あの連中だな
――大通り
朝食を食べ終えると、俺達はリシュートの街を散策してみることにした。
念のため、昨日の戦闘の後に採取したフィルズ・ロスタミの血を使って“探索”を行い、この街にヤツがいないコトは確かめてある。
俺達は、リシュート市街を貫く大通りをぶらぶらと歩いていた。
「あれが、ミーラン劇場。五百年前、リシュートを根城に一大勢力を築いたミーラーン・ウルスにちなんだものよ。彼が築いた館の跡地に建てられたというわ」
彼女が指差す先には、石造りの巨大な建物があった。よくみると表に掲げられた看板には、行われている劇のタイトルらしきものが書かれている。
「なるほどな〜」
ミーラーン・ウルスとやらは、騎馬民族の英雄だそーな。リシュート首長家の末流から身を起こし、王にまでなったとか。
う〜ん、そーいうのは見習いたいねぇ。
「そーいえば、どういう劇が上演されてるんかな?」
「どうやら勇者と魔王の戦いを描いたモノらしいけど……ちょっと話の内容が変わってるみたいね」
「ン? 変わってる?」
「ええ……」
エスリーンは看板に書いてある煽り文に目をやった。
「どうやら相手は魔王じゃなくて、運命律で人間を縛る邪神みたいね」
「へぇ、邪神か〜」
ゲームのラスボスは魔王だったけど、そんなんもいるんか。
……あー、そーだ。邪神スアなんちゃらってのがいたっけ。その司祭もいたな。結局、本人(?)は出てこんかったケド。隠しボスなんかねェ? 確認してみるか。エスリーンが寝た後で……。
「ん? そーいえば運命を司るのは、女神アゼリアじゃなかったっけ?」
「本来は、ね。この邪神はその力を奪い、自らの為に使うとか。で、女神の加護を受けた勇者が邪神に戦いを挑むという話みたいね」
「なるほどな〜」
「どう? 見てみる?」
「そうだね。面白そーだ。……ん?」
何やら入り口あたりに人だかりが。何やら言い争う様な声も聞こえる。どうやら劇の内容についてらしいが……
「何かモメてるみたいね。あれは……聖堂騎士団!?」
「……あの連中だな」
劇場のスタッフらしき人物と言い争ってるのは、どうやら塔にやって来た連中の様だ。それが六人。塔に来た時は四人だったが、他にもいたのか……。
俺やエスリーンが見つかるとマズいか。
「……後回しにした方が良さそーだな」
「ええ……」
俺達はそっとその場を離れた。
あの連中の動向を探るのも目的の一つだったが……まさかこんなに早く遭遇するとはな。
それにしても……
「なんであの連中は劇にまでケチつけてるんだろうな」
「どうやら聖堂騎士団っぽい連中が悪役扱いされてるみたいね」
エスリーンは、いつのまにか劇のチラシを受け取ってる。そんなに観たかったんか。
「へぇ……」
「姫巫子を無理やり連れ去り、大神殿を乗っ取ろうとしたりとか」
「でも、それって……」
大神殿乗っ取りはともあれ、姫巫女を連れ去ったのは確かだしな。それに今、姫巫女の候補者を探してるワケだし。
……まぁ、いいか。
「とりあえず、次はどうする?」
「そうね……市場の方へ行って見ましょ」
「おう」
俺は彼女について、歩き始めた。
――市場
街の中心部にある広場には、多数の露店が店を連ねていた
織物や乳製品、農産物などが取引されている。
そこでドライフルーツ――味からすると、多分アンズだな、コレ――を買い、食べながら店を見て回る。
「これ、綺麗ね……」
エスリーンが、とある店の前で足を止めた。
鮮やかな織物が店頭に置いてある。
「よし、それを買おう。……おっちゃん、これ幾ら?」
「ああ、700ルピスだよ」
ふむ……ちと高い? こっそり“鑑定”を使うと、650ルピスが妥当な金額らしい。一見さんだからナメられた?
値切ってみっか。ケド、いきなり“鑑定”の値段を提示するのもアレだし。
「なぁ……こっちの青いのも買うんで、一枚680ルピスに負けてくんない?」
「う〜ん……分かった。じゃあ、持ってけ!」
「おう、ありがとな〜。じゃ、コレお代。また買いに来るよ」
「まいど〜」
へへっ、コッチの青いスカーフはティシアさんへのプレゼントだな。
「じゃ、コレ付けなよ」
赤い、花柄のスカーフを彼女の首に巻いてやる。
黒髪に白い肌。そして赤いスカーフ。やっぱし似合うな〜。
「ありがと」
彼女ははにかんだ笑みを見せた。
よしよし。
そうして見て回りながら、冒険に必要なモノを購入する。
――そして昼ごろ
……まぁ、こんなトコロか。
だいたい一通り見て回ったかな?
旅に必要なモノは大体手に入れたしナ。
周囲を見回す。
市場を囲む様に、いくつかの建物が立ち並んでいる。
一番目立つのは、青いタイルをふんだんい使った、ドーム状の屋根を持った神殿だ。高い塔が四本も建ってんな。規模はアルタワールの神殿といい勝負かもしれん。
広場を挟んでその向かいに建つのは、堅牢そうな、石造りの建物。領主の館だ。魔王戦役の際は、ここが魔王軍先遣部隊の司令部になっていたそーな。
悪魔王ヴォルザニエスやら魔竜王レスィードもココにいたんだろーな。
で、向かって右にあるのは、商業ギルド。交易商達の元締めだ。リシュートはこの辺りでも最大の交易都市だ。それだけに、このギルドの力は大きい。
……もし俺が異世界に来て初めて訪れた街がココだったら……他人の通行手形だって見破られていたかもな。城門にはギルドの職員とかいたし。ヤベぇヤベぇ。
そしてそれと対面にあるのが、ウスル・バーリ学院だ。哲学や科学、魔術なんかも教えているそーな。ちなみにエスリーンの父ラスディンも、ここで教えていた事があるらしい。
……ン?
とか言ってるうちに、見知った連中がやって来たな。
聖堂騎士団の連中だ。あの神殿へと入っていく。
神殿の門番は、ちと迷惑そうな顔だ。
あの神殿をリシュートでの活動拠点にしてんのかな?
っつーコトは、ここからも離れた方がいーかもしれん。一応用事はあったんだがな。また後にするか。
……にしても、腹減ったな。
「そろそろどこかで昼飯にしねェ?」
エスリーンに話を振る。
「そうね……この近くにオススメの店があるわよ」
「へぇ……どんな?」
ヤなヨカンがするんだケドな〜〜。
「サソリの丸焼きなんかもあるわよ」
「オウ……」
仕方ねェ。剛に入っては郷に従え、だ。




