って、そっちか〜い!
――夕食
……そーいやすっかり忘れてたよ、ココの名物料理のコト……。
ナンでもその昔、神魔王バルドスなる輩が現れてこの世界を蹂躙したらしいが、どうやらソイツはイナゴだかバッタだかの化身だったそーな。
で、ソイツを天空神アルジェダートと大地母神アゼリアが時空の彼方に封印したとか。
ヤツが現れたのは、セルキア神殿あたりだったという。
そのせいか、この辺り一帯では時折イナゴの害が発生するらしい。
特に乾燥地帯であるリシュートなんかは被害が甚大だ。なので魔導師あたりも動員してイナゴを積極的に捕らえてるそーな。
で、その副産物がこの名物料理ってェワケだ。今やこの街の貴重なタンパク源ってコトらしい……。
いーんだか、悪いんだか。
今日の夕食に出たのは、イナゴのフライ――フリッターっぽい?――だった。
ちなみに昨日はグラタンっぽいヤツの中にイナゴが入ってたな。形状を意識せずに済んだ分、そっちの方がマシだったか……。
確かにここのイナゴ料理は美味いんだよ。見た目で精神耐久度はケズられるケド……。
でもやっぱし、エビフライとかエビ天の方がいーな。あと、エビグラタンとか。
海の方に行きゃ、似たよーなモンがあるかもしれん。そー考えると食ってみたくなった。
もし機会があれば海に行ってみよう。行くんなら元ガンディール王国領の東側かな? その辺は島がたくさんあったから、漁業も栄えてるハズだ。
で、腹一杯海の幸を食べるんだ。エビ天みたいのもあるといいな〜。小さいのだったらかき揚げとかもいいかもな。
いや……もしかしたら、食感でイナゴフライのコト思い出して精神耐久度がケズられるかもしれんケド。
とりあえず極力形状を意識しないよーに口へ運びながら、酒で飲み下す。
白濁した、ちょっと酸味のある酒だ。ちとヨーグルトっぽい? と思ったら、ヤギの乳で作った酒だそーな。
ふと見ると、エスリーンがぐいぐい飲んでやがる。
まぁ、親父さんのコトもあったしな。
……と思ったが、飲みすぎじゃね? 顔が真っ赤だぜ。
「な、なぁ……それくらいにしといたほうが良くね?」
「あによ〜〜。何かモンクあるっての?」
って、絡んで来やがった!? よく見りゃ目が据わってやがる。
「と、とりあえずさ……今日はそれぐらいにしねぇ?」
「あたしに指図する気? このヘタレ」
「うぐっ……」
そ、そりゃトドメを刺すの躊躇っちまったからヘタレにゃ違いねェケドさ〜。
エスリーンは俺から目をそらす。
「大体、アタシが寝ぼけてる時に胸触ろうとしたりさ〜。もうちょっと堂々とやったらどうなのよ」
「……は?」
って、そっちか〜い!
て、いや待てぃ。
周囲の視線が生暖かい。
とっ、とにかくだ。
「へ、部屋に戻ろう。今日は疲れてるからさっ」
「カレシ、ビビってる?」
「ビビってなんかないっス。ビビってなんか……」
つか、ナニ言ってるんスか、ティシアさん。いや、ヘタレだけど。ヘタレだけどさ……
「と、とりあえず……おやすみなさい〜〜!」
俺はエスリーンを連れて、逃げるよーに食堂を後にした。
あー、情けねェ。
――部屋
俺はエスリーンを彼女のベッドに寝かせると、俺も自分のベッドの端に腰を下ろす。
ふぅ……今日は色々ありすぎて、精神的にも疲れたな。
と、ポケットに振動を感じた。スマホに着信があったのか。
あの占い師だな。
取り出し、通話。
「はい」
『やあ、今は大丈夫かい?』
やはりヤツだ。
「ああ、誰にも見られてないよ」
エスリーンが寝ているのを確認し、答える。携帯電話を知らない人が通話中の姿を見たら、アタマを疑われちまうしな。
『そうか。ところで、調子はどうだい?』
「まずまずって所かな? まぁちっとやらかしちまったケドね」
『ほう? 少し今までの経緯を聞かせてくれないかな?』
「ああ」
俺はフレッシュゴーレム退治後からのコトを、かいつまんで話した。
ヤツはそれを、時折満足げな相槌を打ちつつ聞いていた。が……
俺がフィルズ・ロスタミにトドメを刺し損ねたコトを話した途端、相槌の声にイラつきの色が混ざった。
マズいと思ったのか、スグに『気にする事はない』とフォローして来たが、明らかに失望してるよなぁ。
「……とりあえず、現状はそんなトコロだよ。フィルズ・ロスタミあたりとはいずれ戦うことになると思う。その時は、今回の様なヘマはしない」
『そうか。期待しているよ。ではまた』
そこで通話は切れた。
切れる間際、『チッ』という舌打ちが聞こえた気がする。
気のせいでありゃあいーんだがな……。
あ〜あ。
……なんか、疲れた。
こんな時間にもう眠くなって来た。多分相当疲れが溜まってたんだろーな。
とりあえず、俺も寝るか。メンドいコトは明日にしよう……
俺は寝間着に着替え……
『ちょっといいかい?』
「は、はいィ!?」
エスリーンの“声”。
パン一状態で彼女の方を見る。
見ると、ベッドの上で、彼女が身を起こしていた。
「お、おい、大丈夫か? って、ちっと待て! すぐに着替えるからさ」
『いや、別に構わないよ』
「って、俺が構うんだよ! って、アレ? 今の“声”って……」
まさか、エスリーンじゃなくて……
『ご名答。私はリラさ。ちょっとこの子の身体を借りている』
「なるほどな。もしかして、エスリーンの親父さんが意識を残してまでやろうとした事ってのは……」
『ああ。私に必要な“力”と情報を渡す為さ。この子を護る為のね』
「へぇ……どんな情報?」
『今は……まだ言えない』
「まっ、そーだよな」
今の俺は、何処の馬の骨とも知れないヤツだしなァ……。
『そうまで卑下する事はないさ。むしろ警戒しているのは、君の持つ“力”だからね』
「へ? この“力”? どーいうコト?」
『君の“力”は……あまりに強大だ。ある意味神々に近いと言えるだろうな。その運命律を改変するという能力は』
「そーなのか……」
まぁ、予想はつく。自称造物主の言っていた事だしな。まぁコレで客観的に評価されたワケだが。
『故に、君が如何なる存在かをしばらくの間見させてもらおうと思う。真に君が、この子を託し得る存在かどうかを』
「ああ。わかったよ」
俺は頷いてみせる。
『うむ。……ところで、一つ聞きたい。先刻、四角い板の様なモノで話していた相手は……君に“力”を与えた人物かい?』
「……そうだ」
誤魔化そうかとも思ったが、そーいうワケにもいくまい。
『なるほど。君はその人物の意向に沿って動いている訳か』
「意向、なのかな? 特に具体的な指示とかされたコトはないケドね」
『ふむ。だが……運命を操る“力”を付与する事が出来る存在。故に、君の周囲で起こる出来事は、その存在の意思が働いている可能性もあるな。我々の出会いも、その一つなのかも知れん』
「なるほどな」
その可能性は、薄々感じていた。通行証に始まり、フレッシュゴーレム退治にエスリーンとの出会い。俺に都合のいいコトばかり起きてるな。
……と、考えるとフィルズ・ロスタミとの戦いもその一環? つーコトは、討ち漏らしたのはマズかったか。
にしても……ナンか複雑だ。
“力”を与えられたばかりかここまでお膳立てしてもらって、ソレは俺の活躍といえるんかいな?
俺は思わず考え込んでしまった。
その姿を、リラはただ無言で眺めていた。




