ア゛ッー!
――部屋
『一つ、確認しておきたい事がある』
リラの“声”。
俺は思考を中断し、彼女の方を見る。
『君は、この世界の人間ではないな?』
「ああ。俺は……地球という場所から来た。こことは別の世界の人間だ」
『ふむ……』
しばしの沈黙。
ややあって、再びリラが口を開く。
『チキュウ、か』
「ああ」
『異世界人が運命律を改変する“力”を与えられて、この世界にやって来たという事か』
「そうなるな」
『では、その“力”を与えたのは何者だ? チキュウの神なのか?』
「いや……」
どこまで話すべきか?
……とりあえず彼女に対しては、ある程度情報はオープンにしておいた方が良いかも知れん。『しばらく見させてもらう』とか言ってたし、その方が信用されるだろうしな。
それに、運命律云々の話で言えば、ココでリラと話しているのも必然なんだろう。多分。
「……ヤツは、この世界の創造主を自称していたよ」
『! となると……まさか、アルジェダート様か? いや……運命律をつかさどるのは、アゼリア様の方か……』
「いや……分からんケド。名前までは聞いてなかったし。でも、男だった」
『ふむ……』
リラは考え込んだ。
アルジェダート……天空神か。創造神話の最初の方に、チラッと出てくるだけのカミサマか。まさかソイツが俺達の世界へと来ていた、と?
でアゼリアは大地母神であると同時に、運命を司る神だ。確かに俺の“力”は彼女のものに近いのかも知れん。だが、彼女自身はひと月ほど前にエルズミス大神殿に姿を現わしているってハナシだな。
ってコトは、ワザワザこんな手の込んだコトするハズもないよなぁ……。
ああ、そーいえば。
「確か、アルセス聖堂騎士団の連中が言うには、その二人のカミサマを作った真の造物主がいるんじゃなかったっけ?」
『むぅ……そう言う主張をしていたな、連中は』
例えば女神アゼリアは造物主の使徒アゼルとされたりしてたな。どうやら連中の教義は一神教っぽいので、それに合わせて神話を改変したんだろう。無論、悪魔とかいうコトにしても良かったんだろーが、ああやって当人(?)が姿を表す以上、そう言う扱いにするワケにはいかんかったんだろう。
『……とりあえず、その人物が何者かは置いておく。だが……もし次に連絡があった際には、私のことは伏せて置いてもらえるとありがたい』
「……わかった」
俺だってヤツを完全に信用してるワケじゃない。それに、どーやら失望させちまったワケだしな。切り捨てられるトキの事を考えておいたほうが良さそーだ。
『ありがたい。それに、エスリーンにもな。おっと……どうやら、エスリーンの意識が覚醒しつつある様だ。またの機会に話そう』
「ああ、わかったぜ。じゃあ、またな」
そして“リラ”は目を閉じ……エスリーンが目を覚ました。
「え? 私、何でここに……」
戸惑った様に周囲を見回す。
「ああ。食堂で酔いつぶれちまったんだ。だから、この部屋まで運んで寝かせたんだ」
「そう……ありがとう。でもね」
「ン?」
この時、俺は自分のカッコを失念していた。
そう。パンツ一丁である。
「そんな格好で何するつもりよ、この変態!」
「あっ!? いやこれは着替えch……って、待てよ! ア゛ッー!」
彼女の投げつけた枕は、あやまたず俺の股間を直撃した……。
凄まじい痛み……いや、衝撃に、思わず悶絶。
クリティカルヒット。この世界に来て受けた最大のダメージだったかも知れん……。
――数分後
「お゛お゛お゛……」
俺は股間を押さえて脂汗を垂らし、床上に倒れて悶えていた。
「あ……あれ? ちょっと……。ふざけてるの? 枕が当たったくらいでさ」
エスリーンが近寄る。
が、俺に反応する余裕はない。ひたすら床上を転げまわるだけだ。
柔らかいモノがかなりのスピードで直撃し、そのエネルギーが全て標的に余すコトなく伝えられたワケだナ。
……と、アホなコト考える。
ショージキ、そんなコト考えとかんと、この痛みに耐えられん。
『感じるな、考えろ』ってヤツだ。
……あ、逆か。
と、いうか、例えMOD持ちでもココは強化されんのか……。
床に突っ伏し、腰を叩いて回復を待つ。軽くジャンプした方がいーのかも知れんが、エスリーンのいる前、しかもパン一でやったら、また枕を投げつけられかねん。もー一発喰らえばショック死するかもな……。
「ご……ごめんなさい。そんなに痛かった?」
彼女はようやく事態を理解した様で、蒼い顔になる。
「な……何とか、大丈夫、だと、思う……」
う〜む、転げ回ってるウチに、幾らかマシになってきた?
もうしばらくすれば、何とか歩ける様n……
「“治癒”かけてあげるから、ちょっと見せなさいよ。もし後遺症が残ったら……」
エスリーンが俺の肩を掴んだ。
よ、余計なコトを!
「い、いや……大丈夫さ。ほっといても治るからさ」
「放っといてもって……大ごとになったらどうするのよ!? 私がやったんだから、私が責任もって治すわ」
「い、いいって! 一晩寝ればダイジョーブさ!」
って、パンツを引っぱんな!
「待ちなさい! もう……こうなったら、“麻痺”!」
「え゛……あ゛あああ〜〜!」
身体が動かなくなった。
いや待て。俺は魔法が効きにくい体質のハズ。あ……魔導石使ってやがる!?
ぜ、絶体絶命!?
「さあ、観念なさい。それじゃあ……」
俺のパンツに手ェかけやがった!
ナンか目が怖いんスけど。つか、俺の貞操がヤバい!?
「あの〜、二人とも。仲がいいのはわかるけど、もうすこし静かに……」
おっ、救世主登場!?
「ティシアさん、コイツを何とか……」
「あらあら。エスリーンって意外と積極的だったのね」
爆弾投げ込みやがった!?
「ちょっ……違いますって!」
そこでエスリーンは、自分のしていることに気づいたよーだ。
「って、嫌〜〜」
「うをっ!?」
彼女は真っ赤な顔で、俺を突き飛ばした。
麻痺した身体では、踏みとどまることもできずに吹っ飛ぶ。
そして、ベッドのヘッドボードの角でコメカミを打ちつつも、『股間じゃなくて良かった』と安堵する俺がいた……。




