート。
司祭ローベルトは若いながらも剣術と神聖魔法に長けた伊達男であったという。
『勇者ヴァルスラーナは……妻となった王女エレーネとともに旅立ったまま行方は分かっていない』
王女エレーネ。ガンディール王国最後の王、エルガルトの妹。そして、当代の姫巫女エルリアーナの叔母だ。もしかして……エスリーンの母!?
いや……父親はアルなんたらだっけか。まぁ、その後夫婦関係がどーなったかはワカランしな〜。
『戦士アレオスは故郷リーマスへ帰り、新たな王に仕えつつ、闘技場の元締めをやっているそうだ』
なるほど。元剣闘士奴隷だけにな。
「……新たな王?」
そーいや西方はどーなったんだっけか? 確かゲーム中だと、西の大国リーマス共和国が滅んでたんだよな。
『うむ。西方はいくつかの王国が現れ、徐々に再編が進んでいる。いずれ統一王朝が現れるかもしれん』
なーるほど。群雄割拠の時代が終わりそーなのか。
『司祭ローベルトは、現在エルズミスで大司祭を務めている』
「へぇ……」
ゲーム中だと女好きの伊達男。女絡みで問題起こして追放されるんじゃねーかなと思ってたが、今や最高責任者か。人ってのは変わるモンだねぇ。
ま、ゲームの設定だから、実際はどーだかワカランが。
「そういや、勇者パーティって、そんだけ?」
『女海賊ミーラナや剣士ユアンの事か?』
「あ……その辺はまたでいーや」
『? ……そうか』
その辺は、一時的に加わるNPCっぽいメンツだな。つまり、“もう一人”はいなかったのか。
まぁ、ゲームの登場人物については、今はこれぐらいでいーだろう。
それよりも、だ。
「ちと話は変わる。エスリーンの事なんだが……誰かから預かってたんだよな?」
ラスディンのおっさんが実の父親でないっつーんなら、アルなんたらあたりから預けられたってワケだよな? まさか、攫ったりとかはしてねぇだろーし。
『ウム』
「それって……誰か知ってるよな?」
『無論だ』
「……誰?」
『すまない。今は……言えない』
「って……ちっと待ってくれよ。まだ俺が信用できんってコト!?」
『正確に言えば……君の背後にいる者、だな』
「ああ、あの自称造物主の占い師?」
『そうだ。あの者は、君とエスリーンを利用し、何かをしようとしている様に思える』
「ナルホド。……じゃあ、もし俺がナンかやらかしそーになったら止めてくれよ」
確かにあの占い師は俺を異世界へと招待してくれた恩人だが、エスリーンに危害を加えるってんのなら話は別だ。
『ああ。そうさせてもらおう。君自身は、おそらく悪い人物ではないと思うからな』
おそらく、か。まぁ、仕方ねぇ。出会ってからそう日も経ってねェしナ。
「……頼むよ」
『うむ。……おっと、そろそろエスリーンが目覚めそうだ』
「お、おう」
また手痛い一撃を食わんよーに、身支度を確認。
おk。モンダイなし、か。
そしてリラが目を閉ざし……エスリーンが目覚めた。




